本日の生贄はSwanのBlackbird。拙者も過去に何度も入手した経験がある。非常に柔らかい書き味の普及版萬年筆でペン先はかなり小さい。ところがこの小さなペン先から非常に豊かな表情を持った線が描かれる。
ボディはエボナイト製でかなり変色しているが、表面はピカピカ。おそらくはサンエーパールで磨き上げられたのではないかな?もっと研磨を続ければ薄茶色の焼けも取れて漆黒の萬年筆として復活する可能性もある。
依頼主は仏壇萬年筆倶楽部の総帥、戦場カメラマンのTerryさん。英国から帰ってきた友人(戦友?)からのお土産らしい。![]()
ところがペン先はぐにゃぐにゃに曲がっている。おそらくはどこかにぶつけたか、硬い床に落としたのを自分で直そうとしてますます状態をおかしくしたか・・・いずれにせよ通常の状態ではありえないような状態にひん曲がっている。
そして右側の画像を見ればわかるがペンポイントが非常に粗い。こういうペンポイントはいくら細かいペーパーで磨いてもツルツルにはならない。書き味としてはガサガサという感触が手に残るのだが・・・エッジさえ落とせば、このガサガサ感が実にここち良くも感じられる。
現在と同じペンポイント素材と比べてもしようがない。製造当時の書き味を懐かしんで楽しむ余裕を持てば萬年筆道楽は幅が拡がる。![]()
ペン先付近の金の厚さも不均一だし、酷い曲がりよう。ペン先が小さくて薄いだけに曲がりやすく戻りにくい。これをどうやって直すかだが、ヤットコを使う事にした。大きなペン先であればツボ押し棒と専用曲げ工具で大きなカーブ曲げが出来るのだが、小さなペン先では不可能。そこで改良した小型ヤットコで曲げることにした。
この作業の時に、ボーグルーペを使ったのだが、改めてボーグルーペの有効性がわかった。細かい部分を見ながら作業がつづけられるし、なにより手元が明るい。この明るさが一番ありがたかった。これまではルーペでみて曲げる部分の見当をつけ、感で曲げていたのだが、確認しながら曲げられるようになった。これは非常に作業効率を上げてくれる。![]()
古いサックを取り除いた状態の首軸にサックを取り付けた。このサックの長さは慎重に計測してからカットする必要がある。一番大事なのはサックの外径。サックが太すぎると押し込んだときレべーフィラーのバネでいつも押されている状態となる。こういう状態ではサックの復元力弱い。またサックの内径が太いと首軸への止まりが緩く抜け落ちやすい。
サックの太さ、長さ、シェラックの量と乾きの判断を出来るようになるのが重要だが、教えて貰えば10分とかからずマスター出来る。自分で試行錯誤すると10回ほど失敗しないと身につくまい。
こちらがペン先修理後。あれほどひん曲がっていたのが嘘のように平らになっている。ヤットコで平たくした後、表面を1200番のサンドペーパーで平らにし、ペン先とペン芯を首軸に押し込んで筆記状態にしたあとで、ゴムブロックのコーナーに二枚重ねにした金磨き布を置き、その上にペン先の背中を押しつけて高速往復運動をする。そうすると、アッという間に表面がツルツルになる。
忘れてならないのは、この作業をほどこすとペン先のスリットの間に削り滓が大量にたまること。これを取り除くには、いったんペン先とペン芯を外して良く洗浄し、再度組み立てて首軸に押し込まなければならない。![]()
こちらがペン先調整後の横顔。曲がりを取っただけではなく、ペン先研磨も必要。曲がったのを直した場合は接紙するポイントが必ず変化するので微調整は必須。ただこれだけ粗いペンポイントの場合は、ヌラヌラやスラスラは期待できない。どこまでガサガサザラザラが楽しめるかがポイントになる。
ものすごく柔らかいペン先なので筆圧をかけては使えない。ということは低筆圧筆記が前提となるのでガサガサザラザラも味として許容できるのじゃ。
古き良き時代の英国製萬年筆の書き味がふと懐かしくなった瞬間であった。Swanに嵌まるなよぅ、相場を上げるなよぅ・・・
【 今回執筆時間:3.5時間 】 画像準備1h 修理調整1.5h 記事執筆1h
画像準備とは画像をスキャ ナーでPCに取り込み、向きや色を調整して、画像ファイルを作る時間
修理調整とは分解・清掃・修理・ペンポイント調整の合計時間
記事執筆とは記事を書いている時間