2008年05月15日

解説【萬年筆と科學】 その78 Stephens工場と英国Parker

 その78の3回目は、ステフェンスのインク工場と英国パーカーの調査報告、ならびに、これまで得た情報をまとめて、当時の世界の筆記具統計じゃ。特に後者は非常に重要な資料。今と違って各種調査会社が無い時代に独力で調べ上げたものだけに、その重要性は比べるべくもない。

 当時のステフェンスインクは日本でも相当有名であったらしい。当時のステファンスのポスターなどには何度かお目にかかったことはあるが、実物も、インク瓶も見た事はない。

 本社はロンドン、インク工場もロンドン、リーズ、グラスゴー、バーミンガム、マンチェスターの5箇所にあり、さらには、オーストラリアとニュージーランドにも製造会社を持っていたらしい。

 渡部氏によれば、ステフェンスインクは世界最古のインキ工場として有名で、1832年ヘンリー・ステフェンスが操業したとある。インキ自体はそれ以前にも作られていたような気もするので、萬年筆用インキのことかもしれない。もちろんウォーターマン以前の萬年筆用ということだが・・・

 1938年の時点では、ペリカンと同じく、萬年筆用インキだけではなくゴム糊やタイプライターリボン、カーボンペーパーなども作り、1935年からは萬年筆も製作も始めたらしい。このあたりは1930年ペリカンの萬年筆発売に刺激を受けたのかも知れない。非常に似た会社であったと思われる。同じ欧州にあり、ドイツと英国と言うことで、ライバル心も強かったであろう。

 ただし、インキ製造に関してはペリカンを圧倒しており、米国のカーターインキであってもステフェンスに比べると三分の一の規模でしかなかったとか。まさに世界一古く、世界一大きいインキ製造会社であった!正し、萬年筆は幼稚で問題にするに値しなかったとか・・・


 パーカーの英国会社であるが、創業当時は米国の親会社から萬年筆やペンシルを輸入販売していた。しかし英国での国産品愛用運動が盛んになるに従って、輸入品では商売が出来なくなったので、カナダに工場を作ったらしい。Made in Canadaというのは英国にとっては国産品の位置づけであったとか・・・

 カナダは女王陛下の国であるから英国連邦とはいえ、1931年 
ウエストミンスター憲章により、英国議会がカナダの自治権を法的に保障(実質的独立) しているはず。そこで作ったインクが国産品とはこじつけのような気もするが・・・

 ところで、英国のパーカーの役員構成を調べていた渡部氏がおもしろいことを発見した。1923年にパーカーがビッグレッドを発売した時に、セールスマンから一躍支配人に抜擢されたゾコラ君が、英国パーカーの重役の3人の一人に名を連ねていた!常務取締役だった。実質的にはトップと言って良かろう。

 当時の英国パーカーの施策がことごとく成功していたこと、将来パーカーが英国に本社を移したこと・・・を含めて考えると、ゾコラ君は個人の才能のみならず、後輩を育成する能力にも秀でていたと考えられる。

 それにしてもゾコラ君について書くときの渡部氏はまるでアイドルを人込みで見つけた人のよう・・・かなりゾコラ君にあこがれていたか、そういう人材を欲していたかであろう。萬年筆屋物語を読む限りでは、渡部氏は何でも自分でやらないと気が済まない人のようであった。しかし、一方でゾコラ君のような人が自分の下に現れてくれることを期待していた面もあったのかもしれない。

2008-05-15 01 左は当時の英国連邦の萬年筆、ペンシル、インキの製造量の想定、米英のそれぞれの生産量、日本や独逸を含む世界の萬年筆製造数、その輸出割合、インキやペンシルの国別生産数、世界全体の統計を一表にまとめたものじゃ。

 驚いたことに、当時の日本は独逸よりも萬年筆製造本数は多かった!

 もし現在の世界統計があれば比較してみたい!製造本数は中国が圧倒しているはずじゃな・・・







過去の【萬年筆と科學】に関する解説

解説【萬年筆と科學】 その78−2  
解説【萬年筆と科學】 その78−1   
 
解説【萬年筆と科學】 その77                  
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解説【萬年筆と科學】 その1  

Posted by pelikan_1931 at 07:00│Comments(6) このエントリーをはてなブックマークに追加 mixiチェック 文献研究 
この記事へのコメント
monolith6 しゃん

おお、【文字が青くハイライト】した意味を読み取っていてくれましたか!さすが!
Posted by pelikan_1931 at 2008年05月19日 21:28
 ご指摘のことは、本文における「ステフェンスインク」の文字が青くハイライトされていることから先刻承知しております。私のコメントは、あくまでも将来に向けられたものであり、過去に遡ってのものではありません。
Posted by monolith6 at 2008年05月19日 13:04
monolith6 しゃん

歴史物は、正しい発音かどうかではなく、当時、どのように文献で表現されていたかを表現するのが正しいのじゃ。
Posted by pelikan_1931 at 2008年05月16日 19:53
 ステフェンスとは、Stephen's と綴るインク・メーカーですね。因みに発音は「スティーヴン(ス)」が正解です。将来、誰かが誤って本などにステフェンスなどと書かないように祈るばかりです。 Tortoise をベタにトートイズとする愚かさは、そしてそれがそのまま通用してしまうことの愚かさは、繰り返して貰いたくありません。
Posted by monolith6 at 2008年05月16日 18:39
Bromfield しゃん

この輸入金額というのは、半製品状態で代理店に輸入して、関税を安くする手だてが取られているかも知れないので、販売金額にすれば、もっと大きな金額になると思われます。

あまりに独逸からの輸入金額が低いので、不思議だな?と考えていて、思いつきました。本当かどうかはわかりませんが・・・
Posted by pelikan_1931 at 2008年05月15日 21:33
現在の国際統計を私も知りたく思います。グーグルで調べてみると、個別の国の生産額・本数や、輸出入の統計は出てくるのですが、国際的な比較できる統計は見つけられませんでした。

日本筆記具工業界がまとめた2006年の統計によれば、日本への万年筆の輸入本数に関しては中国が68%を占め(124万本)1位。輸入金額では1位はドイツで57%(9億円弱)のシェアで、ほぼ予想通りでした。

不思議だったのは、日本からの万年筆の輸出量を見ると、これまた中国に430万本強を輸出しており(シェア43.6%)、2位のフランス(175万本)を大きく引き離しております。輸出金額に関しては、統計には上位6位までに入らなかったため、中国の金額は掲載されておりません。つまり、日本の安価な万年筆を、大量に中国に輸出しているということなのでしょう。いずれにせよ本数に関しては輸出超過で、逆のイメージがありましたので驚きでした。
Posted by Bromfield at 2008年05月15日 08:51