今回の依頼品はオマスのアイボリー色。ナショナル・ライブラリー記念・・・とか呼ばれていたもの。なんとも言えない綺麗な色で、拙者も何本か購入した記憶がある。
大きさはOMASとしては中型のミロードと同じで、ペン先などは互換性がある。ちなみにこれは限定品ではない。オマスのボローニャ大学記念と共に、ある期間は定番品としてつくられており、イタリアのカタログには長い間掲載されていた。ちなみにボローニャ大学は伊東屋では限定品扱いで販売されていた。ニブは18Kだが、これが作られた当時のオマスの18Kニブは1930もミロードも非常に硬かった。
1970年代までの羽根のように柔らかいOMASの書き味から一変し、ガチガチに硬い。依頼者はその堅さは承知しているが、なんとか紙当たりだけでも改善できないかということでお預かりした。
硬い原因は肉厚であること。これはボールペンによる強筆圧化への対応として出てきたのであろう。特にこのBibliothèque Nationaleにはボールペンやペンシルもセットとして出ていたので、ボールペン使いもこの万年筆を使う事が念頭にあるはず。しかもオマスのボールペンのレフィルは当時は非常に出が悪く色も薄かった。従って力を入れなければまともに書けないという代物だったのじゃ。
ボールペンと萬年筆を併用することを前提としてペン先を硬くしていたのなら、すばらしい!と褒めてあげたいが・・・おそらくは違うであろうなぁ。伊太利亜のメーカーだから。こちらが横顔。ペン先の肉厚さが良くわかる。もちろん肉厚だけが原因ではなく、かなり弾力の無い配合でもあるのだろう。
昔は14金よりも18金の方がペン先が柔らかいと信じられていたし今でもそう考えている人も多い。流石にこのBlogを読んでいる人には少ないだろうが。
14金よりも18金の方が素材として変形しやすい(柔い)のは事実だが、それと書く際の弾力(柔らかさ)とは関係が無い。柔らかさは設計や鍛え方によっていかようにでも変化させられる。ただオートメーションでペン先を作る場合には、おそらくは18金の方が簡単に成型できて楽なのではないかな?
また販売する際にも消費者に対して高級感を与えられて売りやすいのかもしれない。事実、過去には日本でも金競争はあった。セーラーが21金ペン先を作っているのもその名残かもしれない。紙当たりがゴリゴリしていた原因は段差!ほんの少しなのだが、細字の場合には強烈な筆記感の悪化に繋がる。
コリコリと書くことと、引っ掛かりは別次元の事象。コリコリとしていても引っ掛かりのない研ぎは可能。ただし細字でヌラヌラはありえない。
滑らかな書き味は接紙面積の関数なので、太字ほどぬらぬら感が出てくるのじゃ。インクフローさえ良ければ。
この段差はペン芯とペン先が設計どおりに成型され、設計どおりにセットされていないと発生する。極端な話、ペン芯に一ヶ所凸があるだけでも段差は出来てしまう。
以前、金ペン堂のご主人が、【万年筆調整の基本は、ペン先とペン芯を結婚させること】とおっしゃっていたし、ハイテク調整師wavioさんもココで【重要なのはニブの整体】だと看破している。川口先生の速攻調整も、この整体が基本となっているはずじゃ。この依頼者の好みを熟知している拙者としては、整体だけではおもしろくない。そこで細Stub調の調整を施すことにした。最近お気に入りの調整方法。そういえば最近太字調整はほとんどやらないなぁ・・・
ペンポイントの背中を削り、横線を細くする。そしてスリットを少し開いて縦線を太くする。これによって横細縦太のStub調の書き味に変化する。この書き味に慣れるとデヘヘヘと涎が垂れそうになるが、その直後に太字を使うと、さらに太字のすばらしさがわかる。細字で感動してこその太字なのであって、太字の書き味だけでは、太字調整の良さを説得できないと思うようになってきた。こちらが横顔。ペン先の厚みは変化させていない。この時代独特の、やや濃いめの金色は残して、タッチの改善だけを図った。
段差は無くしているので引っ掛かりは、手首を無理に捻らない限り出てこない。またStub調にし、インクフローを上げたことによってタッチははるかに向上した。
依頼人の好きな薄い鋼のような弾力がビンビンある書き味にはならないが、この萬年筆の潜在能力としては最大限まで出せたと思う。それにしても綺麗な軸じゃ!マレーシアではまだ新品が販売されているらしい・・・欲しいなぁ。
【 今回執筆時間:4時間 】 画像準備1.5h 修理調整1.5h 記事執筆1h
画像準備とは画像をスキャ ナーでPCに取り込み、向きや色を調整して、画像ファイルを作る時間
修理調整とは分解・清掃・修理・ペンポイント調整の合計時間
記事執筆とは記事を書いている時間