今回の依頼品はPelikan M250のバーガンディー。1997年の輸入筆記具カタログを確認すると、M250とM200との差はペン先が14金ペン先か金鍍金ペン先かの違いだけで、素材も形状も全て同じ。M250が2万円で、M200が1万円だった。
ちなみに1993年の輸入筆記具カタログには、M250は12金ペン先付きで2万円、M200は金鍍金ペン先付きで1.5万円だったので、実質的な値下げになっている。
不具合状況は・・・筆記中にペン先のスリットからインクがドクドク出てくる事。従ってインクの出を絞って欲しい・・・というものだったが、交渉の結果、生贄ということになった。
ペン先は14C-F。当時の日本で最も売れたであろう太さ。
カリカリと紙の繊維に引っ掛かってイライラした記憶がよみがえってきた。けっこう調整になじまないペンポイントだったような記憶がある。ペンポイントの素材自体が、現行品と比べると硬いと思われる。
拡大してみると、ペンポイントの腹側が衝突している。いわゆる背開きという状態。
細字で背開きというのはあまり記憶にない。ペン芯が反りすぎているか、ペン先自体が上に反っているとしか考えられないのだが・・・
左図のように、ペン先もペン芯も正常な状態にあり、反ってはいない。一見すばらしい状態にセットされているように見える。
拙者がセットしたとしてもこの位置にする。Pelikanのペン先が最も美しく見える位置じゃ。
ペンポイントを拡大してみると、かなりペーパーで削っている。見映え重視で、背中側も削っているのがわかる。試しに背中側で書いてみると【書き味最高】。実に気持ちよく書ける。
一方で通常の持ち方で書くと、なんとも平凡な書き味。細部を確認すると、形状は揃えてあるが、エッジは調整していない。そのせいで筆記中に振動が発生し、インクがドクドク出るのかも知れない。
ちなみにペンポイントの表面処理もザラザラで、左から右に高速筆記すると、【ピーピーピー】と良く泣く!ペン先が薄い初期のニブじゃ!これは貴重!
左右の段差も許容範囲。そういえば、依頼者はWAGNERの中でも3本の指に入るほど萬年筆を寝かせて持つ。ペンポイントはその筆記角度に合わせて研がれている・・・
どうやら、どこかのペンクリで調整を受けていたものであろう。忙しいペンクリでは背開きなど直している余裕はないからな・・・
さらに詳細にチェックすると、ペン先とペン芯のカーブが合っていない。ペン芯先端とペン先は密着しているが、その他の部分では両者が離れている。このあたりにインクドバドバの原因があるのかもしれない。
こちらがペン芯とペン先のカーブを合わせたあとのニブ。カーブを合わせる作業は両者に対して行う。
ソケットから外して、ペン芯は熱湯に浸して変形させ、ペン先はツボ押し棒で曲線を変えていく。かなり地味な作業だが、これで筆記感覚はかなり変わってくる。
こちらがペン先をペン芯にセットする前のペン先先端部の拡大図。後に出てくる【首軸に装着後のペン先先端画像】と比較すれば、ペン芯とペン先の位置関係が把握できるので参考にされたし。
普遍的な位置関係ではなく、あくまでも拙者が、今時点で、最も好きな位置関係というだけで、調整師の好みもあるし、来年も同じ位置が好きかどうかは保証の限りではない。
これが首軸にセットした状態。首軸にバリがあるのがわかるかな?高級モデルのM400にはこういうバリは出ていない。このあたりの仕上げの手間が販売価格に影響しているのかも知れない。
拙者は素材で値段が違うよりも、仕上工数で値段が違うという方が好き!
仕上げは思いやり。そして思いやりが無料と考えるのは間違い。高いお金を払ってくれる人にしか、思いやりは与えないというのがフェア! オバマ氏みたいな考え方かな・・・
こちらがペン芯セット後の状態。この位置にセットすると、横からの見映えがよい。
ペン芯をよりペンポイントに近い位置にセットする調整師もいるが、それは好みの問題。通常の筆記であれば、この位置でも筆記中にインクが切れることはない。インクは毛細管現象だけではなく、ペン先が開いたり閉じたりすることによるポンプ運動によっても供給される。この個体のような柔らかいニブであれば、ポンプ運動の力はさらに大きい。
その供給能力に対して、背開きのニブでは、紙に押し出すインク量が足りなくて、結果としてペン先上にインクがたまったのではないかな?まったくの想像だが・・・
はたしてドクドクが直ったのかどうかもわからない。拙者の筆記ではドクドクが発生しなかったのは事実だがな。
今回執筆時間:4.5時間 】 画像準備1.5h 調整1.5h 執筆1.5h
画像準備とは分解し機構系の修理や仕上作業、及び画像をスキャナーでPCに取り込み、
向きや色を調整して、Blogに貼り付ける作業の合計時間
調整とはペンポイントの調整をしている時間
執筆とは記事を書いている時間