今回の依頼品は珍しい症状だった・・・
元々Montblancの弱点はインク漏れが多いということだが、通常はキャップ内部を綺麗に清掃していれば防げる程度のもの。すなわちキャップを外したときにインクで手がよごれるのであれば、とりもなおさず、萬年筆の手入れが悪い!ということだった。
今回もそれだな!と考えたのだが、毎回清掃しても首軸先端からインクがにじみ出てくるような気がするとか。
そういわれてみれば首軸先端部にインクでがこびりついたような痕跡が残っている。ただ先端部はしっかりと胴軸にねじ込まれていて、そこからインクが漏れるような気もしないのだが・・・
ペンクリでは原因がわからなかったので、預かって調査を続行してみることにした。インクを入れておくと、確かに首軸ユニットと胴軸との接合部。上の右側画像の切れ目からインクが漏れてくる。
原因を解明するためには全体感も必要。まずはペン先部分を確認してみた。なんとペン先とペン芯との間に隙間がある。しかもペン先はかなり背開きで、お辞儀も無い。これはあきらあに故意にペン先を反らせる改造を行ったと考えられる。
以前の利用者が相当にペンを立てて書く人だったのであろう。そこでペン先を多少反らせ気味にして、ペンポイントのおいしい所が紙に当たるようにしたのかな?ただその際にペン芯とペン先の乖離を計算に入れてなかったのかも・・・
ピストン機構の金属部にも、ピストン軸のプラススティック部分にも白い粉のようなものが付着している。接着剤か溶剤かの痕跡だろう。どうやら一度は分解して清掃していたらしい。非常にスムーズにピストン機構が外れたように感じられた。
右上画像の胴軸先端の透明樹脂部分に大きなクラックが入っている!これがインク漏れの原因じゃ!ただし首軸先端の部品が完璧ならばそれほど多量に漏れはしないはずだがな?と考えてチェックしていたら・・・
ペン先とペン芯を挟み込むソケット先端部分がポロリと外れた。拡大してみると、この部分が脆くなって外れたのじゃ!乾いたインクでかろうじて接着していただけで、実際には割れていた!胴軸先端部にクラックがあり、ソケット先端部品が分解しているのであれば、ここからインクが漏れるのは理解できる!原因は解明された!
さて対策じゃが・・・正直言って無い!部品にして後世の人の役にたってもらうかなぁ・・・と考えながら部品箱をあさっていたら、現行のNo.146用のソケットが出てきた。
ネジ込んでみると、どうやら胴軸の内側とンジの径は同じで使える!これは生き返るかも知れないとよろこんだのもつかの間・・・
エボナイト製ペン芯にペン先を乗せて、このソケットに差し込んでもグラグラでペン先が固定しない。そうであった!現行品はペン芯の径がエボナイト製ペン芯の時代よりは太くなっているのじゃ。
現行品用のプラスティック製ペン芯はないかな?と捜してみたらあった!これで再生は出来そう!あとはペン先の調整。
これが清掃前後のペン芯の内側。これほどまでにすごいペン先裏は久しぶり!エボ焼けとインク滓がこびりついてほとんど真っ黒状態。
これを金磨き布で丹念に擦って下の状態にまで持ってきた。
ペン先はヘミングウェイ時代の物で、現行品ではない。現行品なら根元にV字型の切れ込みがあるはず。エボナイト製ペン芯であったこと、コストカット穴が空いていることから考えれば、1990年前後のNo.146であったと想像される。
こちらがソケットとペン芯を現行品に交換して胴軸にねじ込んだ状態。ペンポイントは多少上品な書き味になるように微調整を施した。
胴軸のクラックも一応は補修剤を塗っておいたので以前ほど派手には漏れないであろう。ペン先を多少お辞儀させたので、ペン芯との間の乖離も無い。またペンポイントも相当無惨な形状になっていたので、整えておいた。書き味はストレスなくインクが出てくるように調整。
はたして依頼者の好みにあうかな?
【 今回執筆時間:6.5時間 】 画像準備2.5h 修理調整2.5h 記事執筆1.5h
画像準備とは画像をスキャナーでPCに取り込み、向きや色を調整して、画像ファイルを作る時間
修理調整とは分解・清掃・修理・ペンポイント調整の合計時間
記事執筆とは記事を書いている時間