第15章には衝撃的な表現があり非常に驚いた。それは・・・
【改竄を防がねばならぬ証券類とかその他永年保存せねばならぬ書類とかには必ずパイロットブラックの如きカーボン・インキを使うべきでありまして、決してブルーブラック・インキとか、その他の各種色インキの如きを使ってはならぬ訳の物です。薬の配合で作ったインキは何らかの薬をもってすれば必ず消すことが出来ると判断して間違いありません】
と書いてあったからじゃ。今までブルーブラック・インキは二ヶ月もすれば耐水性、耐光性が上がり、永久保存に耐える物と考えていたが、それはあくまでも自然保存の場合であって、薬品を使えば字を消す事が可能ということなのか・・・
渡部氏によれば・・・
【まずインキ液の一部をとりわけしまして、その中に塩酸を加えて強酸性にしてみます。こうした時インキ液の青色が少しも変化しなかったら、次に臭素水かまたは漂白粉を加えてみます。その時インキ液が褐色に変わってきたら、それは用いてある染料がインディゴであるからです。】
【もしまた、染料としてプルシャン・ブルーが使ってあるインキなら、水酸化ソジウムを加えてみますと、インキ液の青色が褐色に変わるもので、それによりだいたいの認定は出来ますが、さらに念のため、濾過したインキ液を塩酸で酸性にしておいて、それに塩化第二鉄を加えてみます。するとその時に濃青色の沈殿が出来たらなら、これは明らかにプルシャン・ブルーが使ってあると判断して間違いありません。】
【カーボンを使ってある黒色インキであるなら、酸でも、アルカリでも、塩素でも、臭素でも、その他いかなる薬品を持ってしてもその黒色を破壊したり漂白したりする事は絶対に不可能であります。パイロットのブラック・インキは特殊な方法でカーボンを混入してありますから、書かれた文字はどんなに化学的な方法で処理してみてもビクともするものでありません。】という記述の後で、冒頭の文章になっている。
ここまでの文章と、冒頭の文章との間に若干の論理展開の飛躍があるように思われる。ここまではインキの成分を分析する手法を述べているのだが、それが冒頭の文章で、いきなりブルー・ブラックは永年保存には適しない!といわれてもなぁ・・・という唐突感があった。
また、パイロットのブラックインクにはカーボンが混入してある・・・そんな馬鹿な・・・と思っていたが、考えてみればパイロットには証券用インクというのがある。萬年筆に入れて使うと、すぐに固まってしまい大騒ぎになるが、証券用というだけに耐久性は極めて高い。
実は拙者はこの証券用インクをオマスの萬年筆に入れて使っていた時代がある。プラチナ・カーボンインクに出会うずっと前。
当時はペリカンのファウントインディアくらいしか真っ黒なインキが無かったが、意外と耐水性が弱かったので色々実験してみた結果、パイロットの証券用インクにたどり着いた。
ところが数日使わないとすぐにペン芯を詰まらせてしまう・・・ということで、ペン芯構造が単純で清掃しやすいオマスの萬年筆に入れて愛用していた。詰まったらペン芯を抜いてスリットを掃除すれば良いと割り切って使っていた。
それにしても、本当に、紙に書いて何年も経過したブルーブラック・インクの文字を薬品で消すことができるのかなぁ?少なくとも茶褐色の筆跡は残るような気がするのだが・・・
【過去の記事一覧】
解説【インキと科學】 その14
解説【インキと科學】 その13
解説【インキと科學】 その12
解説【インキと科學】 その11
解説【インキと科學】 その10−2
解説【インキと科學】 その10−1
解説【インキと科學】 その9
解説【インキと科學】 その7−2
解説【インキと科學】 その7−1
解説【インキと科學】 その6−2
解説【インキと科學】 その6−1
解説【インキと科學】 その5
解説【インキと科學】 その4
解説【インキと科學】 その3−2
解説【インキと科學】 その3−1
解説【インキと科學】 その2−3
解説【インキと科學】 その2−2
解説【インキと科學】 その2−1
解説【インキと科學】 その1