調整しないで使う事に決めた2本目はセーラーの【島桑】。ちなみに1本目はパイロット・カスタム742-M。
未開封で保存しておくつもりだったのだが、既に使っている人の評判が良いので使ってみることにした。
まずは重量計測; キャップ:12.6g 胴軸:16.6g 首軸:8.2g コンバーター:2.9g で総重量は40.3gだが、筆記時の重量は27.7g+インク重量ということになる。キャップは尻軸に挿せない設計になっている。
握ってみると実に気持ちよい場所に重心がある。これには秘密がある。左画像のように、通常のセーラーのプロフィットよりも金属部分が長い。その長い部分に切れ込みがあってインク残量が見えるようになっている。
このわずかな金属が重心位置に大きな役割を果たしているように思われる。今までコンバーターに鉛を巻いてバランスを取っていた人のいたが、今回はそのような人でも気に入るバランスになったはずじゃ。少なくとも拙者は気に入った!ペン先は通常のプロフィット用の21ニブの刻印違いだと思うのだが、ペンポイントの仕上げはすばらしい。画像のように破綻の無いカーブのペンポイントじゃ。おそらくは特別に微調整を施してあるのであろう。でないとここまで美しい仕上がりにはなるまい。
インクを入れて書いてみると、なんだか通常のプロフィットよりも柔らかい感じがする。ハート穴から先の動きが軽やか!同じペン芯を使っている以上、ハート穴位置の変更などは出来ないはずなのだが・・・不思議。
もっともそれほど鋭敏は手を持っているわけではないので、プラシーボ効果かもしれないし、重心位置の影響で動きが軽く感じるのかもしれない。横顔もごく普通のプロフィットなのだが、この書き味のシルキーさは後を引く。たまたま拙者の筆記角度にどんぴしゃりだった事もあり、まったくの未調整で使っている。
同じく未調整で使っているPilotの742では、筆記角度が拙者の好みと違うので、多少無理しながら慣らしていく作業を楽しんでいる。が、この島桑の場合は、書き癖と合っているのでそのままでサクサクと使えてしまう。
ひょっとすると【15万円以上の萬年筆を購入する人=萬年筆での筆記に相当慣れた人】という仮定のもと、(国内では)より低い筆記角度で調整したうえで出荷ししたのかもしれない。
となると、限定1000本のうち、海外に出荷されたという300本がどういう調整になっているのか気になるところじゃ。
ペンクリで川口先生が良くやる所作【萬年筆の自重だけで線を書く】をやってみると、ものの見事にくっきりとした線を描く。これなら未調整でも十分に使える。はっきりいって拙者の筆記角度なら調整の余地は無い!
研ぎの形状を見る限りは長刀に近い線が書けそうなのだが、実際は横細縦太に近い線を描く。実に不思議だが横細好きにとっては願ったり叶ったり!
また表面に漆を塗っているので、木軸につきものの【エイジングという名の手垢汚れ】が無いのも好ましい。今までで一番後悔したのが持っていたプロフィット80のラッカーを全部剥がしてしまったこと。あのころはそれが粋だと思っていたのだが、鼻の脂を練り込むと豪語するヲッサンに会って以来、表面処理のしていない木軸は持てなくなり、プロフィット80も10本全部お嫁に出した。
プロフィット30周年記念は革染色クリームを塗って手垢汚れを防いでいるが、この島桑は漆塗りなので布で擦れば手垢はぬぐい取れる。毎日のように萬年筆を清掃する拙者には島桑は神が遣わした木軸萬年筆にも思えてきた。
また、誰も評価していないが、クリップのバネがすばらしい。爪でクネクネとクリップを弄ぶ作業を他の萬年筆と比較してみると島桑のクリップの優秀性がよくわかる。バネが強すぎないのにグリップはしっかりしている。魔法のクリップじゃ!なんとなくペリカンに似ているという評価もペリカン倶楽部所属の拙者にはかえって好ましい。
今のところ、拙者の【ペン・オブ・ザ・イヤー 2011】ということになろう。Faber-castellの翡翠を凌駕する満足感を与えてくれている。あと3ヶ月半の間に出雲の溜塗りが本栖仕様のペン芯&インナーキャップに14K-Musicニブ付きででも発売されない限り逆転はないかも?