2008年02月25日

月曜日の調整報告 【 Pelikan 1931 ホワイトゴールド スイートスポット 2点 】

2008-02-25 01 今回の依頼品はPelikanの復刻モデルの中で最も人気の高い【Pelikan 1931 ホワイトゴールド】じゃ。もちろん無垢ではなく、ホワイトゴールドの貼り。すなわち薄くのばしたホワイトゴールドを萬年筆の周囲に貼り付けてある。この手法は鍍金技術が発達していない時代に多用されたが、それを敢えて復活させようとしたところにPelikanの意地がうかがえる。

 拙者はPelikanの復刻モデルは全て購入したが、やはりこの【Pelikan 1931 ホワイトゴールド】が一番好きじゃ。唯一2本持っているモデル。拙者のハンドルネームになっている【Pelikan 1931 金無垢】も二本購入したが、現在では一本しか所有していない。

2008-02-25 02 今回の依頼は、インクフローの向上と、ペン先段差解消、並びにキャップを後ろに挿した場合と挿さない場合に合わせてスイートスポットを二ヵ所作ること。

 ペン先は当時のPelikan 100とは異なって18金製で弾力はほとんど無い。もし当時と同じような弾力のあるペン先で、ペン芯もエボナイト製であれば、どれだけ売れたか見当もつかない。刻印はそっくりだが、ベースのペン先の形状がM400と同じ!

2008-02-25 03 ペン先先端付近を拡大して見ると、たしかにスリットは詰まっている。これではスムーズなインクフローは得られまい。

 これは不良品ではなく、全てがこういう調整を施されて市場に出されている。Pelikanだけではなく、ほとんど全てのメーカーがスリットを詰めて出荷し、技術のある販売店やペンクリでスリットを開く
作業を施している。EFやFはともかく、M以上はスリットを広げて出荷してはどうか?それならば店頭での試し書きで感動して購入する人が増えると思うがな。

2008-02-25 042008-02-25 05 ペン先とペン芯の位置関係で言えば、ほんの少しペン芯を後退させた方が好きじゃ。

 ペンポイントは綺麗な形状に研がれて出荷されているが、スイートスポットがまだ作られていない。従ってどこで書いても多少【ゴツゴツ】した感じがする。インクフローが悪いのでつい筆圧が高くなり、【ゴツゴツ】感をさらに強く感じてしまう。

2008-02-25 06 ペン先を前から見ると、左右の段差がある。段差自体は悪いことではない。もしペン先を左に倒して書くのであれば、左画像のように段差を付ければ、いっさい研がなくても絶妙の書き味になる。

 引っ掛かり感は紙の上でペンポイントを引きずる時に発生するものなので、引きずる角度にあわせた段差を付ければ問題は解決するのじゃ。

 拙者は段差自体がきらいなので、ペンポイントの腹側を斜めに削るが、段差を付けるだけで解決する場合も多い。メーカー・ペンクリなどでよく使うテクニックじゃ。これなら自分でも出来るであろう。特に最近の18金製のペン先は、弾力が無くて柔い(やわい)ので、力を入れればすぐに変形するのでやりやすい。柔らかい柔いを使い分けているので注意されたし。
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 ペン先をソケットから外し、エラの部分を握ってペン先を左右に引っ張るようにグイ!と力を入れると、スリットは簡単に開く。これが最近の18金製ペン先のありがたさ。Vintageのニブは鍛金されているので、力を入れて曲げてもすぐにポヨーンともとの形状に戻ってしまう。また大きくお辞儀しているのでスリットはガチガチに詰まっている。VintageのPelikanは筆圧をかけてペン先を開きながらインクを出す設計になっているのじゃ。弾力はあるがスリットは詰まっている!代表がPelikan 140じゃ。

2008-02-25 082008-02-25 09 スリットを開く際には左画像程度が一番良い。先端が開きすぎるとインクを引っ張る力が小さくなってインクの追従性が悪くなる。特に筆圧の低い人はポンプ運動の応援が得られないので不利じゃ。筆圧の低い人は、ゆっくりと筆記すべきじゃろう。筆圧は低いは、はや書きだは、太字が好きだは、ペンを寝かせて書くは・・・では満足な萬年筆に巡り会えないと心得よ。

2008-02-25 10 依頼者はペン先を真っ直ぐに紙に当てて書くので、段差は解消しておく必要がある。

 左は2点のスイートスポットを入れる前のペンポイント。

 ここまで準備して初めてペン先研磨となる。ペン先調整で最も時間をとるのは、【現状診断と調整方針の決定】プロセス。その次に実施するのがインフラの整備ともいえる【正しい状態へのセッティング】。ペン先研磨は最後の瞬間にチョコっとやる程度。壮絶な音を立てる場合もあるが、始めた段階で結果は見えている。拙者にとっては単なる作業。重要なのは研磨に入るまで!ベースがしっかりしていないとペンポイントだけ研磨しても片手落ちなのじゃ。

2008-02-25 11 こちらがスイートスポットを二個入れたペンポイント。画像で見ても分からないが、書いてみればすぐに分かる。スイートスポットは点ではなく面であり、二つのスポットは繋がっているように感じられるはず。早い話が書き味の良い部分が広く感じられるということ。

 通常は2つのスイートスポットで十分。裏書きする人にはもう一つ。しかし【ダメ出しの女王】様は、5つのスイートスポットを所望される・・・・ しかも【なんちゃってスイートスポット】はすぐに見抜かれてしまう。良い勉強になりますぞ!


【 今回執筆時間:5.5時間 】 画像準備2.0h 調整1.5h 執筆2.0h
画像準備
とは分解し機構系の修理や仕上作業、及び画像をスキャナーでPCに取り込み、
               向きや色を調整して、Blogに貼り付ける作業の合計時間
調整とはペンポイントの調整をしている時間
執筆とは記事を書いている時間 
 


【これまでの調整記事】

2008-02-23 '80年代後半 Montblanc 14K-M 再鍍金    
2008-02-20 Pelikan 100N 14C-KF あやしいペンポイント 
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2008-01-21 Montblanc モーツァルト生誕250周年 時々切れる・・・
2008-01-19 Montblanc No.146 14K-BB 不思議とひっかかる 
2008-01-16 Montblanc チャールズ・ディケンズ 18K-M の呼吸困難
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2008-01-12 Sheaffer Crest 14K-F 赤インクが接着剤    
2008-01-09 Omas Gentleman 14K-F キャップが・・・
2008-01-07 Shesffer Snorke 14K-F 吸入機構動かず 
2008-01-05 Montblanc No.149 14C-B 書き味に品がない! 
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2007-10-20   Montblanc 50年代 No.146 14C-KF ヌラヌラ化
2007-10-17   Osmia 64 → Matador Click ペン先移植
2007-10-15   Matador 996 ピストン修理に松脂利用実験
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2007-10-10   Pelikan 140 赤軸 & Gel Medium 
2007-10-08   Montblanc モンテローザ ピストン交換 
2007-10-06   Parker バキューマティック ペン先曲がり 
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2007-10-01   Parker 75 赤ラッカー軸 14C-XF→F 交換 

Posted by pelikan_1931 at 08:00│Comments(4) このエントリーをはてなブックマークに追加 mixiチェック 万年筆 
この記事へのコメント
b787しゃん

スイートスポットは、その位置によって甘さが違う。先端部、腹、裏等々。
ま、隠し味のような物なので、ココダ!とすぐわかるわけではない。

ただし、摩耗してスイートスポットが消えるとわかるじゃろう。それまではお楽しみ下され。
Posted by pelikan_1931 at 2008年02月28日 07:38
mochiduki しゃん

お主はそれほど速書きではないと思うぞ。安心めされ!
早書きの人にお主の萬年筆を渡したら、キーキーピーピーと力ずくでペン鳴りを出してしまうじゃろう。
Posted by pelikan_1931 at 2008年02月28日 07:32
5
この1931、私がお願いしたものですよね。ありがとうございました。
よく分かっている者が、依頼をしたように書いてくださってますが、全く見えてない私の依頼でした。
ペン先が詰まっている為、書き出しで掠れ、ストレスを感じておりました。
スイートスポットを微妙に感じ分ける事はできませんが、私にとっての快適な持ち方で、ストレス無しに筆記出来ます。
こんなに短くても、どちらかと言うと、キャップを挿さずに筆記する方が好きです。変でしょうか?
大きさ、上品な色合い、とてもお気に入りで、大切に使っていきます。
Posted by b787 at 2008年02月27日 19:43
>筆圧は低いは、はや書きだは、太字が好きだは、ペンを寝かせて書くは・・・では満足な萬年筆に巡り会えないと心得よ。

あああ〜。しかしそれでも師匠に毎回無理を言ってしまうわけです(笑)
Posted by mochiduki at 2008年02月26日 01:24