2008年02月13日

水曜日の調整報告 【 Pelilam M250 バーガンディー 切り割りからドクドク 】

2008-02-13 01今回の依頼品はPelikan M250のバーガンディー。1997年の輸入筆記具カタログを確認すると、M250M200との差はペン先が14金ペン先金鍍金ペン先かの違いだけで、素材も形状も全て同じ。M250が2万円で、M200が1万円だった。

 ちなみに1993年の輸入筆記具カタログには、M250は12金ペン先付きで2万円M200は金鍍金ペン先付きで1.5万円だったので、実質的な値下げになっている。

 不具合状況は・・・筆記中にペン先のスリットからインクがドクドク出てくる事。従ってインクの出を絞って欲しい・・・というものだったが、交渉の結果、生贄ということになった。

2008-02-13 02 ペン先は14C-F。当時の日本で最も売れたであろう太さ。

 カリカリと紙の繊維に引っ掛かってイライラした記憶がよみがえってきた。けっこう調整になじまないペンポイントだったような記憶がある。ペンポイントの素材自体が、現行品と比べると硬いと思われる。

2008-02-13 03 拡大してみると、ペンポイントの腹側が衝突している。いわゆる開きという状態。

 細字で背開きというのはあまり記憶にない。ペン芯が反りすぎているか、ペン先自体が上に反っているとしか考えられないのだが・・・

2008-02-13 04 左図のように、ペン先もペン芯も正常な状態にあり、反ってはいない。一見すばらしい状態にセットされているように見える。

 拙者がセットしたとしてもこの位置にする。Pelikanのペン先が最も美しく見える位置じゃ。

2008-02-13 05 ペンポイントを拡大してみると、かなりペーパーで削っている。見映え重視で、背中側も削っているのがわかる。試しに背中側で書いてみると【書き味最高】。実に気持ちよく書ける。

 一方で通常の持ち方で書くと、なんとも平凡な書き味。細部を確認すると、形状は揃えてあるが、エッジは調整していない。そのせいで筆記中に振動が発生し、インクがドクドク出るのかも知れない。

 ちなみにペンポイントの表面処理もザラザラで、左から右に高速筆記すると、【ピーピーピー】と良く泣く!ペン先が薄い初期のニブじゃ!これは貴重!

2008-02-13 06 左右の段差も許容範囲。そういえば、依頼者はWAGNERの中でも3本の指に入るほど萬年筆を寝かせて持つ。ペンポイントはその筆記角度に合わせて研がれている・・・

 どうやら、どこかのペンクリで調整を受けていたものであろう。忙しいペンクリでは背開きなど直している余裕はないからな・・・

 さらに詳細にチェックすると、ペン先とペン芯のカーブが合っていない。ペン芯先端とペン先は密着しているが、その他の部分では両者が離れている。このあたりにインクドバドバの原因があるのかもしれない。

2008-02-13 07 こちらがペン芯とペン先のカーブを合わせたあとのニブ。カーブを合わせる作業は両者に対して行う。

 ソケットから外して、ペン芯は熱湯に浸して変形させ、ペン先はツボ押し棒で曲線を変えていく。かなり地味な作業だが、これで筆記感覚はかなり変わってくる。

2008-02-13 08 こちらがペン先をペン芯にセットする前のペン先先端部の拡大図。後に出てくる【首軸に装着後のペン先先端画像】と比較すれば、ペン芯とペン先の位置関係が把握できるので参考にされたし。

 普遍的な位置関係ではなく、あくまでも拙者が、今時点で、最も好きな位置関係というだけで、調整師の好みもあるし、来年も同じ位置が好きかどうかは保証の限りではない。

2008-02-13 09 これが首軸にセットした状態。首軸にバリがあるのがわかるかな?高級モデルのM400にはこういうバリは出ていない。このあたりの仕上げの手間が販売価格に影響しているのかも知れない。

 拙者は素材で値段が違うよりも、仕上工数で値段が違うという方が好き!

 仕上げ思いやり。そして思いやりが無料と考えるのは間違い。高いお金を払ってくれる人にしか、思いやりは与えないというのがフェア! オバマ氏みたいな考え方かな・・・

2008-02-13 10 こちらがペン芯セット後の状態。この位置にセットすると、横からの見映えがよい。

 ペン芯をよりペンポイントに近い位置にセットする調整師もいるが、それは好みの問題。通常の筆記であれば、この位置でも筆記中にインクが切れることはない。インクは毛細管現象だけではなく、ペン先が開いたり閉じたりすることによるポンプ運動によっても供給される。この個体のような柔らかいニブであれば、ポンプ運動の力はさらに大きい。

 その供給能力に対して、背開きのニブでは、紙に押し出すインク量が足りなくて、結果としてペン先上にインクがたまったのではないかな?まったくの想像だが・・・

 はたしてドクドクが直ったのかどうかもわからない。拙者の筆記ではドクドクが発生しなかったのは事実だがな。


 今回執筆時間:4.5時間 】 画像準備1.5h 調整1.5h 執筆1.5h
画像準備
とは分解し機構系の修理や仕上作業、及び画像をスキャナーでPCに取り込み、
               向きや色を調整して、Blogに貼り付ける作業の合計時間
調整とはペンポイントの調整をしている時間
執筆とは記事を書いている時間 
 


【これまでの調整記事】

2008-02-11 Montblanc No.149 14C-M 掠れる・・・実は大変 
2008-02-09 Pelikan M320 オレンジ 14C-M 呼吸困難 
2008-02-06 Montblanc No.144G 14C-M ペンポイント凸凹
2008-02-04 Pelikan 140 14C-M ペン先交換 → BB 
2008-02-02 Montblanc No.149 合体して開高健 
2008-01-30 Sheaffer 1000 黒縞 吸入機構完全取替 
2008-01-28 Montblanc 50年代 No.144 14C-F どん底
2008-01-26 Pelikan M320 緑 14C-M 背開き 
2008-01-23 Montblanc No.242 なんとか一人前に・・・ 
2008-01-21 Montblanc モーツァルト生誕250周年 時々切れる・・・
2008-01-19 Montblanc No.146 14K-BB 不思議とひっかかる 
2008-01-16 Montblanc チャールズ・ディケンズ 18K-M の呼吸困難
2008-01-14 Montblanc No.342緑 14C-B改造がひっかかる 
2008-01-12 Sheaffer Crest 14K-F 赤インクが接着剤    
2008-01-09 Omas Gentleman 14K-F キャップが・・・
2008-01-07 Shesffer Snorke 14K-F 吸入機構動かず 
2008-01-05 Montblanc No.149 14C-B 書き味に品がない! 
2008-01-02 丸善 ATHENA 萬年筆 14K-F 復活!
2007-12-31 Montblanc No.1464 18K-M ペン先から落下!

2007-12-29 Montblanc No.342 14C-M ペン芯を太らせる 
2007-12-26 Pelikan 500NN 暗緑縞 14C-EF ペン先グラグラ!
2007-12-24 Montblanc Monte Rosa 14C-M ペン芯めくれ!   
2007-12-22 Montblanc '50年代 No.144G 14K-M ボロボロ 
2007-12-19   Montblanc No.146 14K-F 細字スタブに・・・ 
2007-12-15   Nagasawa 125周年記念 14K-MF カリカリ直して!  
2007-12-12   Montblanc '80年代 No.146 14K-F ペン先ズレ
2007-12-10   Sheaffer Imperial Silver 14K-F ペン先曲がり
2007-12-05   Montblanc '70年代 No.149 14C-M がさつな書き味
2007-12-03   Montblanc L139G 14C-KM 健康診断
2007-12-01   Montblanc '50年代 No.146 14C-M 死地からの復帰
2007-11-28   Montblanc No.142 14C-F 相対評価の果てに・・・
2007-11-26   Montblanc No.147 14K-OM 羊の皮をかぶった山羊
2007-11-24   WAGNER 2007 18C-B 王子からの依頼
2007-11-21   Montblanc No.254 14C-EF ペン先曲がりと・・・
2007-11-19   Parker 75 14K-63 女王様の憂鬱
2007-11-17   Montblanc No.146 14C-OBB 筆記角度30度の世界
2007-11-14   Aurora エウロパ 18K-F 持久力向上 
2007-11-12   Montblanc No.342 G 14C-KF インクが出ない! 
2007-11-10   Pelikan 400NN 緑縞 14C-OM カモノハシ化 
2007-11-07   Stipula ピノキオ 赤軸 18K-M インク切れ解消
2007-11-05   Montblanc No.146 18C-F 書き味品位向上
2007-10-31   Waterman セレニテ 18C-M ペン先曲がり
   
2007-10-29   Pelikan 400NN 緑縞 14C-M ピストン/フロー改善
2007-10-24   Stipula ピノキオ 青軸 14K-M 字幅改善
2007-10-22   Montblanc No.252 14C-F フロー改善
2007-10-20   Montblanc 50年代 No.146 14C-KF ヌラヌラ化
2007-10-17   Osmia 64 → Matador Click ペン先移植
2007-10-15   Matador 996 ピストン修理に松脂利用実験
2007-10-13   Montblanc No.34 14C-M グレー軸   
2007-10-10   Pelikan 140 赤軸 & Gel Medium 
2007-10-08   Montblanc モンテローザ ピストン交換 
2007-10-06   Parker バキューマティック ペン先曲がり 
2007-10-03   Montblanc No.1466 14K-M いぶし銀
2007-10-01   Parker 75 赤ラッカー軸 14C-XF→F 交換 




Posted by pelikan_1931 at 08:00│Comments(1) このエントリーをはてなブックマークに追加 mixiチェック 万年筆 
この記事へのコメント
 なるほど!M250の実物は見たことがなかったのですが、M400の方が丁寧に仕上げられていたのですね…。機械が仕上げるか人間が仕上げるか、といった違いが出ているのでしょうか。

 そう考えると、M400に対する対価は妥当であるように思えてきました。先日の質問に答えてくださっているようで、非常に嬉しく思います。

 また、M250のペン先も持っているので、今後の研究材料として貴重なエントリーになりそうです。ありがとうございました。
Posted by しまみゅーら at 2008年02月13日 09:17