1960年代No.149の第三弾。これもどこかこに不具合があって持ち込まれた。ここまで1960年代No.149のピストン不具合が続くと、尻軸状態を見ただけで【またかぁ〜】とつぶやいてしまう。
1960年代のNo.149を入手したなら、それ一本で毎日大量の文章を書くか、コレクションとしてインクを入れないで保存しておくかのどちらかにすべき。インクを入れたまま数週間放置する可能性があるような方には絶対お薦め出来ない!胴軸内部でインクが乾いたら・・・壊れると考えたほうがよい。
この依頼品には1950年代のキャップがついている。キャップリングが銀金銀の形になっている。そしてキャップトップのホワイトスターが黄ばんでいるのが特徴。
キャップトップが象牙だから変色する・・・というような噂が一時飛びまわったが、単にプラスティックの質が悪かっただけと拙者は考えている。
それにしても1950年代のセルロイド製のキャップが、1960年代の樹脂製の胴軸にねじ込めるとはたいしたもの。明確な理由がない限り、企画を変えないというのは立派!
ペン先の鍍金はかなりくたびれているが、非常に立派!やはりNo.149のペン先はすばらしい。
ただそれにしては書き味がいまいち下品。スイートスポットの問題ではなく、ペン先が力(りき)んでいる感じがする。
また目を凝らしてみると、首軸の一部が裂けているではないか!拙者が修理前にスキャナーで全身を撮影する理由はまさにココ!
肉眼では見落としやすい不具合を発見できる可能性も高い。さらには、預かった段階から不具合があったのか、修理の途中で壊れたのかの判断にも使える。
これがペン先の横顔。先端部分だけがずいぶんとお辞儀している。
これは想像だが、長年書いている間にペン先がペン先と乖離した為、反対側から押し付けて直そうとしたのかもしれない。まさに【折れる】ように曲がっているのじゃ・・・
これは形状を元に戻し、スイートスポット位置も微修正する必要がある。その処置を施すかどうかは、この万年筆の今後の動向にからむが・・・
とりえずは形状を元にもどし、スリットを広げ、ペン先を押すように書くときでも紙にひっかからない調整を施した。
この調整を施すと裏書きも気持ちよく出来るようになる。また左利きの人でも使える。そしてペン先の形状は最も美しくなる。生贄として供されるもの全てにこの調整を施したいほどじゃ!
首軸の割れはかなり大きい。これでは筆記時にインクで手が汚れてしまう。
残念ながら首軸が割れた場合に施せる措置を拙者は知らない。インク窓だけの割れなら直したことはあるが、首軸先端まで割れが入った場合は手の施しようがない。この胴軸はオシャカになり、残りの部品で使えそうなものを他の修理品に提供するだけとなる。
いわゆる本来の【生贄】じゃ!
上が今回の修理品の部品。下が8月2日に紹介した献体から摘出されたピストン機構じゃ。
残念ながら、この2つの部品を組み合わせても完全なピストン機構は再現できない。尻軸に付属のらせん棒がだめなのが原因。しかしそれ以外であれば、下側中央のユニットと、上側右端のピストン機構を組み合わせれば、少しはましになる。
そして、そこへ1970年代No.149の尻軸をねじ込んで微調整をすれば、右側のようにピストン機構が完成する。
これを8月6日に紹介した献体の胴軸に押し込めば、オリジナルとは部品は一部違うが、使い物になる胴体が完成する。
それに同じく8月6日モデルのキャップを取り付ければ、1960年代No.149【尻軸螺旋棒年代違い】が出来る。
なんのことはない・・・この万年筆からの献体は、ピストン弁とピストン棒だけということになる。
では1970年代の尻軸はどこから来たか?それは次々回に紹介するモデルから・・・やはり同じ方からの持込じゃ。そちらは8月16日に紹介する!
【 今回執筆時間:4時間 】 画像準備1.5h 修理調整1h 記事執筆1.5h
画像準備とは画像をスキャナーでPCに取り込み、向きや色を調整して、画像ファイルを作る時間
修理調整とは分解・清掃・修理・ペンポイント調整の合計時間
記事執筆とは記事を書いている時間