今回の生贄はセーラーのプロギア・マーブルエボナイト軸。非常に綺麗な軸で自分でも欲しいなぁ〜と思ってしまう。これも日興エボナイト製なのかな?
エボナイトは紫外線でくすんでくると聞いたが、この個体にはまだくすみは発生していない。ピカピカに輝いたエボナイトの輝きも美しいし、茶色に変色したエボナイトも味があって良い。
以前は新しい黒エボナイト軸を熱湯につけて茶色に変色させたりしていたが、やはり自然変色の方がおもしろいのかもしれない。拙者はわざと変色させた軸を再度磨いて50%くらい輝きを取り戻した状態にうっとりしていたが・・・傍目にはヘンなヲヤジであったろう。依頼内容には【何か物足りない書き味】と書かれていた。拙者の知る限り、セーラーのFやMFの書き味は絶妙で、物足りない・・・という表現は当てはまらないなぁ・・・と考えた。
ペン先を上から見ても破綻は無い。スリットが強く密着しているので、書き終わった状態でペン先の段差が出来るが、次に書き出すときには筆圧で段差は解消されインクはちゃんと出てくる。ただし拙者のように極端に筆圧が低い場合には約1〜2ミリほどは書き出し掠れがある。それも考慮に入れて少しだけスリットを開き気味に直しておこう。横顔を見て書き味に不満な原因がわかった。ペンポイントの斜面がコテ研ぎもどきに研がれている。これでは少しでも捻って書けば、横線を引く場合にエッジが引っ掛かってしまう。
また細字と言うよりも横線は中字くらいに太くなり、字形として美しくない。拙者のプロフィット30周年記念についているMなどはハネやハライがうっとりするほど美しいのだが、このペン先で書くとハネやハライが出ない。変体少女文字を書くには良いが、明朝体を書くには辛い形状となっている。少なくとも拙者のような字を書くことが苦手な人間にとっては・・・こちらは正面から見た画像。腹を揃えてみると、トサカの頂点で段差が出来る。これはサンドペーパーを机に置いてその上でゴリゴリと削った場合に発生しやすい。
これを防ぐために、拙者の場合は、まずはトサカの形状を整え、その位置を合わせる。それを基準にして腹側を研磨するようにしている。そうすればペンを逆向きにして書く場合にも書き味が破綻しないし、なによりも美しい!
それほど字を書かない拙者にとっては美しさこそ全て!なので自分の万年筆の調整においては、ここに力を入れている。他人の万年筆については特別の要望があればやっている。
今回は書き味向上の一環でペンポイントの背中側を研磨する必要があるので、要望はなかったが揃えておいた。生贄だからこそ出来る行為だがな・・・こちらが調整されたペン先画像。ペンポイント先端部にわずかだけスリットがあるのが見えよう。このスリット幅を実現するのはとりたてて難しくないが、それをスキャナーで見えるように撮影するのは至難の業!今回は意地になって試行錯誤したが、スリットを写し取るのに30分以上かかった。
単なる自己満足の画像添付ならそこまで時間はかけないのだが、次世代に伝える技術として忍耐強くやっている。時間に余裕があるときしか出来ないが、今回の調整と撮影は三連休にやったのでなんとかなったのじゃ。こちらが横顔。最近多用しているコテ研ぎ直し技法。ペンポイントの背中側を細美研ぎのようにカットする。それによってコテの紙に当たる部分を少なくしようというもの。
理屈か簡単だが、尖った部分の処理が難しくてかなり時間がかかる。ただし当たったら、それはそれは美しいハネやハライが表現できる。ただ個人差があるので対面調整でないと難しい。今回は拙者に都合の良い調整にしておいた。
今まではぬるぬるぬらぬらでハネやハライではなく止めを重視した、通称【ズベ公】調整とか【淫らな書き味】を追求していたのだが、最近ハネやハライが表現できる調整を追求するようになってきた。だから調整は止められない。課題はいくらでもある!
【 今回執筆時間:4時間 】 画像準備2h 修理調整1h 記事執筆1h
画像準備とは画像をスキャ ナーでPCに取り込み、向きや色を調整して、画像ファイルを作る時間
修理調整とは分解・清掃・修理・ペンポイント調整の合計時間
記事執筆とは記事を書いている時間