2008年08月07日

解説【インキと科學】 その3−1

【粘稠剤が沈殿を防ぐ理由】

 ここでは、何故沈殿を防ぐためにインキの粘度をあげざるをえないが数式で表現されている。

  拙者の経験では、粘度の高いインクほど書き味が良い。以前よりインキの水分を飛ばすとインキの色が濃くなると同時に書き味も向上すると言われていたが、これも粘度向上によるところが大きいのであろう。

 ところがインキ製造者の立場からすると、インキにアラビアゴムなどを入れて沈殿を防ぐのはあくまでも苦渋の選択であり、粘度の低いサラサラしたインキで、しかも沈殿の少ないインキを作る事こそが理想である結んでいる。


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  この数式は、ストークス氏の粒子沈殿律じゃ。数式を漫然と眺めても意味がわからないが、渡部氏が明快な解説をしてくれている。


 【第一の解釈】:粒子の沈殿する速度Vは粘度ηに反比例する

 つまりインクの粘度を大きくするほど沈殿は遅くなるということ。インキ技師達は経験的にストークス氏の沈殿律を悪用していた・・・とこき下ろしている。

 たしかにインキの中にアラビアゴムなどを大量に混入させられたら、萬年筆製造業者はたまったものではない。


 【第二の解釈】:粒子の沈殿する速度Vは粒子の半径rの二乗に正比例する

 すなわちインキ中の粒子は小さいだけ沈殿は遅くなる。しかも粒子の大きさ(直径/半径)が半分になると沈殿の速度は四分の一になる事。これからみてもインキに使う色素、その他の薬品等は出来るだけ粒子の小さくなる物を選定しなければならない。

 そういえば各社のカーボンインクは【ナノカーボン粒子】なんてことをうたっていたような記憶もある。カーボンインクでは染料系インキと違って、どうしてもカーボン粒子が必要となる。従ってインキの沈殿を防ぐためには【ナノカーボン】化とインキの粘度を上げる事が必要になってくるわけか・・・ただ【極黒】などは粘度はそれほど高くない。プラチナカーボンよりは粒子が細かいのかも知れない。もっとも書き味ではプラチナカーボンが圧倒しているが・・・


 
【第三の解釈】:粒子の沈殿する速度Vは粒子の比重d1と溶媒の比重d2との差に正比例する

 すなわちインキ中の粒子の比重が大きいほど沈殿が早いことを示している。もし粒子の比重が水と同じであったら沈殿は一切発生しないことになる。


 このストークス氏の粒子沈殿律は粒子の大きさが0.1μ以上の比較的大きな場合にのみあてはまり、それ以下になってブラウン運動をはじめるようになると適用出来なくなるらしい。それにしても渡部氏の説明はわかりやすい!



【過去の記事一覧】

解説【インキと科學】 その2−3    
解説【インキと科學】 その2−2  

解説【インキと科學】 その2−1  
解説【インキと科學】 その1   



Posted by pelikan_1931 at 07:30│Comments(0) このエントリーをはてなブックマークに追加 mixiチェック 文献研究