今回の依頼品はMontblanc No.142じゃ。珍しく?生贄ではない。多少なりとも書き味を向上して欲しい・・・という依頼内容。
通常、No.142のペン先ユニットは、ペン先とペン芯をエボナイト製のソケットで固定し、それを首軸にねじ込む形になっている。ところが今回の依頼品では、ソケット型ではなくペン芯とペン先を首軸内部に直接押し込むようになっている。
ペン先には歪みや波うちはなく、非常に綺麗!ただしスリットはピッタリと閉じており、インクフローは極端に悪い。
またペンポイントは月表面のクレーターのように凸凹で、ザラザラを通り越してジャラジャラという書きごこち・・・明らかに目の粗いサンドペーパーで成形し、表面仕上げをしていない状況と思われる。たまにペンポイントの素材が悪くて、いくら研磨してもザラザラのままという個体もあるが今回は大丈夫!
これが書き味が悪い原因!左側の画像を見ると、奥側が手前側よりも若干上に持ち上がっているのがわかる。
そして右側画像を見ると、ペンポイントに明らかな段差が見てとれる。
筆記すると、右から左向きにハネをする際に大きな音を立てて引っ掛かってしまう。【ジャリ〜〜〜〜】てなもんじゃ。
この状態で右画像の向かって左側を上に曲げると、背開きになる。といって右側を下に曲げようとしても、ハート穴から先の全てを曲げるのは不可能。ここはどうしてもペン先を抜き取って調整せざるを得ない。
ソケット化されていない以上、前から引っ張って抜き取るしかない。生憎と首軸は捻っても外れないほどきっちりと締まっている・・・
5分間ほど格闘したら運良くペン先だけスポッっと抜けた!ペン先が抜ければペン芯を抜くのは簡単。そのまま引っ張れば良い。
このフラットなペン芯はすぐに曲がったり折れたりするので、決して回そうとしてはいけない!あくまでも真っ直ぐに引き抜く感覚で・・・ゴム板で挟んで引っ張るのじゃ。
そして出来上がったのがこの画像。段差が見事に解消されているのがわかろう。【M】ということだがかなり平べったいペンポイント。これは期待できる!
上から見た画像が左。首軸へ押し込む際に非常に苦労した。ソケット化されていれば、ペン先とペン芯の位置関係の調整は、首軸からソケットを外したままでも可能。ところが軸に直接押し込むとなれば、押し込んでから若干のズレを発見した場合、またペン先とペン芯を抜くというリスクを冒さねばならない。
いかにソケット方式が便利かを痛感した!最近では海外製萬年筆でもソケット方式にしているメーカーが多い。先日、デルタのドルチェヴィータ・オーバーサイズでも発見!なんとソケットが金属製だった。インクがあたるところに金属製を使うというのはよくわからない・・・
これは単なる想像だが、ペン先やペン芯を一貫生産していない海外メーカーはソケット方式にして、軸加工の誤差を回転式ソケットで解消しようとしているのかも知れない。回転式ならネジ込み具合によって密着度が変えられるので・・・
こちらはペンポイントを整え、表面のクレーターを丹念に丸めた状態。出来上がった萬年筆で文字を書いてみると・・・美しい!とても拙者が書く文字とは思われない!
やはりスタブ形状のペンポイントでゆっくりとしたスピードで書くと、文字は通常時よりも綺麗に見える。ただし、普段の字が相当に下手な人のみが体験できる悦楽!
短くて細い萬年筆、しかもペン先が柔らかい萬年筆ほどこの悦楽が大きい!モンテローザやNo.342が頂点ではないかな?
【 今回執筆時間:5.5時間 】 画像準備2.5h 修理調整1.5h 記事執筆1.5h
画像準備とは画像をスキャナーでPCに取り込み、向きや色を調整して、画像ファイルを作る時間
修理調整とは分解・清掃・修理・ペンポイント調整の合計時間
記事執筆とは記事を書いている時間