2008年03月12日

水曜日の調整報告 【 Parker Duofold センテニアル 18K-F 生贄 】

2008-03-12 01 今回の【生贄】はパーカー・デュオフォールド・センテニアルパール・アンド・ブラックじゃ。一番新しい形状のもの。拙者は過去に古いタイプを何本か使ったが現在では一本も所持していない。

 この軸模様が最初に出た時は衝撃的だった。いったいどうやって模様を作ったのか?と不思議だった・・・。

 たしかアクリルブロックを削り出して作っていたはずなので、ドロドロの状態で性質が同じで色が違うものを混ぜたのであろう。性質が違う物を混ぜれば、削り出す時に割れる危険があるからな・・・

2008-03-12 022008-03-12 03 【生贄】として差し出された理由は、おそらくは、自分で調整していて、方向性に迷ったからであろう。インクフローを向上させるべく、スリットも開いてある。紙への当たりも悪くない。

 書き味に品が無いというほどではない。【垢抜けない書き味】と表現したら一番近いかも知れない。今一歩の書き味ということ。

 調整を始めた頃の拙者も良く経験した状態じゃ。拙者の場合はさらに調整を進めて、ついにはペンポイントが無くなるまで突進してしまっていた・・・よくぞここで踏みとどまってくれた!と褒めておきたい。調整作業は麻薬と同じで、いったん始めたら途中で止めるのが難しい・・・

2008-03-12 042008-03-12 05 これが【生贄】に差し出された状態のペンポイントの形状。これだけ見てもどこが悪いのかはわからない。

 ちゃんと書き癖に合わせて筆記角度は合わせてあるし、上下左右の丸めも出来ている。それでも【垢抜けない書き味】であるのは確かなのじゃ。いったい何が原因か?それは三つある。

 ひとつはスイートスポットを作り込む作業に迷いがあること、もう一つはスリットが開きすぎていること、三つ目はペンポイントの頂点の仕上げ不足じゃ。

2008-03-12 06 こちらはデュオフォールドのペン芯。フィンが内側についているため、インクが乾きにくい。もっともキャップに穴が空いているので、せっかくのこの設計が効果を果たしていないのが残念じゃ。拙者は自分用のセンテニアルでは、クリップの下に隠れるようにある空気穴を透明のボンドで塞いでる。

2008-03-12 072008-03-12 08 こちらが調整前のペンポイントの拡大図。ペン芯に乗せていないので、どの方向の圧力もかかっていない。この段階で問題点を発見するのが一番簡単じゃ。

 このペン先は【F】。細字の場合はスリットの開きは細めの方が良い。接紙面積が狭いので、スリットを開くとエッジが紙に当たる確率が大きくなってしまう。といって詰まっているとインクフローが悪い。経験的には、ごくわずかな開きが一番良いと考えている。

 このスリットを現状から目では判別できないほど、ごくわずかに絞ると格段に当たりが上品になる。これは書いてみて確認するしかない。非常にアナログな世界。しかも他の調整との複合作用があるので、全体として感じるしかない。ワンステップずつ確認するのは困難じゃ・・・

2008-03-12 10 次にペンポイント頂点の仕上げ。こちらが調整後じゃ。表面の傷を消すためにプラチナ鍍金も剥がしてある。

 上の調整前の画像では、頂点の内側に丸めが入っている。この丸めが接紙面積を狭めてしまっている。これを打ち消すようにすると書き味もまろやかになるし、美しくなる。

 この部分が紙にあたる確率は低いのだが、ペンポイントは球面全体として考えないといけない。このあたりは、つい最近やっとぼんやりと理解できるようになってきた。調整は【個の最適の積み重ね】ではなく、【全体の調和】なのじゃ。

2008-03-12 11 こちらがスイートスポットを作り直したペンポイント。調整前のペンポイントは斜面は作っているものの、そこがインクフローの一番おいしいポイントとはずれていた。そこを一致させることによって、絶妙な【にゅるにゅる感】が出てくるのじゃ。

 パーカー・デュオフォールドのペン芯設計は秀逸!こういうペン芯を持つ萬年筆はいかようにでも書き味をコントロール出来る。改めて【良い萬年筆だなぁ・・】と感激した。ペン芯で書き味をコントロールする事は、Vintage萬年筆では逆立ちしても出来ない。

 Vintage萬年筆のニブの弾力や柔らかさにおぼれる事無く、文字をコントロールする事を追求して欲しいものじゃ。(拙者には無理だが・・・)



【 今回執筆時間:6.5時間 】 画像準備2.0h 調整3.0h 執筆1.5h
画像準備
とは分解し機構系の修理や仕上作業、及び画像をスキャナーでPCに取り込み、
               向きや色を調整して、Blogに貼り付ける作業の合計時間
調整とはペンポイントの調整をしている時間
執筆とは記事を書いている時間
  
    


【これまでの調整記事】

2008-03-10 Montblanc No.32 14C-B インクが出ない・・・ 
2008-03-08 Montblanc No.256 18C-EF 仏蘭西 珍品!   
2008-03-05 Montblanc No.149 75周年記念 18K-EF 
2008-03-03 Montblanc No.342 14C-F 満身創痍 
2008-03-01 Pelikan 140 緑縞 14C-M ペン芯調整:苦闘3時間 
2008-02-27 Montblanc No.142 14C-M 壮絶なる死闘
2008-02-25 Pelikan 1931 ホワイトゴールド スイートスポット 2点 
2008-02-23 '80年代後半 Montblanc 14K-M 再鍍金    
2008-02-20 Pelikan 100N 14C-KF あやしいペンポイント 
2008-02-18 プラチナ Sterling Silver 地獄からの復活 
2008-02-16 Montblanc N0.142 14C-O はたして直るか?  
2008-02-13 Pelilam M250 バーガンディー 切り割りからドクドク  
2008-02-11 Montblanc No.149 14C-M 掠れる・・・実は大変 
2008-02-09 Pelikan M320 オレンジ 14C-M 呼吸困難 
2008-02-06 Montblanc No.144G 14C-M ペンポイント凸凹
2008-02-04 Pelikan 140 14C-M ペン先交換 → BB 
2008-02-02 Montblanc No.149 合体して開高健 
2008-01-30 Sheaffer 1000 黒縞 吸入機構完全取替 
2008-01-28 Montblanc 50年代 No.144 14C-F どん底
2008-01-26 Pelikan M320 緑 14C-M 背開き 
2008-01-23 Montblanc No.242 なんとか一人前に・・・ 
2008-01-21 Montblanc モーツァルト生誕250周年 時々切れる・・・
2008-01-19 Montblanc No.146 14K-BB 不思議とひっかかる 
2008-01-16 Montblanc チャールズ・ディケンズ 18K-M の呼吸困難
2008-01-14 Montblanc No.342緑 14C-B改造がひっかかる 
2008-01-12 Sheaffer Crest 14K-F 赤インクが接着剤    
2008-01-09 Omas Gentleman 14K-F キャップが・・・
2008-01-07 Shesffer Snorke 14K-F 吸入機構動かず 
2008-01-05 Montblanc No.149 14C-B 書き味に品がない! 
2008-01-02 丸善 ATHENA 萬年筆 14K-F 復活!
2007-12-31 Montblanc No.1464 18K-M ペン先から落下!

2007-12-29 Montblanc No.342 14C-M ペン芯を太らせる 
2007-12-26 Pelikan 500NN 暗緑縞 14C-EF ペン先グラグラ!
2007-12-24 Montblanc Monte Rosa 14C-M ペン芯めくれ!   
2007-12-22 Montblanc '50年代 No.144G 14K-M ボロボロ 
2007-12-19   Montblanc No.146 14K-F 細字スタブに・・・ 
2007-12-15   Nagasawa 125周年記念 14K-MF カリカリ直して!  
2007-12-12   Montblanc '80年代 No.146 14K-F ペン先ズレ
2007-12-10   Sheaffer Imperial Silver 14K-F ペン先曲がり
2007-12-05   Montblanc '70年代 No.149 14C-M がさつな書き味
2007-12-03   Montblanc L139G 14C-KM 健康診断
2007-12-01   Montblanc '50年代 No.146 14C-M 死地からの復帰
2007-11-28   Montblanc No.142 14C-F 相対評価の果てに・・・
2007-11-26   Montblanc No.147 14K-OM 羊の皮をかぶった山羊
2007-11-24   WAGNER 2007 18C-B 王子からの依頼
2007-11-21   Montblanc No.254 14C-EF ペン先曲がりと・・・
2007-11-19   Parker 75 14K-63 女王様の憂鬱
2007-11-17   Montblanc No.146 14C-OBB 筆記角度30度の世界
2007-11-14   Aurora エウロパ 18K-F 持久力向上 
2007-11-12   Montblanc No.342 G 14C-KF インクが出ない! 
2007-11-10   Pelikan 400NN 緑縞 14C-OM カモノハシ化 
2007-11-07   Stipula ピノキオ 赤軸 18K-M インク切れ解消
2007-11-05   Montblanc No.146 18C-F 書き味品位向上

Posted by pelikan_1931 at 07:00│Comments(2) このエントリーをはてなブックマークに追加 mixiチェック 周辺Goods 
この記事へのコメント
嬰啓‐221しゃん

調整師就任、おめでとしゃん。
Posted by pelikan_1931 at 2009年03月01日 19:32
>スイートスポットを作り込む作業に迷いがある

この調整をして頂いてから一年たち、つい最近になって
ようやくこの言葉の意味がわかるようになってまいりました。

>インクフローの一番おいしいポイント

こちらの方はまだ理解が及びませぬ。精進せねば。
Posted by 嬰啓‐221 at 2009年03月01日 07:52