今回の調整内容は【インクを吸わない】ということで、Vintage萬年筆には良くあること。珍しいことではない。
珍しいのは萬年筆のメーカー。何とROLEX! あの時計を作っているROLEXがOEMでどこに作らせたのか、まったく関係ないのかはわからない。しかし、目の飛び出るほど高かったそうなので、まんざら・・・・
インクを吸入しないとのことだが、たとえ吸入してもこれほどまでにペン先が詰まっていては満足にインクは出ないであろう。
ペン先の設計はParker 51の模倣。ということはあの時代かぁ・・・猫も杓子もParker 51の模倣をしていた時代。あのPelikanですら回転吸入式のP1で追随した。Montblancは60年代モデルで、【真似はしていません、イカペンです・・・】という雰囲気を漂わせていたが、やはりあれは・・・相当に影響されていたと言わざるを得まい。
これがクリップとキャップの内のところの刻印。どうやら18金張りらしい。いわゆるRolled Gold。【ROLEX】ではなく、【ROLEX PEN】というのが会社名なら、あのROLEXとの関係は薄いかも知れない。いずれにせよ、話題性は十分。
噂にも聞いたことはなかった。マイナーブランドなのか、ROLEX社なのか、RELEX社のOEM生産なのか・・・はて真相は?
分解してみると、典型的なボタンフィラー。バネは朽ち果てていたのか、修理部品と交換してあった。しかし、いかんせんゴムサックが腐って無くなっていたので、これではインク吸入は出来まい。
米国ではバキューマティックやレバーフィラー、ボタンフィラーなどの修理部品がいつでも入手できる。たんなる大量消費だけではなく、ちゃんと修理して使う文化も根付いている。修理できる職人も星の数ほどいる・・・馬鹿には出来ないですぞ。
左からペン芯、ペン先、首軸じゃ。いたって簡単な構造だが、これでしっかりと首軸に固定されるのだから立派なもの。
ペン先にはROLEXの文字はなく、WARRANTEDの文字のみ。ただ、その下の表示がキャップの刻印と同じなので、純正のニブだと思われる・・・違うかな?
こちらがインクサックを装着した首軸と、ボタンフィラーの部品。この装着にはコツがある。
まず胴軸に首軸をねじ込む。そのあとで、胴軸の後ろの穴からレバーを内側壁面に沿わせるように押し込む。そのあとで、小さなボタンを押し込むのじゃ。
これでボタンを押すとレバーが曲がってサックを押して空気が出る。ボタンを放すとバネの力でレバーが伸び、それに従ってインクがサックの中に入ってくる。要するに、サックの戻る力だけがインクを吸う力となっている。気圧の変化に若干弱いかな・・・
こちらが内部機構のセットを終わった段階の胴体から尻軸を外した状態。この状態で見ると、萬年筆全開が非常に美しく見える。
やはりただ者ではない感じがする。相当実力のある職人による装飾がなされているようじゃ。
あまりに詰まっていたスリットはスキマゲージのおかげで、ごくわずかに拡げることが出来た。
ペンポイントもなかなか大きく、調整しやすかった。ただ、どうしても小さなニブの場合は調整の幅も狭い。極上の書き味にはならない。
大型ニブは書き味の正規分布のすそ野が長い。小さなニブではすそ野が短い。すなわち書き味のバラツキが少ない。工業製品としてはもってこいなのじゃ。それがParker 51タイプが流行した一つの理由。
ただしバラツキが少ない分、おもしろみにも欠ける。拙者はParker 51のMニブの書き味に驚嘆したが、10分で飽きてしまった・・・
やはり正規分布はすそ野が長い方がおもしろい。特に調整師にとっては・・・
【 今回執筆時間:6.0時間 】 画像準備3.0h 調整1.5h 執筆1.5h
画像準備とは分解し機構系の修理や仕上作業、及び画像をスキャナーでPCに取り込み、
向きや色を調整して、Blogに貼り付ける作業の合計時間
調整とはペンポイントの調整をしている時間
執筆とは記事を書いている時間