今回の依頼品はPelikan 100Nじゃ。ごく普通のグリーンマーブル軸なのだが、なんとなく怪しい雰囲気を漂わせている。萬年筆研究会【WAGNER】の裏定例会でも、さんざんと話のネタになった一本!Pelikanに詳しい人ほど【怪しい!】というのだが、決定的証拠がない・・・結局は誰も結論を出せないまま生贄になってしまった。
ペン先の刻印を見ると、文字がなんとなくぎこちない。ただ、第二次世界大戦直前に作られた物であれば、それもありかな? そもそも、刻印機の前に14金製のペン先こそ供出させられたのではないか・・・など様々な意見が出たが、だれも結論を出せないまま灰色決着した。
こんな面倒なペン先など、誰も偽造はしないだろう・・・というのが結論。すなわち疑いは晴れた!
ペンポイント周囲を拡大してみると、スリットは先端部で両側から押しつけられている。これではインクの出が極端に悪いはずじゃ。しかも先端部に紙の繊維のようなものが詰まっている。これでは字形が崩れてしまう。
非常に綺麗に研がれたペンポイントだが、スリット調整だけは必要らしい。ペン芯の位置は絶妙で文句の付けようがない。
横から確認しても非常に美しく見える位置になっている。こういう綺麗なセッティングが出来る人はそう多くはない。
ペンポイントはクーゲルというだけあって、丸い形状をしている。こんなに丸い形状のニブには初遭遇じゃ。シャイベンとはまったく違った形状に研ぎ上げられている。良い物を見せてもらった・・・
このように簡単にピストン機構が外れるのがPelikan 100からの伝統。
400からは外れなくなったのは残念だが、Pelikan 100の復刻版【Peikan 1931】などでは、同じようにピストン機構を右にねじれば外れる。お試しあれ。
このペン芯は非常にシンプルなデザイン!まるでPelikan 100のペン芯のよう・・・
ただし拙者は100も100Nも持っていないので、どれが正しいか言い当てることは出来ない。
左が調整前のニブの表裏で、右が調整後のペン先。
ペンポイントの反射を避けるために、左右二方向からスキャンしている。
この画像でもわかるように、多少の傷は金磨き布でゴシゴシ擦れば、すぐに消えてくれる。ただしゴシゴシ!に際しては必ずインクを抜いてからやって下され。インクや水分が軸に残っていると金磨き布が悲惨な状態になりますぞ!
これがペン芯にセットした状態でペン先部分を拡大した画像。ちゃんとペンポイント部分に隙間があるのが分かるであろう。こうすれば、少なくとも、書き出した後のインクフローの問題は無くなる。
あとは最も重要な、書き出しの掠れが無いようにする調整。筆圧が下がるにつれて、また、ペンを寝かせて書くようになるにつれて、書き出しの掠れの確率が高くなるのじゃ。この掠れには多くの人が悩み、また調整師もそれぞれに秘技を持っている。いわゆる腕の見せ所!
拙者の場合は、依頼者の筆記角度で320番の耐水ペーパーで荒削りし、その後で2500番の耐水ペーパーでで形状を整え、金磨き布でバフがけする。この状態ではインクは掠れる可能性が高い。そこで最後に5000番の耐水ペーパーでペンポイント表面に少しだけ傷をつける。従来はこれで終わりだったが、最近新兵器で仕上げをしている。
書き出し掠れに最悪なのが15000番や10000番のラッピングフィルム。これらは小片を手に持ってエッジの引っ掛かりを落とす物であって、この上でペンポイントを擦ったらとんでもないことになる。間違わないようにな。
【 今回執筆時間:5.5時間 】 画像準備2.5h 調整1.5h 執筆1.5h
画像準備とは分解し機構系の修理や仕上作業、及び画像をスキャナーでPCに取り込み、
向きや色を調整して、Blogに貼り付ける作業の合計時間
調整とはペンポイントの調整をしている時間
執筆とは記事を書いている時間