2008年07月15日

火曜日の調整報告 【 Montblanc No.149 14C-M 書き味向上 】

2008-07-15 01 今回の依頼品はMontblanc No.14980年代の代物。ただしキャップ、胴軸、ペン先の組み合わせは何となく変な気もする。どこかで、どれかが他のNo.149と混ざったと思われる。こいつの【書き味を向上させて・・・】という簡単な指令!依頼者の書き味を熟知していると、こういう漠然とした依頼内容でも十分じゃ!

 萬年筆は工業製品としては未熟で、部品の組み合わせによる個体差が大きい。特に時代が混在した一本に関しては、かなりの微調整が必要となる。だからこそ楽しい!

2008-07-15 022008-07-15 03 こちらは調整前の状態。スリットはガチガチに詰まっている。一見【開高健モデル】のペン先に思えるが、ニブの素材が厚く、ガチガチに硬い。

 横顔を見ると、ペンポイント先端部に、研磨した跡がある。背中側を大胆に斜めにカットするような研磨。あまり滑らかではないので、素人研磨であろう。何を目的に研磨したのかな?

 いずれにせよ、一端ペンポイントの背中側を研磨したのであれば、オリジナルの形状は失われてしまう。文化財として保護することは出来ないので【日常使用に適した萬年筆】に変身させることにしよう。

2008-07-15 042008-07-15 052008-07-15 06 調整前のペン先の拡大図。ペンポイント前端部の形状がそろっていないのと同時に、ペン先の裏側が相当汚れている。エボ焼けだけではなく、黒いインクがべっとりと付着している。

 ペン芯を小さな瓶に入れて、ロットリング洗浄液を浸して振り回して見たが、ペン芯の溝にこびりついた黒インクはなかなか落ちない。どうやらカーボン系のインクが詰まっているのではなさそう

 超音波洗浄液にお湯を入れて、その中にペン芯を放り込むと、もくもくと煙のように黒インク滓が出てくる。ペン先の完全洗浄とは、これくらいやらないと本物とは言えない。最後に、隙間ゲージの0.05ミリでペン芯のスリットをスリスリと擦ってさらに超音波洗浄機にかけた。

 超音波洗浄機に完全分解しない萬年筆を浸すのは気休めでしかない。お客様が試し書きしたインクをすぐに洗浄する程度の目的で使うなら良いが、インクを交換する際などの完全洗浄にはまったくの役不足!ということが良くわかった。


2008-07-15 072008-07-15 08 こちらがスリットを拡げ、ペン先を金磨き布で丹念に拭いた状態。金磨き布で擦る際、プラチナ鍍金の部分に布をあてないようにするのがコツ。かなり強力な研磨剤がついているので、プラチナ鍍金などすぐに剥がれてしまうからな・・・

 8の字旋回に金磨き布を使わなくなったので、久々に登場した。やはり金の清掃にはこれが一番じゃな!

2008-07-15 092008-07-15 10 こちらが首軸に取り付けてから微調整を施したペンポイント。エッジが格段に滑らかになっているのがわかるかな?

 今回の方針が【日常使用に適した・・・】ということなので、寝かせて書いても、垂直に立てて書いても、背中で書いても書き味が良く、かつ、早書き出来ることを目標とした。また、書き出しでインクが切れる確率も激減させたいし、書き味も良くしたい。

2008-07-15 112008-07-15 13 そこで【スタブ気味の研ぎでありながら引っ掛かりも無い】ように研いでみた。研ぐ前と画像上での際は少ないが、書き味は全く違う!

 【やんちゃなお姉さん】が【プリンセス】に変身したと思えるくらいに変わった。どう持ってもかすかな筆記感を出しつつ実に気持ちよく書ける。久方ぶりの【大成功】じゃ!


【 今回執筆時間:5.5時間 】 画像準備1.5h 修理調整2.5h 記事執筆1.5h
画像準備
とは画像をスキャナーでPCに取り込み、向きや色を調整して、画像ファイルを作る時間
修理調整とは分解・清掃・修理・ペンポイント調整の合計時間
記事執筆とは記事を書いている時間
   
   


【これまでの調整記事】

2008-07-07 Delta ドルチェビータ オーバーサイズ 呼吸困難  
2008-07-05   Sheaffer インペリアル 純銀 首軸ユニット交換   
2008-07-02   Montblanc No.149 胴軸交換   

2008-06-30 Pilot 旧エラボー 14K SB ペン芯乖離                     
2008-06-28 Warl Eversharp Red Ripple 14K-Flexible                      
2008-06-25 Pelikan M800 18C-M 現行品最高の書き味に!   
2008-06-23 Marlen スケルトン 18K-M 掠れと出過ぎ   
2008-06-21 Montblanc No.342 14C-EF ひっかかり 
2008-06-18 Sheaffer Tuckaway 14K-XF ペン先曲がり   
2008-06-16 AURORA 88 14K-B 書き出し掠れ解消   
 
2008-06-14 Montblanc No.234 1/2G 14C-OB 斜面調整      
2008-06-11 Montegrappa 八角軸 バーメイル 18K-B 背開き

2008-06-09 Sailor キングプロフィット 21K-M ほんの少し・・・

2008-06-07 Montblanc 50年代No.146 14C-OB 斜面調整 
2008-06-04 Sheaffer PFM ?&? 部品そろえ!    
2008-06-02 性懲りもなく、ドボドボイジャー排斥への挑戦 
2008-05-31 Parker 75 赤ラッカー 18K-B 西の・・・・
2008-05-28 Pelikan 旧M800 18C-F EN+刻印  
2008-05-26 Platinum 純銀軸 18C・WG-Music 段差修正
2008-05-24 Pelikan M250 緑マーブル 14C-M カビと段差     
2008-05-21 Waterman セレニテ・ドラゴン 18C-M インク漏れ 
2008-05-19 Sheaffer Snorkel 14C-XF 内臓はボロボロ? 
2008-05-17 Montblanc No.149 14C-B 上品な書き味へ・・・ 

2008-05-14 Pelikan M400 茶縞 生贄:やりたい放題  
2008-05-12 セーラー・プロフィット・・・女王からの宿題 その2 
2008-05-10 Montblanc No.252 14C-F インクフロー改善
2008-05-07 Pelikan 400NN 14C-F 超硬いピストン
2008-05-05 masahiro エボナイト軸 ペン先交換   
2008-05-03 女王陛下のプラチナ・ミュージック   
2008-04-30 Pelikan M700 18C-F → BB ペン先交換 
2008-04-28 Pelikan M800 18C-3B ペン先交換 
2008-04-26 Montblanc No.644 14C-B ピストントラブル
2008-04-23 Pelikan 400 茶縞 14C-BB 秀逸なペン先  
2008-04-21 ROLEX Pen 14C-M インク吸入せず! 
2008-04-19 Omas ミロード 青軸 18K-M 生贄
2008-04-16 Waterman Gentleman かなりボロボロ!
2008-04-09 Pelikan 100N 14K-O ペンポイントが・・・   
2008-04-07 Montblanc No.264 14C-F ペンポイント段差 
2008-04-05 Pelikan 400NN 茶縞 14C-F ソケット交換 
2008-04-02 Montblanc No.254 14C-BB インク切れ 
2008-03-30 Pelikan M800 螺鈿 18C-M 未使用 & おまかせ 
2008-03-28 Montblanc No.234 1/2G 14C-BB 賽の河原の・・・
2008-03-26 Pelikan 140 緑縞 14C-B ソケット交換
2008-03-24 プラチナ #3776 赤軸・黒軸 ペン先交換
2008-03-22 Montblanc No.254 14C-M ぬるぬるに・・・  
2008-03-19 Waterman ラプソディ Green 18K-F 胴軸痩せ?
    
2008-03-17 Parker 75 18K-M 自然コンコルド 魑魅魍魎  
2008-03-15 Pilot New エラボー 14K-SF スイートスポット形成
2008-03-12 Parker Duofold センテニアル 18K-F 生贄
2008-03-10 Montblanc No.32 14C-B インクが出ない・・・ 
2008-03-08 Montblanc No.256 18C-EF 仏蘭西 珍品!   
2008-03-05 Montblanc No.149 75周年記念 18K-EF 
2008-03-03 Montblanc No.342 14C-F 満身創痍 
2008-03-01 Pelikan 140 緑縞 14C-M ペン芯調整:苦闘3時間 
Posted by pelikan_1931 at 07:00│Comments(4) このエントリーをはてなブックマークに追加 mixiチェック 萬年筆調整 
この記事へのコメント
venezia 2007しゃん

移行期にはいろんな事が起こる。それもまたコレクションの楽しみ・・・
Posted by pelikan_1931 at 2008年07月19日 12:36
このモデルより後の世代のペン先が14K表示の物の首軸先端がこのタイプの首軸と同一で、14C表示の開高健モデルは首軸先端がこのタイプではないことから、やはり今回の組み合わせは開高健モデルから14K表示モデルの間の移行期のタイプであると思います。このモデルは14Cと表示されていながら開高健モデルと違いニブが厚くペン先形状が尖っておらず、むしろニブ形状が14Kに酷似していることからも、このモデルはその後の14Kモデルのベースモデル(ひょっとして14Kモデルはこのモデルの14Cの刻印を14Kと改めただけか??)であるような気がします。書き味楽しみです。
Posted by venezia 2007 at 2008年07月17日 23:12
venezia 2007 しゃん

これは良いですぞ! 柔らかいペン先が良いとは限らないという好例じゃ!
Posted by pelikan_1931 at 2008年07月17日 00:12
実は、調整をお願いする前に自分で超音波洗浄機で万年筆を分解しない状態でかなり洗浄して、黒煙のようなインク滓モクモクを除去したんですが、仰るとおり完全分解しないでの洗浄には限界があるということがよくわかりました。自分で分解、再組み立てができないと愛用していくにも限界がありますね。まずは道具立てが揃いつつあるんで(5寸釘を平らにカットしたものとゴムの輪っかを作らなくては。。。)、今後分解、組み立てを学ばさせて頂きます。最近は文化財保護品が続いていましたんで、これはしっかりと日常使い用で使い込むよう致します。ありがとうごいざました。
Posted by venezia 2007 at 2008年07月15日 23:21