当時ウォーターマンやシェーファーをはじめとする萬年筆メーカーはこぞってインクを自社製造し始めた。それは何故か?そこから【インキと科學】がスタートする。
当時は化学製品であるインクは、作るのが非常に難しかった割には、売れる!儲かる!ということで、粗製濫造されていた。
そして、そういう品質の悪いインクを入れて、萬年筆に不具合が起こったとしても、誰もインキメーカーを責めず、しわ寄せは全て萬年筆メーカーへ来てしまう。
それに辟易した萬年筆メーカーが自社生産でインキを製造し、他社製インキを入れてトラブルが出た場合には保証しない!という手段を講じたのであろう。
たしかにインキの製造は難しいのだろう。拙者が初めてOMASの萬年筆を購入した1984年。純正のオマスインキの黒を購入したら、グレー?かと見紛うばかりに薄い色だった。日本製の黒はしっかりしていたが、海外製、特にヨーロッパ系の黒はいまいち色が薄くて気持ち悪かったのを思い出した。実は黒インクというのは難しい・・・と販売店の人から聞いたことがある。
ペリカンなどは萬年筆製造のずっと前からインクを作っている。それでも萬年筆を製造する際には、相当苦労したであろう事は疑いようもない。
それにも関わらず、昨今では萬年筆を製造したことのない企業や個人が販売するインクブランドが増えてきている。ペンクリをやっているとわかるが、インクフローに問題がある・・・といって持ち込まれる萬年筆の半分はスリット問題、残り半分はインク問題じゃ。
1930年代に解決の目処がたっていたはずの問題が、また脚光を浴びてきている。すなわち70年前のパイロットの技術レベルに達していないインクブランドが多いと言うことか?
第一章で最も貴重な情報は、左の図じゃ。これはブルーブラックインクの組成と、それが黒くなる仕組みを記述している。
瓶に入っている時には、タンニン酸も没食子酸も硫酸を加えることによって黒変作用が遅れ、インクの底に沈殿物がたまらなくなるのじゃ。
いずれにせよ、全てが【酸】。これが昔のインクのpHの値が小さかった(酸性が強かった)理由。
ところが最近はがらりと様相が変わり、アルカリ性のインクが多い。パイロット、セーラーを例にとれば、販売されているインクの全てが中性【pH 6〜8】か、アルカリ性【ph 8〜12】で酸性のインクは皆無!このあたりの全容は、今月販売される雑誌で公開されるのでお楽しみに!