前回のSheafferの本社・工場の調査に続いて、今回はParkerの本社・工場の調査。読み進めていくと、渡部氏と和田氏は、製造工場の設備だけを重視して調査したのではないことがわかる。
かなりページを割いているのが経営分析。当時は損益計算書(P/L)分析手法が確立していなかったのか、P/L分析は一切されていない。あくまでも貸借対照表(B/S)の分析じゃ。
驚くことに、当時のParkerは既に持株会社(Holding Company)となっており、傘下に米国とカナダに製造会社、カリフォルニアとロンドンに販売会社があったとか。
持株会社の本社と製造工場は、ウイスコンシン州Janesvilleにあった。シカゴから汽車で三時間のところ。現在とは列車のスピードが違うので、かなりシカゴと近いのであろう。人口は26,000人ほどの小都市。
この本社・工場は、敷地面積723坪。A工場(工場兼事務所)は六階建てで建坪289坪、延面積1,734坪。B工場(増築工場:二階建て)は建坪209坪、延面積418坪。パーカー倶楽部:福利厚生施設は三階建てで建坪50坪、延面積150坪。
いずれにせよ、敷地いっぱいに建てられており、これ以上の増築は困難な状態じゃ。それもあってカナダに製造工場をたてたのであろう。
薄い記憶を辿れば、Parkerのヴァキュマティック・マキシマはカナダ・パーカーの製品だったような・・・
この敷地内にいる従業員は工場労働者:800人、営業・事務:400人の大所帯で、生産力は萬年筆が250,000本/月、ペンシルが25,000本/月、インクが50,000ダースほどと想定している。当時としては世界一の生産力を持った工場だったらしい。
それにしても社員の福利厚生施設(あるいは食堂もはいっているか?)が堂々としているのにビックリ。以前紹介したPelikanの社史でも、社員を非常に大切にしていた状況がうかがえた。
たとえ株式会社であっても、株主よりも社員を重視していたのが、創業者社長の時代。そういえばトーマス・ワトソン(IBM創業者)は【個人を尊重し、サービスを重視し、何事においても最高を追及せよ】と言った。最初に【個人の尊重】があった。ここでいう個人とは社員のこと。すなわち社員が一番大切だと言っていたわけじゃ。
日本でもオーナー企業ではこの風潮が強い。創業者は社員のありがたさを知っている。それが企業が大きくなり、サラリーマン社長になっていくにつれて創業時の精神が失われて企業は荒れていく。
これは社員にも言えることで、創業時の社員は会社のために身を粉にして働くが、会社が大きくなってから入社した社員は、会社に対して不満しか持たなくなってしまう。
【企業は経営者の器量以上に大きくなると破綻する】と言われている。それもあって、持株会社と事業会社にわけて、個々の経営者の器量にあった会社経営をすべきなのじゃ。Parkerの創立者のG.S.Parkerはそのことを知っていたのかも知れない・・・
当時のParkerの販売ラインとしてはヴァキュマティック(Vacumatic)の萬年筆とペンシル、デュオフォールド(Duofold)の萬年筆とペンシル、チャレンジャー(Challenger)の萬年筆とペンシル、パルケット(Parkette)の萬年筆とペンシル。そしてデスクセットとクインク(インク)だった。
そして営業利益は1934年:39万弗、1935年:45万弗、1936年:62万弗とうなぎ登りになっている。
経営上の特色は生産設備の最新化を常に図っているとみられること。固定資産総額が137万弗であるに対して、減価償却費が62万弗もあるのじゃ。
このことは、Parker成功の2大要素の一つを証明している。二大要素とは以下の二つ。
1:莫大な広告費を使ってParker神話を作ったこと
2:作業改善に惜しげもなく金をかけたこと
この二番目を証明しているのが、多額の減価償却費の計上。法定償却期間の前であっても最新設備に変えて、社員一人当たりの生産性を上げたかったのであろう。社員を幸福にするには、それが一番だからな。もちろん、莫大な市場がさらに膨張しているという環境下での事だが・・・
売上高ではもちろんWatermanには及ばなかったであろうが、前回紹介したSheafferよりも大きなシェアを獲得しており、経営状態もさらに良いようじゃ。
Sheafferの工場との最も大きな違いは、鉄道の引き込み線が無いこと。Parkerでは当時からトラック輸送を前提としていたのは明らか。図の右より中央にある部分よりトラックを入れ、荷積みして各地に走り出して行ったのであろう。
Sheaffer方式だと、基幹駅に運び込むまでは安いが、そこでトラックに積み替えて配送することになる。Parkerでは、その時間を短縮してでも販売店に品物を届けたかったのであろう。どこまでも顧客重視の会社であった。
その気持ちを今も持ち続けてくれていればありがたいのだが・・・
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解説【萬年筆と科學】 その67
解説【萬年筆と科學】 その58
解説【萬年筆と科學】 その56
解説【萬年筆と科學】 その54−3
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