今回の患者は、いままで調整依頼をうけた中で最も高価かもしれない。
Montblanc No.149の75周年記念 18K-EFで、全身ピンクゴールドで鍍金され、ホワイトスターはマザーオフパールじゃ。この天冠部分(ダイヤモンド付)と鍍金、そしてペン先の刻印以外は通常のNo.149と同様なので、隠れたオシャレ風で実に良い感じ。萬年筆自体が主張しないのでスーツの胸ポケットにさりげなく挿しても嫌みにならない。
ペン先を見ると、マイスターシュテュックの75周年記念であることがわかる。決してMontblanc社の創立75周年でも、No.149の75周年記念でもなく、【マイスターシュテュック】の75周年記念という事だろう。
第一号のマイスターシュテュックは何だったのかな?調べればすぐわかるのだろうが、花粉症の薬で頭が朦朧としている上、少しだけ飲んだアルコールが追い打ちをかけて・・・調べる気力がわかない・・・誰が調べてくらは〜〜ぃ・・・
横から見た姿は現行品のNo.149とまったく同じ。拙者の好みからすれば、ペン芯の位置が前すぎるのだが、現行品はペン芯にストッパーがあり、ペン先の位置が固定されるようになっている。こういう場合は、敢えて位置変更しないようにしている。
メーカーは世界中の気候や暮らし方(砂漠の炎天下で手紙を書く?)を研究した上で、最もトラブルが少ないと考えられる位置にペン先とペン芯をセットしているのであろう。国内で、しかも室内で使うのであれば、ペン芯はもう少し後退していても問題はないのになぁ・・・
上から2枚目の画像(首軸にセットした状態)ではペン先のスリットが詰まっていたが、この写真では多少開いている。これは前回と同様に、スキャナーの蓋の重さでスリットが開いた状態になったから。どの程度力がかかればスリットが開くかの実験。
スキャナーの蓋が与える圧力はごくわずか。すなわち多少でも筆圧をかければインクはドクドク出る設計になっている。ただし、書き出し筆圧が限りなくゼロに近い人にとっては掠れる可能性があるのじゃ。
こちらは裏側。エボナイト製ペン芯ではないせいもあるが、全く汚れていない。
裏側全体がザラザラに仕上げられているのは、インクの保持能力を上げる工夫かな?ペンクリを経由した物ではたまに見かけるが、メーカー出荷段階でも滑面仕上げにしていないとは!
通常、こういうざらついた表面には、鍍金セットあたりでは上手く鍍金が出来ないもの。ところがさすがMontblanc!裏側にも完璧なピンクゴールド鍍金がかけられている。本当はロジウム鍍金の方がインクフローは良いらしいが、見映えを重視したのであろう。コレ大賛成!破綻のあるデザインの物には愛着がわかないのでな。
この画像は貴重!ピストン機構を胴軸に固定する内部部品。上が通常品で、下が今回の限定品。なんとこの部品の全身にピンクゴールドの鍍金がかかっている?あるいは赤っぽい色の真鍮で作った?
いずれにしても、このこだわり方はすごい!外装だけでごまかしている限定品が多い中、絶対にユーザに見られることのない部分にまで手を抜かないこだわり!良いなぁ・・・どうせなら全製品に適用して欲しいものじゃ!
こちらはスリット調整後のペン先。今回の撮影では軽い紙を被せてスキャンした。従ってスキャナーの蓋の重みでスリットが開いているわけではない。
依頼者からは、可能な限り【ドバドバのインクフローにして!】と依頼されていた。いくらがんばってもEFでのドバドバは無理!可能な限り【インクがにゅるにゅる】出てくるように仕上げてみた。
こちらがペン先を首軸にセットした状態。通常なら調整はここで95%は終了しているのだが、今回はここからが勝負!
依頼者は左書きじゃ。拙者も箸と筆記以外は左利きだが、筆記は右。従って調整結果を試すにはかなり時間がかかる。
EFならこのあたりが限度かな?というレベルにはなった。依頼者はこれで満足したかに見えたが、拙者が最後にポロっとしゃべった言葉に反応した。
【一回もインクを入れていないが、同じモデルでOBB付きを持ってる・・・】
後日【いつの日にか、お嬢様をいただきにまいります】というようなお手紙が舞い込んだ・・・
【 今回執筆時間:5.0時間 】 画像準備1.5h 調整2.0h 執筆1.5h
画像準備とは分解し機構系の修理や仕上作業、及び画像をスキャナーでPCに取り込み、
向きや色を調整して、Blogに貼り付ける作業の合計時間
調整とはペンポイントの調整をしている時間
執筆とは記事を書いている時間