
木軸萬年筆のコレクターに確認したところ、何の処置も施さない萬年筆は必ず割れるらしい。ただ細かい割れが入るのであれば、それは大きな割れを誘発しないので吉なのだとか。
細かい割れもイヤならば、樹脂を染みこませるか、他の方法で加工を施すしかないという。
拙者は手垢が染みこんで色が変わっていくこと(エイジングと呼ぶ人もいる)を良しとしないので、漆や樹脂で加工してある萬年筆の方が好き。(これは好みの問題)


良い書き味になれた依頼人にとっては物足りない書き味に思えてしまったようだ。これを以前調整した細字Stubのような書き味にして欲しいという要望だと理解し、それを目標に調整することにした。
ペン先のスリットは詰まっているが、問題にするほどでもない。ただインクフローの良い細字が好きという依頼人にとっては物足りないと思われる。多少は開いておく必要がある。


これは縦書きには向いているのだが、横書きが多い依頼人にとっては耐えがたい書き味と感じるかもしれない。拙者も良い気持ちでは書けない・・・


ペン芯の構造を見る限りは、ハート穴から空気を入れるというよりは、ペン芯の裏側から入った空気をペン芯の溝まで回す構造になっている。すなわちハート穴が空いている必要がないのかもしれない。このあたりはペン芯製造メーカーとペン先製造メーカーが同じであれば問題ないはず。
最近はTWSBIのように、ペン芯は自社生産(?)、ペン先は委託生産という場合もあるので、ペン芯とペン先のマッチングには注意が必要。出来るだけ実績のある萬年筆を選ぶのがポイントかな。実績というのは各種Blogでの評判を含むのはいうまでもない。


まず円盤研ぎニブの腹を全部落とす。次に先端部も落として完璧Stubの状態にしたのが左側。この状態でも筆記できるが、超横細でカリカリと引っ掛かるので、依頼者の好みではない。そこでエッジを落として仕上げたのが右側画像。
一見、調整前の横顔(5枚目画像)と似ているように見えるが、書き味はまったく違う。スイートスポットの有無が書き味をどう変えるかの良い見本になるかもしれない。悪くない書き味から良い書き味への変化。萬年筆歴の浅い人には区別つかないが、酸いも甘いも経験した人には、【オッ!変わった!】とわかる変化じゃ。

これにインクを入れて書いてみると、書き出しのピントズレもなく、掠れもなく、細字なのにStubのような書き味。ただし筆記文字からは、それほどあからさまなStub調は読み取れない・・・という不思議な調整になる。
これに2ステップ加えると最近拙者がはまっている極細調整になる。その調整を施した萬年筆をミニペントレに並べるとすぐにお嫁に行ってしまう。拙者が使えるのはせいぜい一週間という状態。ただその調整をメットウッドに施すのは思いとどまった。ペン先が小さくて柔い(弾力が少ない柔らかさ)ので多少無理がある。あの調整はM800に施すのが最もおもしろいのじゃ。
多少太い鉛筆みたいな形状でまったくそそられないのだが、筆記時のバランスは絶妙。流石鉛筆メーカーの作品と舌を巻いた。やはりものづくりの歴史は貴重だ!
【 今回執筆時間:4時間 】 画像準備1h 修理調整2h 記事執筆1h
画像準備とは画像をスキャ ナーでPCに取り込み、向きや色を調整して、画像ファイルを作る時間
修理調整とは分解・清掃・修理・ペンポイント調整の合計時間
記事執筆とは記事を書いている時間