【インクのカスについて】
まずはインクの滓(カス)と沈殿の区別が明確に示されている。沈殿と言うのはインキ瓶の底に、いつとはなく溜まる澱(おり)の事。滓とはペン先やインキ瓶の口回りに付着凝固する汚物のこと。
今回は滓(カス)について述べ、次回澱(おり)について述べる。非常に重要な部分なので、理解できる分量だけ提示する。
では滓(カス)は何故出来るのか? 理由は二つあるが、まずは未酸化インクの組成を見てみよう。
1:タンニン酸
2:没食子酸
3:硫酸第一鉄
4:強硫酸
5:アラビアゴム
6:ブドウ糖
7:サルチル酸
8:染料
アラビアゴムとブドウ糖は、インクの中の粘度を調整する目的で加えられている。すなわち沈殿物を底に落ちないように粘度を高くして吊っておくわけじゃ。ここでは粘度調整剤と呼ぶことにする。
サルチル酸は防腐剤として入れた物。
そして、滓(カス)となるのは・・・
(1):インク中の色素(染料)とか、粘度調整剤とかの不揮発性物質が水分が乾燥した跡にこびりつく
(2):インキ中のタンニン酸第一鉄、または、没食子酸第一鉄が空気中の酸素と結びついて、水に溶けない青黒色の第二鉄がそこら中にこびりつく
という2つの原因がある。
この滓(カス)の防御策としては3つの方法がある。
(1):なるべく濃度の強い上等の色素を用いること
(2):粘度調整剤はなるべく最低量にすること
(3):酸を適量加えて酸化黒変作用を遅らせること
濃度の高い色素は値段も高いので、コスト競争力が無く、メーカーとしては今一歩踏み出せないでいた分野。
粘度調整剤を入れる理由は、インキ瓶中で、インキの液面が空気と触れている為、そこで酸化黒変作用が営まれ液中に不溶性の粒子が出来、それが底に沈殿しようとするのを途中で吊り支えて淀ませないようにするための苦肉の策。
ここが面白いのだが、当時はインキの粘度を最小に保つ事がインキ製造技術の評価だった!それで今でもインキの粘度は低く作るのかなぁ・・・
現在最高の書き味と評価の高い【プラチナ・カーボンインク】も当時では【粘度が高い】として評価されなかったかも知れない。
酸を加えてインキの酸化黒変作用を遅らせるのは、滓(カス)の予防策として要領を得た方法。ただし調子に乗って酸を強くすると鉄ペンを溶かしてしまう。また紙にも悪い。
翻って、現在国産インクで酸性というのはプラチナのブルーブラックしかない。あとは全て中性かアルカリ性に分類される。という事は、インキに関しては当時から大きな技術革新があったということ。
しかし、安全なインキがあふれかえっていると、敢えて【あぶないインキ】を使ってみたい誘惑にかられる事もある。拙者はこっそりと何十年も前の危ないインクをインクに入れて楽しんでいる。特に匂いに惹かれる・・・強酸性ほど匂いも魅力的!危ない世界じゃ!
【過去の記事一覧】
解説【インキと科學】 その2−1
解説【インキと科學】 その1