2008年08月20日

水曜日の調整報告 【 Montblanc No.146 14K-F 首軸よりインク漏れ 】

2008-08-20 01 今回の依頼品は珍しい症状だった・・・

 元々Montblancの弱点はインク漏れが多いということだが、通常はキャップ内部を綺麗に清掃していれば防げる程度のもの。すなわちキャップを外したときにインクで手がよごれるのであれば、とりもなおさず、萬年筆の手入れが悪い!ということだった。

2008-08-20 022008-08-20 03 今回もそれだな!と考えたのだが、毎回清掃しても首軸先端からインクがにじみ出てくるような気がするとか。

 そういわれてみれば首軸先端部にインクでがこびりついたような痕跡が残っている。ただ先端部はしっかりと胴軸にねじ込まれていて、そこからインクが漏れるような気もしないのだが・・・

 ペンクリでは原因がわからなかったので、預かって調査を続行してみることにした。インクを入れておくと、確かに首軸ユニットと胴軸との接合部。上の右側画像の切れ目からインクが漏れてくる。

2008-08-20 04 原因を解明するためには全体感も必要。まずはペン先部分を確認してみた。なんとペン先とペン芯との間に隙間がある。しかもペン先はかなり背開きで、お辞儀も無い。これはあきらあに故意にペン先を反らせる改造を行ったと考えられる。

 以前の利用者が相当にペンを立てて書く人だったのであろう。そこでペン先を多少反らせ気味にして、ペンポイントのおいしい所が紙に当たるようにしたのかな?ただその際にペン芯とペン先の乖離を計算に入れてなかったのかも・・・

2008-08-20 052008-08-20 06 ピストン機構の金属部にも、ピストン軸のプラススティック部分にも白い粉のようなものが付着している。接着剤か溶剤かの痕跡だろう。どうやら一度は分解して清掃していたらしい。非常にスムーズにピストン機構が外れたように感じられた。

 右上画像の胴軸先端の透明樹脂部分に大きなクラックが入っている!これがインク漏れの原因じゃ!ただし首軸先端の部品が完璧ならばそれほど多量に漏れはしないはずだがな?と考えてチェックしていたら・・・

2008-08-20 07 ペン先とペン芯を挟み込むソケット先端部分がポロリと外れた。拡大してみると、この部分が脆くなって外れたのじゃ!乾いたインクでかろうじて接着していただけで、実際には割れていた!胴軸先端部にクラックがあり、ソケット先端部品が分解しているのであれば、ここからインクが漏れるのは理解できる!原因は解明された!

 さて対策じゃが・・・正直言って無い!部品にして後世の人の役にたってもらうかなぁ・・・と考えながら部品箱をあさっていたら、現行のNo.146用のソケットが出てきた。

2008-08-20 08 ネジ込んでみると、どうやら胴軸の内側とンジの径は同じで使える!これは生き返るかも知れないとよろこんだのもつかの間・・・

 エボナイト製ペン芯にペン先を乗せて、このソケットに差し込んでもグラグラでペン先が固定しない。そうであった!現行品はペン芯の径がエボナイト製ペン芯の時代よりは太くなっているのじゃ。

 現行品用のプラスティック製ペン芯はないかな?と捜してみたらあった!これで再生は出来そう!あとはペン先の調整。

2008-08-20 09 これが清掃前後のペン芯の内側。これほどまでにすごいペン先裏は久しぶり!エボ焼けとインク滓がこびりついてほとんど真っ黒状態。

 これを金磨き布で丹念に擦って下の状態にまで持ってきた。

 ペン先はヘミングウェイ時代の物で、現行品ではない。現行品なら根元にV字型の切れ込みがあるはず。エボナイト製ペン芯であったこと、コストカット穴が空いていることから考えれば、1990年前後のNo.146であったと想像される。

2008-08-20 10 こちらがソケットとペン芯を現行品に交換して胴軸にねじ込んだ状態。ペンポイントは多少上品な書き味になるように微調整を施した。

 胴軸のクラックも一応は補修剤を塗っておいたので以前ほど派手には漏れないであろう。ペン先を多少お辞儀させたので、ペン芯との間の乖離も無い。またペンポイントも相当無惨な形状になっていたので、整えておいた。書き味はストレスなくインクが出てくるように調整。

 はたして依頼者の好みにあうかな?


【 今回執筆時間:6.5時間 】 画像準備2.5h 修理調整2.5h 記事執筆1.5h
画像準備
とは画像をスキャナーでPCに取り込み、向きや色を調整して、画像ファイルを作る時間
修理調整とは分解・清掃・修理・ペンポイント調整の合計時間
記事執筆とは記事を書いている時間
    
    


【これまでの調整記事】

2008-08-18 Pelikan M800 現行品 18C-M 軽い引っ掛かり 
2008-08-16 1970年代 Montblanc No.149 14C-F 尻軸ユニット破損 
2008-08-14 NAMIKI Vanishing Point 14K-B インクフロー改善 
2008-08-11 1960年代 Montblanc No.149 14C-M 首軸破損 
2008-08-09 Parker Victory 酔いどれの後始末  
2008-08-06 Montblanc No.149 18C-EF ペン先曲がり   
2008-08-04 Sheaffer インペリアル 14K-F 手が伸びるペンに!      
2008-08-02 Montblanc No.149 14C-F ピストン動かず・・・    
2008-07-30 Pelikan M700 雑巾トレド 18C-M 書き味微調整    
2008-07-28 Montblanc No.144G 14C-OB→B 研ぎ出し    
2008-07-26 Parker Duofold International 18C-XXB 生贄    
2008-07-23 1950年代 Montblanc No.142 14C-M 書き味向上     
2008-07-21 Parker Duofold センテニアル 18C-XXB 生贄       
2008-07-19 1950年代 Montblanc No.146 14C-BB 生贄      
2008-07-17 Pelikan 500N 茶縞 14C-M インクフロー改善      
2008-07-15 Montblanc No.149 14C-M 書き味向上     
2008-07-07 Delta ドルチェビータ オーバーサイズ 呼吸困難  
2008-07-05   Sheaffer インペリアル 純銀 首軸ユニット交換   
2008-07-02   Montblanc No.149 胴軸交換   

2008-06-30 Pilot 旧エラボー 14K SB ペン芯乖離                     
2008-06-28 Warl Eversharp Red Ripple 14K-Flexible                      
2008-06-25 Pelikan M800 18C-M 現行品最高の書き味に!   
2008-06-23 Marlen スケルトン 18K-M 掠れと出過ぎ   
2008-06-21 Montblanc No.342 14C-EF ひっかかり 
2008-06-18 Sheaffer Tuckaway 14K-XF ペン先曲がり   
2008-06-16 AURORA 88 14K-B 書き出し掠れ解消   
 
2008-06-14 Montblanc No.234 1/2G 14C-OB 斜面調整      
2008-06-11 Montegrappa 八角軸 バーメイル 18K-B 背開き

2008-06-09 Sailor キングプロフィット 21K-M ほんの少し・・・

2008-06-07 Montblanc 50年代No.146 14C-OB 斜面調整 
2008-06-04 Sheaffer PFM ?&? 部品そろえ!    
2008-06-02 性懲りもなく、ドボドボイジャー排斥への挑戦 
2008-05-31 Parker 75 赤ラッカー 18K-B 西の・・・・
2008-05-28 Pelikan 旧M800 18C-F EN+刻印  
2008-05-26 Platinum 純銀軸 18C・WG-Music 段差修正
2008-05-24 Pelikan M250 緑マーブル 14C-M カビと段差     
2008-05-21 Waterman セレニテ・ドラゴン 18C-M インク漏れ 
2008-05-19 Sheaffer Snorkel 14C-XF 内臓はボロボロ? 
2008-05-17 Montblanc No.149 14C-B 上品な書き味へ・・・ 

2008-05-14 Pelikan M400 茶縞 生贄:やりたい放題  
2008-05-12 セーラー・プロフィット・・・女王からの宿題 その2 
2008-05-10 Montblanc No.252 14C-F インクフロー改善
2008-05-07 Pelikan 400NN 14C-F 超硬いピストン
2008-05-05 masahiro エボナイト軸 ペン先交換   
2008-05-03 女王陛下のプラチナ・ミュージック   
2008-04-30 Pelikan M700 18C-F → BB ペン先交換 
2008-04-28 Pelikan M800 18C-3B ペン先交換 
2008-04-26 Montblanc No.644 14C-B ピストントラブル
2008-04-23 Pelikan 400 茶縞 14C-BB 秀逸なペン先  
2008-04-21 ROLEX Pen 14C-M インク吸入せず! 
2008-04-19 Omas ミロード 青軸 18K-M 生贄
2008-04-16 Waterman Gentleman かなりボロボロ!
2008-04-09 Pelikan 100N 14K-O ペンポイントが・・・   
2008-04-07 Montblanc No.264 14C-F ペンポイント段差 
2008-04-05 Pelikan 400NN 茶縞 14C-F ソケット交換 
2008-04-02 Montblanc No.254 14C-BB インク切れ

Posted by pelikan_1931 at 07:30│Comments(6) このエントリーをはてなブックマークに追加 mixiチェック 萬年筆調整 
この記事へのコメント
しまみゅーら しゃん

バスコークの白くなるやつは目立っていかんですが、透明物はよさそうですな。
Posted by pelikan_1931 at 2008年08月28日 00:34
 いえ、大丈夫でした。ペン先側から少量注入して(天冠まではみ出すほどではなく)、綿棒でぐりぐりして余分なコーキング剤を除去し、3日ほど乾かしたら、いい感じで塞がりました。天冠側からは見えません。

 コーキング剤は乾くと透明になるヤツを使いましたが、乾く前も天冠側からは何も見えませんでしたから、普通のバスコークでも大丈夫だと思いますよ。綿棒のぐりぐりにより、コーキング剤が少量でも穴にうまく満遍なく埋まったのではないかと思います。
Posted by しまみゅーら at 2008年08月27日 12:26
しまみゅーらしゃん

ソネットのキャップをコーキングすると天冠が不細工になりませんかな?
Posted by pelikan_1931 at 2008年08月26日 21:31
 私のパーカー・ソネット(旧型)も、主軸の先端の金属部品あたりからインクが漏れます。主軸部品のどこかに多量に吸い込んだらしく、以前に使っていた別のインクがそこから漏れ出してくるのです(そのインクとは、モンブランのシーズンズグリーティングインクで、今は別のインクを入れているのにシナモンの香りが漂っています)。

 ま、使っている本人はあまり気にはしていませんがね。

 バスコークといえば、ソネットのキャップをコーキングしたらペン先が乾かなくなりました。
Posted by しまみゅーら at 2008年08月26日 14:23
kokeしゃん

ああ、バスコークでしたか。なら安心です。
Posted by pelikan_1931 at 2008年08月24日 08:53
5
ありがとうございます。これでまだまだ使えます。ここしばらくはあまりのインク漏れに使用をあきらめていただけに感激です。
白い粉が付着しているのは、以前インク漏れ対策(一時的)に浴室タイル用のボンド(?)を塗っていただいたことがあるためだと思います。
Posted by koke at 2008年08月23日 17:15