本日の依頼品はPelikan トレド M700。尻軸にはW.-GERMANYと彫られているが、金一色の18金ニブではなく、pfマーク付きの18金バイカラーニブ付きじゃ。依頼内容は書き味の微調整・・・という生贄扱い。
拙者は人に指示されるのは好きではないので、こういう生贄扱いの時が一番気分良く調整出来、仕上がりも良い事が多い。
他人に書き味の微妙な不具合を適切な言葉で表現することは極めて難しい。数多くの人から依頼事項を聞いたが、そのほとんどは【言語明瞭意味不明瞭】であった。ただ、実際に自分で依頼者の筆記角度と筆圧で書いてみればすぐにわかる。ようするに、筆記角度と筆圧を見せてもらえば、必要な言葉は【ぬらぬら】が良いのか、【しゃりしゃり】が良いのか・・・程度で十分!
このトレドに描かれているペリカンは【不細工】で実に良い。彫られた番号は4/Zとある。これはこの彫り師が彫った4本目の印と噂されている。
過去に50本以上のM700を見てきたが、こんなに無表情のペリカンは初めて!愛嬌が無さすぎる・・・と思っていたら、くちばしの横にある茂み?の部分が、お調子者の虎猫が得意になっているような彫りになっていて、爆笑してしまった。
WAGNER会員の中では、M700の彫りは、下手か、ユーモラスなものほど珍重される事が多い。すなわち彫りの番号が一桁というのは貴重なのじゃ!今までで一番顔が不細工だったのは、1/◎という刻印を持つ、ニックネーム【仲間由紀恵】トレド。目が【下手かわいい】トレドであった!
若干書き味に不具合があるとのことであったが、スリットもペンポイントも良い状態で、特に問題は無い。ただペン先がかなりくすんでいる。ためしに【アスコルビン酸(ビタミンC)】水溶液に10本ほど浸して引き上げたら見違えるように綺麗になっていてびっくりした。
ペン先を正面から見ると、かなりスリットが開いており、多少の段差もある。依頼人はかなり右に倒して筆記する場合もあるので、その場合には紙にインクが付かない状態になっている。
ペン先上側を狭く、腹側を多少広くとる事によってネットリとした書き味を楽しむことが出来る。このネットリ感は、バイカラーペン先のBやBBでしか体験出来ないので、試してみたい方は、この時代のNibにチャレンジしてみて下され。
こちらが清掃後のペリカン。まだスリット調整はしていない。幾分かスリットが開いているので、多少でも筆圧をかけるとインクが戻ってしまう危険性がある。
もう少しペン先の隙間を詰めて腹を拡げるという微調整が必要になろう。
こちらが調整後のペン先。スリットは詰めて毛細管現象が働きやすくした。またシビアな筆記角度でも書き出し掠れがないような特殊な調整を行った。これは書き出しを右倒しにペンを持ったときにのみ効果を発揮するおまじない。
スイートスポットは小さめに削り込み、その面をまわりに拡散するようにした。外側のエッジが紙に引っ掛かってインクが出ない状況を防ぐために、ペンポイント天頂の形にはこだわった。ほんの少しだけ丸く整形しているのがわかるかな?
こちらが正面から見たペンポイント。段差は完璧に調整してあるが、今後数回の調整戻り試験を繰り返した後、依頼人の手に戻る。
【 今回執筆時間:3.5時間 】 画像準備1h 修理調整1.5h 記事執筆1h
画像準備とは画像をスキャナーでPCに取り込み、向きや色を調整して、画像ファイルを作る時間
修理調整とは分解・清掃・修理・ペンポイント調整の合計時間
記事執筆とは記事を書いている時間