今回の依頼品はMontblancのNo.149の現行モデル・・・に装飾をほどこしたもの。一世を風靡した蒔絵シールの発展型かな?
数年前に蒔絵シール(本来は携帯装飾用)が登場した時は、競って軸に貼ったものじゃ。特に風神・雷神が人気!暗いところで見せると、かなりの萬年筆ヲタクでも両手を添えて持ち、息をのむほど・・・精巧に出来ていた。
それにくらべるとこちらはチャームのようで、女学生好み!それをNo.149のキャップに貼る【おじさん】というのはイケテル!
貼り方がくどくないのも良い。拙者がやったらキャップをチャームで埋め尽くしてしまったことであろう・・・最悪なセンスなのでな。
症状は本人曰く【縦が掠れる+インクフローが悪い+書き味に気品がない】ということ。
【書き味の品格】を言い出したのは、この依頼者が最初ではないかな?この後で、拙者が【上品な書き味=スイートスポットから生まれる書き味】と定義したのじゃ。すなわちこの依頼者こそが【書き味の品格】の提唱者・・・かも?
このNo.149のペン先には調整が施されている。おそらくは依頼者自身が調整したのであろうが、なかなか上手!面取りの仕方などうまいものじゃ。
それでも書き味に納得がいかないのはインクフローが悪いから。書き味向上に効果があるのは;
1.左右の段差調整(書き癖に合わせて段差を付けること)
2.インクフローの向上(インク量を増やして筆圧を下げさせること)
3.研ぎ(筆記角度に合わせてペンポイントを研ぐこと)
の順!
研ぐまでもなく書き味向上は出来る。拙者は見映え重視なので【左右の段差調整】はやらないが、持ち方の特殊な人には最も効果がある。今後の研究課題じゃな。
依頼品のペン先は多少お辞儀が強く、ペン先のスリットが詰まりすぎている。こういう場合はペン先を抜いてお辞儀やスリット間隔を調整する必要がある。
ということで、専用工具でピストン機構を後ろから外したら・・・
弁の部分が外れてピストン機構だけが後ろに抜けた。弁がピストン内に残ったわけじゃ。左画像の右下の白い弁が上のピストン内に残って取れなくなってしまった。こういう事故は初めて!
ペンクリ会場では手の施しようが無いので自宅に持ち帰ってピストンを歯科器具で引っ張り出した。
ペン芯は樹脂製なので、エボ焼けは無い。しかしかなりのインクカスが付着している。
またペンポイントは背開きで、ペンポイントの下側が衝突している。
通常はペン先がお辞儀していると腹開きになる。ところがお辞儀していても背開きというのを、少ないお辞儀で腹開き気味に変えるのは結構時間がかかる。幸いにして18金ペン先で、鍛錬を施していない現行品は比較的変形させるのが容易。これが1970年代のペン先だったら・・・とぞっとした。
ペン先調整をする人間にとっては現行ペン先は楽!少し力をかけるだけで容易に思い通りに形を変えてくれる。調整する立場から言えば、頑固なVintage ニブよりも現行品の方がはるかに素直でカワイイ!メーカーも加工のしやすさを考えて素材を変えていったのじゃろう。
こちらが清掃し、形を整えてスリットを若干拡げた状態のペン先の表裏。
いつ見ても首軸内部が長いNo.149のペン先には感心してしまう。調整がズレにくいという面ではNo.1の萬年筆じゃ。さすがは萬年筆の王者を自認するだけの事はある。
上が元々ついていた弁であるが、非常に外れやすい。樹脂のストッパーが滑りやすくなっていたので、下のNo.146(についていた)弁と交換した。
1970年代以降のNo.149とNo.146は胴軸内径は同じで、尻軸を除くピストン部分は共有出来る(太さを揃える金の輪は必要だが)。従って時代の違うNo.146の弁をNo.149に流用することも出来る。下のタイプの方が外れにくい構造になっているのでこちらを採用することにした。
こちらが18K-Bのペン先を首軸にセットした状態。惚れ惚れするほど美しい!
上から三番目の画像と同じペン先とは思えないじゃろう?書き味はともかく、美しく仕上がった時は満足感が高い。今回はひさかたぶりの大成功じゃ!
【 今回執筆時間:5.0時間 】 画像準備1.5h 調整2.0h 執筆1.5h
画像準備とは分解し機構系の修理や仕上作業、及び画像をスキャナーでPCに取り込み、
向きや色を調整して、Blogに貼り付ける作業の合計時間
調整とはペンポイントの調整をしている時間
執筆とは記事を書いている時間