今回の依頼品は、かの【雑巾トレド】。彫刻のベース部分がベタついてきたので、雑巾で擦っていたらどんどん剥がれて、ベース部分が無くなり、【ホワイト・トレド】に近くなってしまったというもの。
所有者はなんとかしてベースの黒を復活させようとしたが、皆にあまりに人気が高いので思いとどまっている状態じゃ。
今回は大人気の【雑巾トレド】の書き味を向上させて、究極の一本にしようというもくろみ。
ペン先は復刻トレド第一世代の18金製のモノトーンニブ。ヘロヘロに柔らかく上級者には非常な人気を得たが、(おそらくは)使いこなせない人が続出し、後に18金バイカラーのニブに交換されてしまったもの。
改めて初期トレドの書き味を体験してみると・・・実に柔らかい!しかし、これで速記するにはニブからの反応がゆっくりで、かえって疲れてしまう。あくまでもゆっくりとした筆記を堪能するのに最適な万年筆である。
この個体では、スリットが詰まっており、書き出し時のインクフローが多少ものたりない。
胴体への刻印は【1/B 63 XX】となっている。噂では左端の番号は、その彫刻師が彫った連番と言われている。3なら同じ彫刻をほどこした3本目ということになる。
そして【1】がついている物は、彫刻師のいわば処女作であり、まだ形が安定していないため、ペリカンの顔が不細工!と言われている。
もちろん【1】が一番人気がある・・・もっとも関東地区【WAGNER】の、しかも非常に狭い範囲の人々の間での流行じゃ。拙者も久々に【1】を拝見したが、やはり不細工ペリカンが刻印されている。良いなぁ〜
こちらがスリットを多少拡げた状態のペン先。ソケットから外せば、0.5秒でここまで持ってこれる。VintageのPelikanと違い、ペン先にコシが無いので、調整戻りもほとんど無い。それが良いかどうかはともかくとして、調整は非常に楽!
【使用者を選ぶ万年筆】というほどの絶対性能を持っているわけではなく、単に【ペン先がヘロヘロに柔らかいだけ】の失敗作と言って間違いはない。しかし、この【失敗作】のペン先を一度体験してしまうと、底なし沼に引きずり込まれるように、柔らかいペン先に溺れてしまう。そう、麻薬にはまるような感覚で・・・
調整としての工夫は、いったん上の画像のようにペン先のスリットを思いっきり開いた状態にしてペン芯にセットしソケットで固定した後で、多少ペン先を詰めること。
柔らかいペン先は、筆圧が低くともスリットの両側が左右に拡がりやすい。このため、ポンプ運動も活発で、インクをどんどんペンポイントの方へ送り出してくる。柔らかいペン先でインクフローが抜群となれば、ヌラヌラ派には【福音】。拙者は基本的には万年筆で大量の字は書かないので結論じみた事は言えないが、短時間筆記でもかなり疲れるのはたしか・・・。大量筆記ではなく、短時間筆記で書き味を堪能し、【フッ・・・】と唇を緩ませる行為に溺れるための万年筆じゃな。
それにしても、横顔はいつ眺めても美しい!拙者の好みで多少ペン芯を後に下げているが、この柔らかいペン先ならポンプ運動が活発なおかげで、インクが途切れることは無い。
ペン先には【EN】の刻印がある。こういう細部でも楽しめるのが、コレクションの楽しさ。いずれにせよ一生に一度は、この書き味に触れて欲しい。8月3日の定例会には【雑巾トレド】も参加してくれるのではないかな?
そしてトレドといえば、イエロー・トレド。拙者はペリカンのM800系の限定品は何本か持っているが、M900/M910系のトレドは所持していなかった。5本くらいは購入した記憶はあるのだが、全てお嫁に行った。非常にバランスが良く、手に馴染むので、筆記感が良く・・・・・すぐに飽きてしまうのじゃ。拙者は万年筆の書き味が良くなると、ほどなく飽きてしまうという悪い癖がある。
しかし、このイエロー・トレドには、飽きたくない。【麒麟】はM900系だが、イエロー・トレドはM910系。日常筆記に使うために【M】ニブを選択した。コレクションとしてなら、3BかBBを選ぶところだがな・・・。
スリット調整や段差調整、それに伴うペン芯の微調整(実はペリカンの初期段差の原因の多くはペン芯が左右対称でないことによるもの)は施したが、【スイートスポットの削り込み】はしなかった。スイートスポットを作り込むと、異様に書き味が滑らかになり、すぐに飽きてしまう。敢えて(多少)下品な書き味を残しておくことによって、イエロー・トレドを少しでも長時間楽しみたいと考えている。
【 今回執筆時間:5時間 】 画像準備1.5h 修理調整2h 記事執筆1.5h
画像準備とは画像をスキャナーでPCに取り込み、向きや色を調整して、画像ファイルを作る時間
修理調整とは分解・清掃・修理・ペンポイント調整の合計時間
記事執筆とは記事を書いている時間