2008年07月21日

月曜日の調整報告 【 Parker Duofold センテニアル 18C-XXB 生贄 】

2008-07-21 01 これはビッグレッド復刻の第二弾かな? 第一弾はペンシルと、立派な箱とのセットで10万円だった。そちらは1990年限定1,000セットでの発売。

 今回のモデルは天冠が丸みを帯び、ペン先のデザインも変わっているが、色のトーンは同じじゃ。

2008-07-21 02 第二弾は限定1,100本ということらしい。1990年当時とくらべるとパーカーのブランドイメージは、萬年筆界では相対的に低下しているので、1,000→1,100本という程度の伸びになっていたのだろう。

 米国ではどうだかわからないが、英国でのパーカーの地位は非常に高いと聞いた(昨日)。パーカーの瓶インクはどこでも手にはいるが、ウォーターマンのインクですら、確実に手に入れるにはハロッズ・デパートまで行く必要があったとか・・・

 拙者はデュオフォールドの現行品は、ニブのデザイン以外は非常に垢抜けていると考えている。設計も書き味も!

2008-07-21 03 今回のニブは【86】。すなわちXXB【eXtra-eXtra Broad】ペリカンでは3Bに相当する太さ表現じゃ。ただしペリカンが角研ぎであるのに対して、パーカーは丸研ぎ!このあたりがペリカン好きの依頼者には我慢できなかったと思われる。

 画像を見ると、非常に魅力的な大玉だし、スリットもちゃんと開いているが、切り割りはペンポイントの頂点からではなく、ややズレたところから入っている。これは精神衛生上悪い・・・

 依頼内容は【生贄】。すなわち焼くなり煮るなりして下さい!ということ。XXBでの生贄依頼おいしい

2008-07-21 042008-07-21 05 こちらは調整前の横顔。依頼者の書き癖であれば、ペンポイントの、さほどおいしくない部分がが紙にあたる。これでは持ち前の【ぬるぬる感】で楽しめない。

 そこでザックリと斜めに研磨して広大なスイートスポット地帯を作ることにする。気をつけるべきは、依頼者は昔と違って、たまにペンポイントが右にも倒れるようになった事。左傾斜から右傾斜への移行期かもしれないが、こういう時には許容範囲を大きく取った調整でないとすぐに書き味が劣化したと感じてします。

2008-07-21 06 もうひとつ書き味に納得がいかない原因がこれ!左右のペンポイントに段差がある事。この段差はペン芯を外してニブだけにすれば無くなる事が多い。すなわちペン芯の形状と、ペン先内側のカーブがうまく合致していない!

 これを合わせるのは設計図面がないと無理。あるべき論、何故そういう設計にしたかの思想がわからなければ形状変更は出来ない。

 やむなくペン芯にセットした状態で段差調整を施した。これは時が経つと調整戻りが発生しやすいのであまりお奨めではない。今回は、頻繁に定例会に参加される会員からの要望なので問題なしとした。

2008-07-21 072008-07-21 08 【丸研ぎ】をペリカン似の【角研ぎ】に変えた。これなら頂点がないので、切り割りのズレが解消されたことになる。

 また【角研ぎ】は、心理的に筆記角度を変動しながら書きにくいので、予期せぬ引っ掛かりに遭遇する確率も減る。そして何より美しい!

2008-07-21 092008-07-21 10 こちらが調整後の横顔。メタボ腹状態だったペンポイントが、かなりスリムに削り込まれているのがわかろう。

 この削り取られた部分が、依頼者が最も良く使う部分。ここの接紙面積が拡がることによって、単位面積あたりの筆圧が分散されてヌラヌラした書き味を体験出来るのじゃ!

 最近、太字を削り込んで極細を作るような調整をよく見かける。昨日の裏定例会でも見かけた・・・あまりにかわいそうな状態になっている。太字は太字のまま、細字は細字のまま使って上げるのが、萬年筆に対する思いやり。

 拙者も昔はいろいろ削りまくったが、最近では、少なくともペンポイントの大きさだけは削りすぎないように気をつけるようになった。やっと、調整名人が昔おっしゃっていたことが理解できるようになった。20年かかった・・・。削りすぎるのは【もったいない】。



【 今回執筆時間:7時間 】 画像準備1.5h 修理調整4h 記事執筆1.5h
画像準備
とは画像をスキャナーでPCに取り込み、向きや色を調整して、画像ファイルを作る時間
修理調整とは分解・清掃・修理・ペンポイント調整の合計時間
記事執筆とは記事を書いている時間

 


【これまでの調整記事】

2008-07-19 1950年代 Montblanc No.146 14C-BB 生贄      
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2008-07-15 Montblanc No.149 14C-M 書き味向上     

2008-07-07 Delta ドルチェビータ オーバーサイズ 呼吸困難  
2008-07-05   Sheaffer インペリアル 純銀 首軸ユニット交換   
2008-07-02   Montblanc No.149 胴軸交換   

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2008-06-28 Warl Eversharp Red Ripple 14K-Flexible                      
2008-06-25 Pelikan M800 18C-M 現行品最高の書き味に!   
2008-06-23 Marlen スケルトン 18K-M 掠れと出過ぎ   
2008-06-21 Montblanc No.342 14C-EF ひっかかり 
2008-06-18 Sheaffer Tuckaway 14K-XF ペン先曲がり   
2008-06-16 AURORA 88 14K-B 書き出し掠れ解消   
 
2008-06-14 Montblanc No.234 1/2G 14C-OB 斜面調整      
2008-06-11 Montegrappa 八角軸 バーメイル 18K-B 背開き

2008-06-09 Sailor キングプロフィット 21K-M ほんの少し・・・

2008-06-07 Montblanc 50年代No.146 14C-OB 斜面調整 
2008-06-04 Sheaffer PFM ?&? 部品そろえ!    
2008-06-02 性懲りもなく、ドボドボイジャー排斥への挑戦 
2008-05-31 Parker 75 赤ラッカー 18K-B 西の・・・・
2008-05-28 Pelikan 旧M800 18C-F EN+刻印  
2008-05-26 Platinum 純銀軸 18C・WG-Music 段差修正
2008-05-24 Pelikan M250 緑マーブル 14C-M カビと段差     
2008-05-21 Waterman セレニテ・ドラゴン 18C-M インク漏れ 
2008-05-19 Sheaffer Snorkel 14C-XF 内臓はボロボロ? 
2008-05-17 Montblanc No.149 14C-B 上品な書き味へ・・・ 

2008-05-14 Pelikan M400 茶縞 生贄:やりたい放題  
2008-05-12 セーラー・プロフィット・・・女王からの宿題 その2 
2008-05-10 Montblanc No.252 14C-F インクフロー改善
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Posted by pelikan_1931 at 12:00│Comments(9) このエントリーをはてなブックマークに追加 mixiチェック 萬年筆調整 
この記事へのコメント
怠猫しゃん

ペリカン、モンブラン、パーカー、ウォーターマン、シェーファーの合併調印などは?
Posted by pelikan_1931 at 2008年07月27日 11:34
>XXBでの生贄依頼はおいしい!

“ちび猫、まっしぐら!”です。
復刻初代赤軸についてたら,そりゃもう...
試し書きは、制服の方に囲んでもらって戦艦の甲板でやりましょう。(^^;

なにを調印するんだろう...


Posted by 怠猫 at 2008年07月25日 02:21
monolith6 しゃん

いつでもどうぞ! 
Posted by pelikan_1931 at 2008年07月22日 23:35
yemo しゃん

全面的に賛成ですな!

ロジウム鍍金の効果はインクフロー改善なので、裏側にだけあれば良い。
そしてペンポイント周囲は削ることが多いので、プラチナやロジウムの鍍金をされると困る!というのは調整師のだれもが感じていることじゃ・・・
Posted by pelikan_1931 at 2008年07月22日 23:33
 どなたの所有物か存じませんが、良いものをお持ちですね。元々はMニブしか選択できなかったのに、XXBニブを付けておられるのですから。煎餅のようなペン・ポイントを、四角張ったものに研ぎ上げる発想は、ちょっと思いつきませんでした。私自身も、どちらかといえば角研ぎの方が丸研ぎよりも好きで、そのためパーカーのXXBを3Bとは言えちょっと気に入らなかった訳ですが、こうして具体的な画像を拝見すると、僕もやって貰おうかなと思ったりします。
Posted by monolith6 at 2008年07月22日 12:43
景観・調整上の利便から見て、
現在の復刻Duofoldの装飾・鍍金デザインは、多分に上物とはいえますまい。
加えて-これは主観ですが-代を経る度に装飾過剰になってゆくきらいがあるように思えます。
しかしながら、そもそもにおいて、センテニアルのペン先の全体の形状は
非常に均整の取れたものであり、装飾で主張せずとも、Montblanc149開高健モデルや
Pilot Custom に比するのではないかと(個人的に)思うほど端整な輪郭を有しています。
この輪郭の美しさを壊さず、浮かず、調和の取れたデザインが生まれることを切に願います。

具体的には、オリジナルの戦前Duofoldやバキューマチックあたりの
シンプルなデザインが希望ですが、多分一般受けはしないでしょうなあ・・・

長文失礼いたしました
Posted by yemo at 2008年07月21日 22:39
ご返答有難うございます。
デザインの度重なる変更は、飽き易い顧客の気を惹くためのもの・・・
このことは万年筆のアクセサリー志向が進んだ現代、
Parkerに限らず、多くのメーカーが派手な軸を濫造
(実際には、色軸は今に始まったことでなく、
昔から作られているので語弊があるかもしれません)
していることに関連して、まだまだ考察する余地がありそうですね。

それはそうと、Duofoldのペン先についていくらか思うことがあるので
それについてもう少しばかり稿を取らせて頂きたいと思います。

師匠は常々、「軸自体に銀色が置かれない万年筆のペン先に
銀の装飾を施すのは、全体における色彩の整合性を損ね、甚だ不幸である」
と仰せらます。このことは、私は景観感覚面で全面的に支持しますが、
こと景観に関して、Duofoldについては、
ペンポイント直近の面にまでプラチナ鍍金
を施したことに、さらなる批点を有していると
指摘せねばならないでしょう。
というのも、Duofoldのポイントにおいて、イリジウム球はその大部分を
地金に埋め込まれた格好になっており、調整の過程で丸め、バフがけを
行うと、どうしても周囲の鍍金が剥げ、地金の色が露出してしまうのです。
銀色の原の中にところどころ点在する金色の剥げ・・・
日本刀における刀身のごとく、万年筆は、それが直接対象に
触れる部位であるペンポイントに、その艶なる美しさの
極地を湛えているというのが信条の私には、
このポイント周囲の剥げが気になるのです。
Posted by yemo at 2008年07月21日 22:38
yemoしゃん

現在定番品だけで食えるのは、ごくわずかのメーカーのみ。

ほとんどが限定品という小ロット生産のメーカーも多い。実は非常に効率的なのでな・・・

Parkerもそれに近い感じがするのは・・・気のせいかな?
いろんな模様やデザイン変更しているのは、顧客が明きやすいからかも。
それにしても限定品の魅力が少ない・・・
Posted by pelikan_1931 at 2008年07月21日 20:41
Duofold愛好家として私見を述べさせて頂きます。

総合的な完成度は高く、そのためか発売後十数年経っても
ペン芯を含む基本設計はほとんど変わっていないのに、
なぜか天冠付近とペン先のデザインはころころ変わってしまう。

考えるに、限定品を差別化したりする関係で意匠を込めるには
天冠やペン先というのは非常に都合の良い部位でしょう。
このことは、MontblancやPelikanなどにもしばしば見られます。

しかし、限定品ではなく、レギュラーの商品にさえそのデザインを
よく変更してしまうのは、あるいは個の製品のなかで
この部位だけがいまだ定着・完成されていない、
師匠の表現を借りれば「垢抜けない」と見なせる所以ではないでしょうか。

一方で、Parkerの伝説の一端を担ぎ、代表格たる地位を持つ商品が、
その頻繁に装飾を転換するという軽挙さは、
現在、ブランド的な観点から、Parkerをして
MontblancやPelikanの下風に位置せしめる要因の
一つではないかとも勘ぐってしまいます。

まあ、私個人としてはこの軽々しさ、安っぽさ、大衆的感覚、
とりもなおさず「世界で最も(=万人に)愛されるペン」を地で行く
Parkerの姿勢が好きで収集しているのですが。
Posted by yemo at 2008年07月21日 20:25