2011年11月09日

水曜日の調整報告 【 Parker 75 14K-F ニコイチの生贄 】

2011-11-09 01今回の依頼品は九州地区大会での生贄。どう考えても【半一族】とおぼしき代物。

キャップはフラットトップなのだが、尻軸先端部はディンプルなので、この段階でニコイチとわかる。天冠には筆記体で【Fan】という刻印がある。

これが何故生贄になったかといえば、会場でペン先ユニットを首軸から抜こうとして力持ち数人に捻ってもらったがビクともしなかったから。こりゃ、時間がかかりそうだな・・・ということでお預かりした。

2011-11-09 022011-11-09 03その状態でペン先を見ると、あちこちに黒いインクの滓がついている。しかしこれは黒インクの滓ではなく、ブルーブラックインクの滓らしい。お湯をかけるとブルーの色素が大量に出てくる。

ペン先はガチガチに詰まっており、掃除してもインクなど出てきそうにない。また先端部の形状が良くない。もう少し美しい形状にしたい。父もParker 75を愛用していたので、他のParkerよりは愛着はある。

2011-11-09 04こちらは横顔。ペン先を固定している溝には接着剤(おそらくはシェラック)が大量に付着しており、少々お湯に入れたくらいではペン先が外れそうにもない・・・

さてどうやるか・・・

とりあえず、80度くらいのお湯を超音波洗浄機に入れ、首軸ユニットを入れて三分間振動を与え続けた。熱いお湯と超音波洗浄機の組み合わせは、冷たい水の場合よりも遙かに効果が高いのは過去の実験で確証を得ている。

2011-11-09 05お湯は真っ黒に汚れたが、見事にペン先は外れ、ペン芯単独で見られる状態になった。左画像の一番上に茶色に見える部分があるが、これが接着剤。いくらなんでもこれはつけすぎでしょう!というほどついている。また画像ではよくわからないであろうが、反対側にも大量の接着剤が付いている。おそらくは最後の修理の際に塗られたのであろう。

実はペン芯の溝にも接着剤が入っていた。これではまともにインクも出なかったはず。(もっともそれ以前の状態で発掘されたらしいが・・・)

2011-11-09 06首軸にはコンバーターが挿さっていたが、ゆるゆるで使い物になっていない。そこで以前に萬年筆専門店でいただいたParker用のコンバーターを挿してみると、ピッタリと嵌まった!良かった、首軸内部が摩耗していたのではなく、コンバーターの差込口が摩耗していただけだった。

2011-11-09 07ペン芯は清掃し、接着剤をあらかたとり、ペン先をその状態でペン芯に押し込んだ。この状態ならシェラックを使っていないので、ペン先がペン芯から外れ、清掃やスリット調整がずいぶんと楽になる。今回はこの状態のままにしておこう。今後ペン先調整を始められる可能性大の方なのでな。

ペン先は研磨し、やや猫背に調整してペン芯とペン先の密着を図った。ペン芯にFとの刻印があるので、EF〜F位の字幅で小さな文字が書けるように調整したのだが・・・大変だった!

この当時のParker 75のペンポイントは比較的硬く、調整に20%ほど余分に時間がかかる。最近の柔らかい調整のペンポイントに慣れていると、この時代のペンポイントはかなり硬く感じる。

2011-11-09 082011-11-09 09こちらが調整が終了したペン先の横顔じゃ。ペンポイントはずいぶんと時間をかけて調教した。まずは先端部を落とし、腹も落とし、ペン先をややお辞儀させたうえで、スリットを開く力をかけた。それによって寄りが弱まりけっこう良い感じのインクフローになった。

元々は円盤を二枚貼り合わせたようなペンポイントであったが、かなり研磨して鉈型のペンポイントにした。接紙面積が狭いのにもかかわらずインクフローが悪くないので、不思議とここちよい!

これぞParker 75!という書き味はMとBでしか味わえないが、今回のペン先はParker 75の細字調整のバリエーションとして記録に残したい書き味になった!


【 今回執筆時間:4時間 】 画像準備1.5 修理調整1.5h 記事執筆1h
画像準備
とは画像をスキャ ナーでPCに取り込み、向きや色を調整して、画像ファイルを作る時間
修理調整
とは分解・清掃・修理・ペンポイント調整の合計時間
記事執筆とは記事を書いている時間


Posted by pelikan_1931 at 20:00│Comments(5) このエントリーをはてなブックマークに追加 mixiチェック 萬年筆調整 
この記事へのコメント
ardbeg32さん

自宅でならヒートガンがあるのでペン先はずしも可能じゃよ。
Posted by pelikan_1931 at 2011年11月12日 04:20
それよりししょー!
75のペン先は芯から叩き出すのが大変だからやらないとかいうお話しではなかったでしょーか?
実際少々指で押した程度ではペン芯から外れないと思うのですが、ラミーサファリと同じようにメンディングテープ貼り付けて引っ張り出すのでしょうか?
Posted by ardbeg32 at 2011年11月12日 02:16
 インナー・キャップに漏れ出してその後凝固&化学変化したブルー・ブラック・インクの錆のようなものが強力な接着剤になってしまっている可能性が高いです。

 しかしそれならば、プラスティック製インナー・キャップの口部分に取り付けられた金属製三つ叉のクラッチ・パーツも錆だらけで使い物にならない筈です。無理に外そうとすると、この部分が先に砕けてしまいそうです。

 初期モデルの中には、ものすごく接着力が強いものが、英国に輸出されたものには存在します。しかしこの品は、パーツの特徴を見る限りそうではないので、冒頭に書いた通りと思います。
Posted by monolith6 at 2011年11月11日 14:10
monolith6 さん

どう力を入れて捻っても天冠がはずれません。それも初期モデルのせいでしょうか?それともサビ?
Posted by pelikan_1931 at 2011年11月11日 08:47
 人様のものでも、このようにリフレッシュした75を拝見するのは嬉しいですね。

 ニブの刻印を見る限り、1964年の発売当時から数年間の間のものと思われます。
Posted by monolith6 at 2011年11月10日 11:49