今回の依頼品はMontblanc 1950年代初期のNo.144 14C-BBじゃ。No.139は別格としても、No.149、No.146、No.142と比べて、No.144がこの時代ではもっとも優れているように思える。修理しやすさの観点では。
そもそもピストンのコルクの劣化以外に、それほど大きなトラブルに出会わない。No.146、No.142は似たような部品を使っているのに機構上のトラブルが多いし、No.149にいたっては、収縮が必須のセルロイドでこんなに太い軸を作るのが間違いだったのでは?と思わせるほど不具合が多い。あくまでも拙者が所有したり、修理してきた200本程度のNo.14Xの中での感想だがな。
今回のNo.144にも機構上の不具合はない。というかコルク交換されて、新品同様の状態でやってきた。
依頼内容は、ガリガリの書き味を何とかして欲しいというもの。ペン先を上から見てもガリガリの書き味になるようなところは見あたらない。強いて言えばペン先のスリットが詰まりすぎてインクフローが悪いかな?という程度。
横顔を見ると、画像奥のペン先がわずかに浮かび上がっているのがわかる。これによって生じた段差がガリガリを感じさせるのでは?と思ったが、実際に紙に当てると段差は無くなる。
この時代のニブは、薄くて柔らかく弾力がある。従って筆圧をかければ、かけた方向にスっと開くので段差は問題なくなる。
ただしペンポイントの腹が尖っているので、接紙する際に面ではなく線で当たっているはず。これではガリガリしてもしかたないので、多少スイートスポットを入れておくことにする。
こちらは首軸を後ろ側から見たところ。空気穴は大きいが、インクの通り道である溝が広くて短く、こんなんで毛細管現象がはたらくのかな?と不安になる。
実は左の画像は上下逆。黒い溝の部分が、右側画像のペン芯の表側になっている。
こちらの画像であればわかりやすいであろうが、ペン芯の下側から入ったインクは、溝を通じて、ペン芯の上側に上り、ペン芯の溝を伝ってペン先まで運ばれるという構造。
この時代のペン芯は、毛細管でインクを運ぶと言うよりも、空気の通路を広く確保することによって、インクが自然と流れ落ちるというような設計ではないか?
その昔、フェンテのでべそ会長が、50年代No.14X(フラットフィード)が好きな理由として、【インクがストーンと落ちてくるようなフローが気持ちよい】というのを挙げられていた。まさに言い得て妙。このペン芯は、毛細管でインクを引っ張り上げるというよりは、インクを効率的に落下させるのが狙いなのかもしれない。
テレスコープ吸入式による大量のインクを腹に溜め、インクの保持能力の低いフラットフィードでインク漏れを防止するのは至難の業であったろう。というか、かなり漏れて問題を起こしたはずじゃ。でなければ1950年代後半になって、厚いペン芯に変わった理由がわからないから・・・
調整として、スリットを多少拡げた。これは難しい。鍛造ペン先は多少力を加えても、元に戻ろうとする力が強いので、なかなか開かない。しかも多少お辞儀しているペン先。このため、多少ペン先を上向きに変え、それにあわせてペン芯も多少反らせた。こういう加工をする際には、フラットフィードは実に簡単に変形してくれるので助かる。
この時代のBBはイタリック調に研がれている物が多い。従って横線は極細だが、縦線は極太。その分、斜めの線を引くとガリガリと引っ掛かる。
これを修正するために、腹側のエッジを多少丸めた。インクフロー向上もあって、まさに夢のような筆記感が得られた。筆圧をゼロに近くして書いても、インクはどんどん落ちてくる。これが【でべそも感激ぃ〜】の書き味なのじゃな。大成功!
【 今回執筆時間:4.5時間 】 画像準備1.5h 修理調整2h 記事執筆1h
画像準備とは画像をスキャナーでPCに取り込み、向きや色を調整して、画像ファイルを作る時間
修理調整とは分解・清掃・修理・ペンポイント調整の合計時間
記事執筆とは記事を書いている時間