今回の【生贄】はパーカー・デュオフォールド・センテニアルのパール・アンド・ブラックじゃ。一番新しい形状のもの。拙者は過去に古いタイプを何本か使ったが現在では一本も所持していない。
この軸模様が最初に出た時は衝撃的だった。いったいどうやって模様を作ったのか?と不思議だった・・・。
たしかアクリルブロックを削り出して作っていたはずなので、ドロドロの状態で性質が同じで色が違うものを混ぜたのであろう。性質が違う物を混ぜれば、削り出す時に割れる危険があるからな・・・ 【生贄】として差し出された理由は、おそらくは、自分で調整していて、方向性に迷ったからであろう。インクフローを向上させるべく、スリットも開いてある。紙への当たりも悪くない。
書き味に品が無いというほどではない。【垢抜けない書き味】と表現したら一番近いかも知れない。今一歩の書き味ということ。
調整を始めた頃の拙者も良く経験した状態じゃ。拙者の場合はさらに調整を進めて、ついにはペンポイントが無くなるまで突進してしまっていた・・・よくぞここで踏みとどまってくれた!と褒めておきたい。調整作業は麻薬と同じで、いったん始めたら途中で止めるのが難しい・・・ これが【生贄】に差し出された状態のペンポイントの形状。これだけ見てもどこが悪いのかはわからない。
ちゃんと書き癖に合わせて筆記角度は合わせてあるし、上下左右の丸めも出来ている。それでも【垢抜けない書き味】であるのは確かなのじゃ。いったい何が原因か?それは三つある。
ひとつはスイートスポットを作り込む作業に迷いがあること、もう一つはスリットが開きすぎていること、三つ目はペンポイントの頂点の仕上げ不足じゃ。 こちらはデュオフォールドのペン芯。フィンが内側についているため、インクが乾きにくい。もっともキャップに穴が空いているので、せっかくのこの設計が効果を果たしていないのが残念じゃ。拙者は自分用のセンテニアルでは、クリップの下に隠れるようにある空気穴を透明のボンドで塞いでる。
こちらが調整前のペンポイントの拡大図。ペン芯に乗せていないので、どの方向の圧力もかかっていない。この段階で問題点を発見するのが一番簡単じゃ。
このペン先は【F】。細字の場合はスリットの開きは細めの方が良い。接紙面積が狭いので、スリットを開くとエッジが紙に当たる確率が大きくなってしまう。といって詰まっているとインクフローが悪い。経験的には、ごくわずかな開きが一番良いと考えている。
このスリットを現状から目では判別できないほど、ごくわずかに絞ると格段に当たりが上品になる。これは書いてみて確認するしかない。非常にアナログな世界。しかも他の調整との複合作用があるので、全体として感じるしかない。ワンステップずつ確認するのは困難じゃ・・・ 次にペンポイント頂点の仕上げ。こちらが調整後じゃ。表面の傷を消すためにプラチナ鍍金も剥がしてある。
上の調整前の画像では、頂点の内側に丸めが入っている。この丸めが接紙面積を狭めてしまっている。これを打ち消すようにすると書き味もまろやかになるし、美しくなる。
この部分が紙にあたる確率は低いのだが、ペンポイントは球面全体として考えないといけない。このあたりは、つい最近やっとぼんやりと理解できるようになってきた。調整は【個の最適の積み重ね】ではなく、【全体の調和】なのじゃ。 こちらがスイートスポットを作り直したペンポイント。調整前のペンポイントは斜面は作っているものの、そこがインクフローの一番おいしいポイントとはずれていた。そこを一致させることによって、絶妙な【にゅるにゅる感】が出てくるのじゃ。
パーカー・デュオフォールドのペン芯設計は秀逸!こういうペン芯を持つ萬年筆はいかようにでも書き味をコントロール出来る。改めて【良い萬年筆だなぁ・・】と感激した。ペン芯で書き味をコントロールする事は、Vintage萬年筆では逆立ちしても出来ない。
Vintage萬年筆のニブの弾力や柔らかさにおぼれる事無く、文字をコントロールする事を追求して欲しいものじゃ。(拙者には無理だが・・・)
【 今回執筆時間:6.5時間 】 画像準備2.0h 調整3.0h 執筆1.5h
画像準備とは分解し機構系の修理や仕上作業、及び画像をスキャナーでPCに取り込み、
向きや色を調整して、Blogに貼り付ける作業の合計時間
調整とはペンポイントの調整をしている時間
執筆とは記事を書いている時間