今回の調整依頼はVintage Pelikan 400。症状は書き出しで掠れるのと、多少ゴリゴリ感があるとのこと。これまで拙者の調整講座をお読みの方なら、これだけで原因がわかるであろう。
ペン先のスリットが詰まっていること、スイートスポットが無いこととな。非常に綺麗な軸なので、ペン先の調整のみすれば終わりだろう・・・
ペン先を拡大してみておどろいた。これはVintage Pelikac 400ではなく、Pelikan #500の時代に付いていた【ヘロヘロに柔らかいペン先】ではないか!しかもBB。これは貴重なペン先じゃ!
14金ペン先を前提に考えれば、Pelikan 史上最も腰がないペン先である。あまりに柔らかすぎて市場からのクレームがあり、早々に撤退したと記憶している。
それにしてもペン先のスリットは予想どおり詰まってる。このペン先の柔らかさなら、いったん書き出してしまえば、どんなに低い筆圧でもポンプ作用が働き、インクはドバドバと出てくる。問題は書き出しでインクが出ないこと。やはりスリットを多少拡げる必要がある。
こちらは横顔。ペンポイントの拡大画像を見ると、ペンポイントは上手く丸められているようで、実はスイートスポットが無い。どこで書いても点としてしか紙に接さないので決して滑らかな書き味にはならない。
柔らかいペン先だから書き味が良いのではない。スイートスポットがあるから書き味が良いのじゃ。長年使うとペン先が摩耗して書き味が良くなるというのは、まさに時間をかかてスイートスポットを作っていることになる。
しかしスイートスポットは一瞬で作り込むことが出来る。しかも時間をかけて作るよりもはるかに的確に!時間をかけて慣らしているというのが最善の手段ではない。それはロマンの追求というだけではないかな・・・
念のため、ペン先を正面から眺めてみたが、ペン芯の上に左右対称に綺麗に乗っている。左右にずれたりはしていない。ペン先を載せ替えた人が、非常にそのあたりに気を使う人だったのだろう。実に良い売り主から買ったな!
上下に多少段差があるように見えるが、ここまで柔らかいペン先の場合は、紙の上にペンを下ろした段階で段差は解消する。問題はない。ただしスリットは多少拡げる必要はあるな。
こちらは拙者が所有するPelikan #500のMのペン先付きのもの。まったく同じ形状のニブであることがわかろう。
軸の模様はVintage 400の方が薄い模様で好ましい。いずれにせよ、このBBのペン先の感触は、筆圧が低い人間にとっては最良のものじゃ。もしBBのニブを見つけたら5万円(ペン先単体)でも買っておくべき。将来にわたって二度と手に入らないだろう。
ペン先は綺麗であったが、多少清掃し、スリットをごくわずかに拡げた。
驚いた事に、ソケットに接着剤を塗ってペン先とペン芯を固定していた。ちゃんとインクフローに影響のない位置に接着剤が付着していたのはさすが!ただ、今後の事を考えて、もう少しきつい純正品を捜してみることにし、たまたまあったのでそれと交換した。Hold感を重視するなら現行ソケットと交換した方が良いのだが、たまたま切れていたので・・・
こちらが調整が終了して首軸に装填したペン先。ほんのわずかにスリットが開いているのが見て取れよう。柔らかいペン先の場合はこれくらいで十分。
試しにインクを付けて書いてみると、復活トレドの1980年代末期の18金ペン先の感触と同じ、ふわふわして腰のない書き味。長時間筆記すると疲れるが、短時間いたずら書きしながら心を休めるには最適。かならず幸せな気分にしてくれる。
柔らかいペン先のスイートスポット出しはほんの一瞬。前の画像と比べても、どこに面が出ているのかわからないであろう。その程度で十分。柔らかいペン先の書き味を悪くするのは、エッジの引っ掛かり。ならば丹念に、かつ、馬尻にならないように細かいペーパーでエッジをとるのじゃ。
最後に紙に当たる面を一瞬、やや粗いペーパーでスルリと擦ってペンポイント表面に傷を付ければ、書き出し掠れのない絶妙の書き味になる。間違っても極太のペン先調整に、15000番のラッピングフィルムなど使ってはなりませんぞ。
【 今回執筆時間:6.0時間 】 画像準備2.5h 調整2.0h 執筆1.5h
画像準備とは分解し機構系の修理や仕上作業、及び画像をスキャナーでPCに取り込み、
向きや色を調整して、Blogに貼り付ける作業の合計時間
調整とはペンポイントの調整をしている時間
執筆とは記事を書いている時間 M9