今回の依頼品はMontblanc No.149の80年代の代物。ただしキャップ、胴軸、ペン先の組み合わせは何となく変な気もする。どこかで、どれかが他のNo.149と混ざったと思われる。こいつの【書き味を向上させて・・・】という簡単な指令!依頼者の書き味を熟知していると、こういう漠然とした依頼内容でも十分じゃ!
萬年筆は工業製品としては未熟で、部品の組み合わせによる個体差が大きい。特に時代が混在した一本に関しては、かなりの微調整が必要となる。だからこそ楽しい!
こちらは調整前の状態。スリットはガチガチに詰まっている。一見【開高健モデル】のペン先に思えるが、ニブの素材が厚く、ガチガチに硬い。
横顔を見ると、ペンポイント先端部に、研磨した跡がある。背中側を大胆に斜めにカットするような研磨。あまり滑らかではないので、素人研磨であろう。何を目的に研磨したのかな?
いずれにせよ、一端ペンポイントの背中側を研磨したのであれば、オリジナルの形状は失われてしまう。文化財として保護することは出来ないので【日常使用に適した萬年筆】に変身させることにしよう。
調整前のペン先の拡大図。ペンポイント前端部の形状がそろっていないのと同時に、ペン先の裏側が相当汚れている。エボ焼けだけではなく、黒いインクがべっとりと付着している。
ペン芯を小さな瓶に入れて、ロットリング洗浄液を浸して振り回して見たが、ペン芯の溝にこびりついた黒インクはなかなか落ちない。どうやらカーボン系のインクが詰まっているのではなさそう。
超音波洗浄液にお湯を入れて、その中にペン芯を放り込むと、もくもくと煙のように黒インク滓が出てくる。ペン先の完全洗浄とは、これくらいやらないと本物とは言えない。最後に、隙間ゲージの0.05ミリでペン芯のスリットをスリスリと擦ってさらに超音波洗浄機にかけた。
超音波洗浄機に完全分解しない萬年筆を浸すのは気休めでしかない。お客様が試し書きしたインクをすぐに洗浄する程度の目的で使うなら良いが、インクを交換する際などの完全洗浄にはまったくの役不足!ということが良くわかった。
こちらがスリットを拡げ、ペン先を金磨き布で丹念に拭いた状態。金磨き布で擦る際、プラチナ鍍金の部分に布をあてないようにするのがコツ。かなり強力な研磨剤がついているので、プラチナ鍍金などすぐに剥がれてしまうからな・・・
8の字旋回に金磨き布を使わなくなったので、久々に登場した。やはり金の清掃にはこれが一番じゃな!
こちらが首軸に取り付けてから微調整を施したペンポイント。エッジが格段に滑らかになっているのがわかるかな?
今回の方針が【日常使用に適した・・・】ということなので、寝かせて書いても、垂直に立てて書いても、背中で書いても書き味が良く、かつ、早書き出来ることを目標とした。また、書き出しでインクが切れる確率も激減させたいし、書き味も良くしたい。
そこで【スタブ気味の研ぎでありながら引っ掛かりも無い】ように研いでみた。研ぐ前と画像上での際は少ないが、書き味は全く違う!
【やんちゃなお姉さん】が【プリンセス】に変身したと思えるくらいに変わった。どう持ってもかすかな筆記感を出しつつ実に気持ちよく書ける。久方ぶりの【大成功】じゃ!
【 今回執筆時間:5.5時間 】 画像準備1.5h 修理調整2.5h 記事執筆1.5h
画像準備とは画像をスキャナーでPCに取り込み、向きや色を調整して、画像ファイルを作る時間
修理調整とは分解・清掃・修理・ペンポイント調整の合計時間
記事執筆とは記事を書いている時間