今回の依頼品はMontblanc No.264じゃ。グレード的にはNo.25Xよりもワンランク下。ただし34Xよりはランクは上。大分類のグレードが一番左の桁で、中分類のグレードが真ん中、小分類のグレードが右端。右端だけは数字が大きい方が高いグレードだが、左端、真ん中は数字が小さいほどグレードが高い。ま、1950年代までの分類でしかない。60年代になると二桁番台の時代で、この場合は真ん中の桁が無いと考えれば大体合致するかな?
No.25Xシリーズが差込式のキャップだったのに対して、ネジ式になっている。こちらの方が金属部品が少ないのでクラックが入りにくい。
こちらが調整前のペン先。インクフローが悪いとのことだが、なんとなく図で下方向に曲がっているように見える。
肉眼では見分けが付かないが、スキャナー画像を見る限り曲がっている・・・もっとも書き味に影響を及ぼさないのであれば、むやみに曲げる必要はない。曲げた回数と耐久性とは関係があるように思う。
従って、可能な限り曲げはやらない方がよいのだが・・・萬年筆を多数所有している人の場合、こういう曲がり者は【見映えが悪い】と使ってもらえなくなる。悩ましいところだ。
それにしても、このスリットの詰まり方はすごい!これでは満足にインクは出まい。ワザとインクを絞っているとしか考えられない・・・
こちらが調整前のペンポイントの状態じゃ。右側の画像をよく見ると、左右のペン先(図では前後)が激しくズレている。
こういう状態を放置していると、スリットのところにインク溜まりのような箇所がが出来て、筆記時に気になってしかたがない。かなり慎重に波打ち状態を直す必要がある。
ソケットを首軸から抜いた状態。やはり多少ニブが曲がって見える。筆記に支障はないのだが少しだけ修正しておくとしよう。WAGNER会員にとって、もっとも重要なのは見映え!これが悪いと文字を筆記する意欲が大きく減退してしまうらしい。
ペン先を正面から見ると、ペン芯の上に、ニブが大きく傾いて乗っている。これでは多少でも左に捻って書けば、書き出しは100%インクが紙につかなくなってしまう。
またこの歪んでペン芯に乗っている状態が、実際以上にペン先を曲がって見せていたのであろう。
こちらが調整後の画像じゃ。ペン先は曲がりを修正し、スリットを拡げてある。
横方向の曲がりは何度も経験しているので、得意中の得意。難しいのは上下に左右のニブがばらばらに波打っているのを直す事。まともにやると、もう一回鍛錬し直し・・・するしかないのだが、その方法がわからない。
そこで削る事にした。サンドペーパーの上で、ペン先を横方向に擦って波うちを消す。裏はルーターで削った。仕上げは金磨き布。こいつはどんなバフよりも短時間で綺麗に仕上げてくれる。手放せませんな!
筆記テストしてみるとインクフローが劇的に改善され、非常に紙あたりも良い。依頼者の筆記角度に合わせてスイートスポットを入れたので当然ではあるがな・・・
以前、万年筆博士の田中さんが、【私には書き癖がありません】とおっしゃっていたが、だんだんと理解できるようになってきた。いろいろな人の筆記角度で試し書きしていると、どの角度でも気持ちよく書けるようになってしまうのじゃ。
【 今回執筆時間:4.5時間 】 画像準備1.5h 調整2.0h 執筆1.0h
画像準備とは分解し機構系の修理や仕上作業、及び画像をスキャナーでPCに取り込み、
向きや色を調整して、Blogに貼り付ける作業の合計時間
調整とはペンポイントの調整をしている時間
執筆とは記事を書いている時間