昨日くらいから胸焼けがする。けっこう胃は強く、拙宅にあるパンシロンは長い間未開封だった。爪でペリペリと封を切り、付属のスプーン一杯分を水で胃に流し込んだ。
いま5月2日の午後8時。この調整報告は明朝3日の9時にUp予定じゃ。しかるにまだ全体像しかScanし終わっていない。通常はまとめて調整しておき、順次記事にしておる。従って記事を書く際には画像から所見を思い出しながら書くことも多い。
しかし、今回は前日になってもまったく調整に手をつけられていない・・・。さすが、女王陛下の調整依頼!無言の圧力をかけてくる。
今回のご依頼はプラチナのミュージックじゃ。これは非常に懐かしい!拙者が初めて興味を持ったミュージックがこれだった。
20年以上前、同じ社外研究会にいた若手が毎回議事録作りに使っていた。あまりに角張った文字で個性的なので、何で書いているのか見せてもらったら、これと同一のプラチナ・ミュージックだった。
【これで書くと下手な字でもけっこう見られるんです】という言葉に反応して、パイロットのミュージック・ニブを購入してみたが、思い通りの書き味は得られなかった。
それ以降、幾多のミュージックニブを使ってきたが、国産ではプラチナが一番良い書き味と思われる。もっとも昭和40年代、50年代ころのミュージックニブにはとてつもなく良い書き味の物もあるので、あくまでも一般論だが・・・
そもそもミュージックニブで書き味を云々してもしようがない。書き味にフォーカスして作られたものではなく、横細縦太の字形を追求し、音符を書くのに最適なように設計されたものである。そのため、エッジは一切丸めてなく、ペン先の段差にも無頓着というのが普通。
それに対して陛下のご命令は【どこもひっかからなくて、滑らかな書き味にして!】というもの。いわゆる【無理難題】というものじゃ。先週の裏定例会でも【期待して待ってますからね!】と念を押された。
3日には、女王陛下と初めて出会い、その日に2時間ダメを出され続けた【でべそ邸】を訪問する。何かの因縁かもしれない。万年筆くらぶ【フェンテ】の会長のお宅じゃ。
あの日、女王様は250ccのバイクで颯爽と現れた。メーカーペンクリで十分に満足できなかった萬年筆を何本か拙者の前に置いて和やかに始まった治療は、【う〜ん、う〜ん・・・ここがひっかかる・・・あ〜!今度はこっちが悪くなった・・・】と、延々とダメが出され続けた・・・
みなさん楽しくワインなど楽しまれていたが、拙者は人生で初めて経験する【八方塞がり】の【思考停止】状態に陥っていた・・・
あれから拙者はかなり腕を上げているが、女王の感覚もさらに研ぎ澄まされてきた。久しぶりの真剣勝負じゃな。
ためし書きしてみたが、ミュージックとしては、普通の書き味で、特に悪いところはない。
また拙者は、女王様の鋭敏な指先の感覚を持っていないので、引っ掛かるというのも、画像から判断するしかない。拙者の指では検知出来ないのじゃ。
上の画像を見ると、ペンポイントの腹の部分が筆記角度とわずかに違う。通常ならスイートスポットを入れて慣らせば激変するのだが、ミュージックの場合は、切り割りが二本あるので、スイートスポットの作りようがない。無理して作ろうとすると、エッジが馬尻になってしまう。しかも、ペン芯に食い込んだニブなので、外して調整というのも出来ない。
救いはこの段差。向かって右側が上に曲がっている。このため、左にハネるような字の時にひっかかる。これをヒントに、女王の筆記角度で引っ掛かりに焦点を絞って問題追及してみた。
1つの問題に集中すれば、検知出来ないこともない。結果、向かって左側だけではなく、中央も、左側もエッジがごくわずかに引っ掛かる事を確認できた。
ここまで来て初めて明るい兆しが出てきた。これなら改良出来るであろう。正しい状態にするのではなく、性能を上げるのじゃ!もはやチューンナップにちかい。ベンツでいえばAMGのエンジニアの心境かな。
まずは段差の解消。これに一番時間がかかった。なんせペン芯とペン先を分離できない為、親指の爪で押し下げたり、押し上げたりするしかない。
しかしこの時代の合金は粘りがあり、多少曲げてもすぐに調整戻りが発生する。奥歯をかみ砕いてしまうほど力を入れて押しても何の変化も無い・・・こんにゃろ!と、さらに力を入れて押す・・・という作業を繰り返してやっと上記の状態までになった。これから向かって右端だけを気持ち上に上げる。そうすれば女王様の筆記癖にも対応できるはずじゃ。
ペンポイントは腹をさらった。手首をある程度捻りながら書く人には、腹のエッジは大敵!丹念にエッジを落とすのだが、同時に切り割りの両側のエッジも丸めなければならない。溝が二本あるだけに、段差を付けながら研磨するのにも、かなり習熟を要する。
幸いにして拙者はミュージックの調整に慣れているので、とまどうことはなかったが・・・相当神経はすり減った。
この研ぎ方を見て何か気づかれましたかな? そう、このように研ぐと、ミュージックではなく、縦横の線幅にそれほど差がない【つゆだく極太】の書き味になる! 女王様をミュージックニブの書き味で満足させる事は不可能なので、二本のスリットを利用して、インクフローがメチャメチャ良い極太に変身させたのじゃ。
向かって上のスリットの幅を少し詰め、下のスリットをやや開いた。これによってインクフローは安定し、筆圧をかけなくてもインクはどんどんとペンポイントまで導かれる。
インクを入れて書いてみると、まるで極楽!とても1万円程度の萬年筆が出せる書き味ではない。
ひさかたぶりの大成功じゃ! ・・・ といって女王様に催眠術をかけておこう・・・
【 今回執筆時間:6時間 】 画像準備2.0h 調整2.5h 執筆1.5h
画像準備とは分解し機構系の修理や仕上作業、及び画像をスキャナーでPCに取り込み、
向きや色を調整して、Blogに貼り付ける作業の合計時間
調整とはペンポイントの調整をしている時間
執筆とは記事を書いている時間