2008年03月13日

解説【萬年筆と科學】 その72 W・A・Sheafferの工場

 やっと萬年筆に話題が戻ってきたので【萬年筆と科學】の解説の続き!

 1937年に、渡部氏と営業部長の和田長三氏は、半年間の海外視察を経て、8月末に帰国した。技術と営業のトップが半年間現場を離れて、外遊していてもビクともしなかったとはさすがじゃ!

 この半年間の間に彼らがやった事は数多かったのであろうが、特筆すべきは各社の工場調査。米国の7工場、の7工場、独逸の1工場を調査している。船での移動を考えると驚異的なハイペースじゃ。

 もっとも競合会社の営業と技術の責任者にハイハイと工場内部を見せてくれるわけはなく、彼らは工場の回りを歩測して工場を分析した。

 最初に3歩が一間になるように歩測の練習を繰り返す。その歩調で工場の周囲を一回りする。

 そうすると工場の敷地が何坪あるか、工場が何棟あって建坪いくら、事務所はどうかということがわかる。

 また煙突の大きさを見ると、その下にあるボイラーの馬力数も推定され、全従業員は何人くらいで、生産能力はいくら、工場は忙しいかどうか、活気があるかどうかもわかるとか・・・

 少し注意して観察すると窓からベルトが見えたり、プレスが見えたり、インクで汚れた壁が見えたりして、内容打診の材料はいくらでもあったらしい。

 そのほか米国では、公開されていた貸借対照表を詳細に分析し、そのメーカーの経営状況がどうであるのか、強み、弱みはどうかなども分析している・・・脱帽じゃ・・・

2008-03-13 01 最初はシェーファーの工場観察記!VintageのSheafferをお持ちの人はわかろうが、軸には誇らしげに【Fort Madison】と刻印されている。これはアイオワ州にあるSheaffer本社並びに工場の所在地。

 当時の人口16,000人くらいの田舎町らしい。日本人自体が珍しい上に、2人連れが足を硬直させながら歩測
していれば、あまりに不自然で、すぐに町中に知れ渡ったらしい。

 当時、日本と米国とはそれほど良い関係ではなかったこともあり、2人には尾行がついていた。カメラを所持していなかったので逮捕されなかったが、どうやらスパイと間違われていた可能性もあったとか。

2008-03-13 02 これがSheafferの工場の見取り図。歩測しただけでここまで精密な図を書けるとは驚きじゃ。

 この図から想定するに、敷地面積:2,793坪、A工場面積:1,200坪、B工場面積:1,125坪、C工場(ボイラー室):105坪、D工場:112坪。

 そして事務所面積:700坪、クラブ面積:105坪。それから想定するに、工場従業員:500名、営業従業員:150名で、生産能力は一ヶ月当たり、萬年筆:19.5万本、ペンシル:1.2万本、インキ:5万ダースというところらしい。

 工場の回りを歩測しただけで、ここまでの情報を導き出すとはさすがじゃ!

 なを支店はニューヨーク、シカゴ、サンフランシスコにあったとか。

 この後の本文では、1937年2末の貸借対照表を分析している。そして特筆すべき事は、従業員に対する賞与未払い金という項目があること。すなわち夏期ボーナスクリスマスボーナスを出すという、当時の米国では非常に珍しい会社だったのじゃ!


過去の【萬年筆と科學】に関する解説

解説【萬年筆と科學】 その67  
解説【萬年筆と科學】 その58    

解説【萬年筆と科學】 その56 
解説【萬年筆と科學】 その54−3 
解説【萬年筆と科學】 その54−2 
解説【萬年筆と科學】 その54−1 
解説【萬年筆と科學】 その48 
解説【萬年筆と科學】 その47  
解説【萬年筆と科學】 その45 
解説【萬年筆と科學】 その44 
解説【萬年筆と科學】 その43 
解説【萬年筆と科學】 その42 
解説【萬年筆と科學】 その41 
解説【萬年筆と科學】 その40 
解説【萬年筆と科學】 その36 
解説【萬年筆と科學】 その35
解説【萬年筆と科學】 その34 
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解説【萬年筆と科學】 その5
解説【萬年筆と科學】 その4
解説【萬年筆と科學】 その3
解説【萬年筆と科學】 その2
解説【萬年筆と科學】 その1  



Posted by pelikan_1931 at 07:00│Comments(7) このエントリーをはてなブックマークに追加 mixiチェック 情報提供 
この記事へのコメント
ちなみに、WAGNERの2009年末までの会場は決まっている。長期戦略良し!
Posted by pelikan_1931 at 2008年03月14日 07:22
怠猫しゃん

昔は情報量が限定されていたので、判断に迷いがなかった
現代は、情報が優先順位なく大量に与えられてしまうので、判断に迷い、判断する行為自体を放棄しているように見えるな。

最終的に適切な判断は誰にも出来ないが、長期予想する人と、短期戦略を立てる人が話し合わないで、別々に計画を立てているような気がする。

長期戦略は思いつき
短期戦略は実行不可能なほど緻密

これじゃぁな・・・
Posted by pelikan_1931 at 2008年03月14日 07:21
Bromfield しゃん

Fort Madison 閉鎖ですか・・・この時代なら、町はSheafferで成り立っていたような物でしょうな。一度、訪問してみたかった・・・
Posted by pelikan_1931 at 2008年03月14日 07:15
めだか しゃん

たしか、業界にさきがけて工場労働者の月給化w始めたのもパイロットでしたな・・・
Posted by pelikan_1931 at 2008年03月14日 07:12
Pilotって凄い。
う〜ん,会社組織や財界人の感覚は戦前の方が先進的だったような気がします。
ちなみに一番尊敬するのは串田萬蔵(三菱銀行頭取)。
Posted by 怠猫 at 2008年03月14日 01:18
Fountain Pen Networkに、Fort Madisonの工場は今月末で、正式に閉鎖されるとの書き込みがありました。

またチェコ製やイタリア製のシェーファーについてのFPNでのスレッドを読み、シェーファーも本拠をヨーロッパに移すのではないかと想像してしまいます。
Posted by Bromfield at 2008年03月13日 09:33
pilotは、社員の扱いが当時としては破格であったという話を聞いたことがありますが、こんな苦労が背景にあったのでしょうね。先進的な発想に、脱帽です。
Posted by めだか at 2008年03月13日 09:08