今回の依頼品はColumbus 25。このメーカーの萬年筆は過去に1本しか所有した記憶がない。キャップリングがOmasに似ていたので衝動買いした記憶がうっすらと残っている。
Omasに似ていることからも類推されるが、伊太利亜製の萬年筆。構造は米国の真似だし、クリップなんて非常にチープ。ところが全体としてのパッケージはすばらしい。工業製品を芸術作品の品質(良くも悪しくも)で作るのがItalian Magicなのであろう。
めちゃくちゃ柔らかいペン先だなぁ・・・と思ってよく見たら、ハート穴の所からクラックが入っている。このクラックが柔らかさを増長させてくれている。筆圧が低い人にとっては非常にありがたい?クラックじゃ!
クラックが入るということは、素材となる合金に不適切な混じり物があるか、運が悪いか、高筆圧で書きすぎたか・・・など種々の原因が考えられるが、今回は高筆圧のせいだろう。拙者のところへ来る前に、ペン先とペン芯の隙間を狭める修理は行っていたらしい。伊太利亜から入手した段階で高筆圧によるクラックが入っていたのだろう。それでペン先とペン芯との間に隙間が出来ていたと考えるのが自然じゃ。
柔らかいペン先なのに寄りが非常に強い。しかも先端部のペンポイントの形状がヘン!書き味向上を狙って丸めているうちに収拾が付かなくなったような形状をしている。接紙面積が狭いため、丸めてはあるのに、紙当たりの感触が悪いのじゃ。
ペン先とペン芯との間の隙間は見事に無くなっている。こういう二重に波打ったペン先をペン芯にしっかりと沿わせるのは至難の業だが、破綻無く寄り添っている。おそらくは前の修理人はかなり苦労したのではないかな・・・
依頼者は、【細字で綺麗な字が書けるけれども、カリカリする感じがする】ということだった。この当時のペンポイントは粒子が粗いので、ツルツルに磨き上げることは出来ない。磨いても磨いても月の表面のクレーター状になる。ただし、段差を揃えてスリットを開けば、インクフローが向上し、ザラザラ感は消し飛んでしまう。
せっかくクラックがあって書き味が柔らかいので、それとスリット調整を合体させ、ヘロヘロに柔らかい書き味になるような調整を施してみよう。
吸入機構はボタンフィラーで、首軸は胴軸にねじ込む方式。この場合、I-Barはボタンを後ろから引き抜いた穴から差し込む。先にI-Barを差し込んでおくと、首軸を捻る段階でサックとI-Barがからまってサックが首軸から抜けて大惨事となる。
ボタンフィラーは首軸がネジ込み式か、押し込み式かを確認してから作業する必要がある。たまにボタンが後ろ側から外れないボタンフィラーもある。こういう場合は首軸は押し込み式になっているか、やたらに細いサックを使う設計になっているはず。いずれも絡まり事故撲滅のためじゃ。
こちらが清掃後のペン先。ここまで磨くのに非常に苦労した。ペン先の左右のスリットが違う形状にクネっているので、金磨き布の上に押しつけて擦っても、一部だけは傷が消えない。そこでわざとスリットに段差をつけてから片側だけを磨く作業を交互にやって傷を完全に消した。
ルーペでペン先の傷を逐一チェックするような人以外には無意味な作業なのだが、拙者は気になったので磨いておいた。どうやら難儀な性格の持ち主らしい、拙者は・・・
調整前はあまりにペン先が首軸から前に出すぎていて、ペン先とペン芯の安定感がなかったので、強化のため、ペン先とペン芯をもう少しだけ首軸に押し込んだ。これで安定度はグっと上がった。
あれほど寄っていたペンポイントだが、何度も横に引っぱったあげく、やっとここまでスリットを拡げることが出来た。これで書き出しの筆圧が低くてもインク掠れが発生する確率は落ちる。そして先端部のペンポイントが調整前の醜い形状(3枚目画像)からちゃんと揃ったのがわかるかな?これが調整の基本じゃよ!まずは形を整えること。
まるで液状化したかのように曲がったペン先をの左右を揃えるのは、クラックの入ったペン先ではリスクが高い。ツボ押し棒で擦ったり突いたりしたら、真っ二つに裂ける危険がある。出来るだけ段差が目立たず、ペンポイント部で辻褄が合うような調整とした。
インクを入れて書いてみると、えもいわれぬ柔らかさを体験できる。そもそもの素質に加え、ハート穴から伸びるクラックが柔らかさを強調している。
Vintageのペン先では、クラックもまた重要なスパイスなのかもしれない・・・
【 今回執筆時間:5時間 】 画像準備1.5h 修理調整2.5h 記事執筆1h
画像準備とは画像をスキャ ナーでPCに取り込み、向きや色を調整して、画像ファイルを作る時間
修理調整とは分解・清掃・修理・ペンポイント調整の合計時間
記事執筆とは記事を書いている時間