2008年05月03日

土曜日の調整報告 【 女王陛下のプラチナ・ミュージック 】

2008-05-03 01 昨日くらいから胸焼けがする。けっこう胃は強く、拙宅にあるパンシロンは長い間未開封だった。爪でペリペリと封を切り、付属のスプーン一杯分を水で胃に流し込んだ。

 いま5月2日の午後8時。この調整報告は明朝3日の9時にUp予定じゃ。しかるにまだ全体像しかScanし終わっていない。通常はまとめて調整しておき、順次記事にしておる。従って記事を書く際には画像から所見を思い出しながら書くことも多い。

 しかし、今回は前日になってもまったく調整に手をつけられていない・・・。さすが、女王陛下の調整依頼!無言の圧力をかけてくる。

2008-05-03 022008-05-03 03 今回のご依頼はプラチナミュージックじゃ。これは非常に懐かしい!拙者が初めて興味を持ったミュージックがこれだった。

 20年以上前、同じ社外研究会にいた若手が毎回議事録作りに使っていた。あまりに角張った文字で個性的なので、何で書いているのか見せてもらったら、これと同一のプラチナ・ミュージックだった。

 【これで書くと下手な字でもけっこう見られるんです】という言葉に反応して、パイロットのミュージック・ニブを購入してみたが、思い通りの書き味は得られなかった。

 それ以降、幾多のミュージックニブを使ってきたが、国産ではプラチナが一番良い書き味と思われる。もっとも昭和40年代、50年代ころのミュージックニブにはとてつもなく良い書き味の物もあるので、あくまでも一般論だが・・・

 そもそもミュージックニブ書き味を云々してもしようがない。書き味にフォーカスして作られたものではなく、横細縦太の字形を追求し、音符を書くのに最適なように設計されたものである。そのため、エッジは一切丸めてなく、ペン先の段差にも無頓着というのが普通。

 それに対して陛下のご命令は【どこもひっかからなくて、滑らかな書き味にして!】というもの。いわゆる【無理難題】というものじゃ。先週の裏定例会でも【期待して待ってますからね!】と念を押された。

 3日には、女王陛下と初めて出会い、その日に2時間ダメを出され続けた【でべそ邸】を訪問する。何かの因縁かもしれない。万年筆くらぶ【フェンテ】の会長のお宅じゃ。

 あの日、女王様は250ccのバイクで颯爽と現れた。メーカーペンクリで十分に満足できなかった萬年筆を何本か拙者の前に置いて和やかに始まった治療は、【う〜ん、う〜ん・・・ここがひっかかる・・・あ〜!今度はこっちが悪くなった・・・】と、延々とダメが出され続けた・・・

 みなさん楽しくワインなど楽しまれていたが、拙者は人生で初めて経験する【八方塞がり】の【思考停止】状態に陥っていた・・・

 あれから拙者はかなり腕を上げているが、女王の感覚もさらに研ぎ澄まされてきた。久しぶりの真剣勝負じゃな。


2008-05-03 042008-05-03 05 ためし書きしてみたが、ミュージックとしては、普通の書き味で、特に悪いところはない。

 また拙者は、女王様の鋭敏な指先の感覚を持っていないので、引っ掛かるというのも、画像から判断するしかない。拙者の指では検知出来ないのじゃ。

 上の画像を見ると、ペンポイントの腹の部分が筆記角度とわずかに違う。通常ならスイートスポットを入れて慣らせば激変するのだが、ミュージックの場合は、切り割りが二本あるので、スイートスポットの作りようがない。無理して作ろうとすると、エッジが馬尻になってしまう。しかも、ペン芯に食い込んだニブなので、外して調整というのも出来ない。

2008-05-03 06 救いはこの段差。向かって右側が上に曲がっている。このため、左にハネるような字の時にひっかかる。これをヒントに、女王の筆記角度で引っ掛かりに焦点を絞って問題追及してみた。

 1つの問題に集中すれば、検知出来ないこともない。結果、向かって左側だけではなく、中央も、左側もエッジがごくわずかに引っ掛かる事を確認できた。

 ここまで来て初めて明るい兆しが出てきた。これなら改良出来るであろう。正しい状態にするのではなく、性能を上げるのじゃ!もはやチューンナップにちかい。ベンツでいえばAMGのエンジニアの心境かな。


2008-05-03 07 まずは段差の解消。これに一番時間がかかった。なんせペン芯とペン先を分離できない為、親指の爪で押し下げたり、押し上げたりするしかない。

 しかしこの時代の合金は粘りがあり、多少曲げてもすぐに調整戻りが発生する。奥歯をかみ砕いてしまうほど力を入れて押しても何の変化も無い・・・こんにゃろ!と、さらに力を入れて押す・・・という作業を繰り返してやっと上記の状態までになった。これから向かって右端だけを気持ち上に上げる。そうすれば女王様の筆記癖にも対応できるはずじゃ。

2008-05-03 082008-05-03 09 ペンポイントは腹をさらった。手首をある程度捻りながら書く人には、腹のエッジは大敵!丹念にエッジを落とすのだが、同時に切り割りの両側のエッジも丸めなければならない。溝が二本あるだけに、段差を付けながら研磨するのにも、かなり習熟を要する。

 幸いにして拙者はミュージックの調整に慣れているので、とまどうことはなかったが・・・相当神経はすり減った。

 この研ぎ方を見て何か気づかれましたかな? そう、このように研ぐと、ミュージックではなく、縦横の線幅にそれほど差がない【つゆだく極太】の書き味になる! 女王様をミュージックニブの書き味で満足させる事は不可能なので、二本のスリットを利用して、インクフローがメチャメチャ良い極太に変身させたのじゃ。

2008-05-03 102008-05-03 11 向かって上のスリットの幅を少し詰め、下のスリットをやや開いた。これによってインクフローは安定し、筆圧をかけなくてもインクはどんどんとペンポイントまで導かれる。

 インクを入れて書いてみると、まるで極楽!とても1万円程度の萬年筆が出せる書き味ではない。


 ひさかたぶりの大成功じゃ! ・・・ といって女王様に催眠術をかけておこう・・・


【 今回執筆時間:6時間 】 画像準備2.0h 調整2.5h 執筆1.5h
画像準備
とは分解し機構系の修理や仕上作業、及び画像をスキャナーでPCに取り込み、
               向きや色を調整して、Blogに貼り付ける作業の合計時間
調整とはペンポイントの調整をしている時間
執筆とは記事を書いている時間

    

【これまでの調整記事】

2008-04-30 Pelikan M700 18C-F → BB ペン先交換 
2008-04-28 Pelikan M800 18C-3B ペン先交換              
2008-04-26 Montblanc No.644 14C-B ピストントラブル  
2008-04-23 Pelikan 400 茶縞 14C-BB 秀逸なペン先  
2008-04-21 ROLEX Pen 14C-M インク吸入せず! 
2008-04-19 Omas ミロード 青軸 18K-M 生贄               
2008-04-16 Waterman Gentleman かなりボロボロ!
2008-04-09 Pelikan 100N 14K-O ペンポイントが・・・   
2008-04-07 Montblanc No.264 14C-F ペンポイント段差 
2008-04-05 Pelikan 400NN 茶縞 14C-F ソケット交換 
2008-04-02 Montblanc No.254 14C-BB インク切れ 
2008-03-30 Pelikan M800 螺鈿 18C-M 未使用 & おまかせ 
2008-03-28 Montblanc No.234 1/2G 14C-BB 賽の河原の・・・
2008-03-26 Pelikan 140 緑縞 14C-B ソケット交換
2008-03-24 プラチナ #3776 赤軸・黒軸 ペン先交換
2008-03-22 Montblanc No.254 14C-M ぬるぬるに・・・  
2008-03-19 Waterman ラプソディ Green 18K-F 胴軸痩せ?
    
2008-03-17 Parker 75 18K-M 自然コンコルド 魑魅魍魎  
2008-03-15 Pilot New エラボー 14K-SF スイートスポット形成
2008-03-12 Parker Duofold センテニアル 18K-F 生贄
2008-03-10 Montblanc No.32 14C-B インクが出ない・・・ 
2008-03-08 Montblanc No.256 18C-EF 仏蘭西 珍品!   
2008-03-05 Montblanc No.149 75周年記念 18K-EF 
2008-03-03 Montblanc No.342 14C-F 満身創痍 
2008-03-01 Pelikan 140 緑縞 14C-M ペン芯調整:苦闘3時間 
2008-02-27 Montblanc No.142 14C-M 壮絶なる死闘
2008-02-25 Pelikan 1931 ホワイトゴールド スイートスポット 2点 
2008-02-23 '80年代後半 Montblanc 14K-M 再鍍金    
2008-02-20 Pelikan 100N 14C-KF あやしいペンポイント 
2008-02-18 プラチナ Sterling Silver 地獄からの復活 
2008-02-16 Montblanc N0.142 14C-O はたして直るか?  
2008-02-13 Pelilam M250 バーガンディー 切り割りからドクドク  
2008-02-11 Montblanc No.149 14C-M 掠れる・・・実は大変 
2008-02-09 Pelikan M320 オレンジ 14C-M 呼吸困難 
2008-02-06 Montblanc No.144G 14C-M ペンポイント凸凹
2008-02-04 Pelikan 140 14C-M ペン先交換 → BB 
2008-02-02 Montblanc No.149 合体して開高健 
2008-01-30 Sheaffer 1000 黒縞 吸入機構完全取替 
2008-01-28 Montblanc 50年代 No.144 14C-F どん底
2008-01-26 Pelikan M320 緑 14C-M 背開き 
2008-01-23 Montblanc No.242 なんとか一人前に・・・ 
2008-01-21 Montblanc モーツァルト生誕250周年 時々切れる・・・
2008-01-19 Montblanc No.146 14K-BB 不思議とひっかかる 
2008-01-16 Montblanc チャールズ・ディケンズ 18K-M の呼吸困難
2008-01-14 Montblanc No.342緑 14C-B改造がひっかかる 
2008-01-12 Sheaffer Crest 14K-F 赤インクが接着剤    
2008-01-09 Omas Gentleman 14K-F キャップが・・・
2008-01-07 Shesffer Snorke 14K-F 吸入機構動かず 
2008-01-05 Montblanc No.149 14C-B 書き味に品がない! 
2008-01-02 丸善 ATHENA 萬年筆 14K-F 復活!

Posted by pelikan_1931 at 09:00│Comments(9) このエントリーをはてなブックマークに追加 mixiチェック 萬年筆調整 
この記事へのコメント
花月しゃん

あのミュージックは秀逸ですからな。女王様以外にとっては最高の書き味を提供してくれrであろうな。
Posted by pelikan_1931 at 2008年05月06日 15:38
久しぶりの投稿になります。
先日#3776ギャザードへのミュージックニブ移植を試みました。その時僅かな段差を発見してしまい修正しようとしましたが、非常に困難でした。スリットが2本なので2倍の手間と思ったら大間違い、感覚的には4倍大変でした。
何より、#3776のペン先を外すのに往生しました。指にマメができ破け皮が剥けました。正直「二度とするもんか」と思ったほど・・。
ただ、ミュージックニブから生み出される独特の筆記感・筆跡には嵌りそうです。
Posted by 花月 at 2008年05月06日 12:37
らすとるむ しゃん

> 王様とミュージックの組み合わせはほぼ究極のテーマ

まさに!これをクリアーすれば、あとはプラチナ・スクリプトが来なければ安心!

しかし、WAGNER 2008 にはそのニブが付いている・・・やや心配!
Posted by pelikan_1931 at 2008年05月03日 23:19
しんのじ しゃん

本日は思い出の場所で・・・臥薪嘗胆・・・肝を舐めるかわりに、食いまくったので、もう一本の調整に影響が出るかもしれぬ・・・

油断は禁物・・・実は気になる部分が1箇所あるのじゃが・・・
Posted by pelikan_1931 at 2008年05月03日 23:17
syokubutsuen99 しゃん

本日は、でべそ邸で、13:00から20:00まで食べ続け、さらに帰宅してからも食べましたが、胸焼けは無し・・・やはり精神的な物か・・・
Posted by pelikan_1931 at 2008年05月03日 23:14
こんばんは。

調整に手を染めた方なら・・・・いかにミュージック・ニブの調整が難しいか理解できると思いますが・・・・流石に師匠大胆というかお見事です。
女王様とミュージックの組み合わせはほぼ究極のテーマと思われます。

私の考えた女王様対策は・・・・まず試し書用の紙は某社のペンクリみたいな引っ掛りの少ない物と言葉巧みにすり替えておいて・・・・つゆだく調整により微細な引っ掛かりを感知できないようにして誤魔化す。


Posted by らすとるむ at 2008年05月03日 20:55
おー!!!お疲れさまでした。

流石です!!
が・・・、女王様とGW期間中にお会いになるとはこれまた大胆な^^;


σ(^^)も女王様に宿題提出する前日は眠れなくなります。どうしても気になって夜中に起きだして調整しちゃうんです・・・
昨年の年末、忘年会前夜も夜中の3時近くまで調整していて、カミサンに「気がフレタ」かと思われました^^;

凄いプレッシャーですからねぇ。
Posted by しんのじ at 2008年05月03日 18:00
体調のすぐれない中、お疲れさまでした。
内容は非常に面白く参考になるところ山盛りです。
改めて、このような記事をアップしてくれていることに感謝。

いつも素晴らしき課題を提供してくれる女王にも感謝・感謝・・・癇癪???
そういえば、昨日はおなかを下していた・・・。
Posted by syokubutsuen99 at 2008年05月03日 09:38
胸焼けはずいぶん良くなってきたが、完全には直らないなぁ・・・そういえばもう一本、陛下から預かっていた・・・
Posted by pelikan_1931 at 2008年05月03日 09:03