2012年01月20日

金曜日の調整報告 【 Parker Sonnet 18K-XF インクが出ねぇ〜 】

2012-01-20 01こちらは九州から治療にやってきた萬年筆。Parkerのソネットで名前は・・・忘れた。ソネットはかなりたくさん購入したが、ほとんどがフジェールとチャイニーズラックだったので、この軸には初めて遭遇。なかなか良い色じゃ。

特にフジェールは大好きだったな。バイカラーのペン先は好きではないのだが、ことフジェールに関しては例外。外装の金銀比率と、ペン先の金銀比率がほぼ同じに思えたのが原因。一方のチャイニーズラックは、バイカラーのペン先が気に入らず、金一色のペン先を移植して使っていた。

初代ソネットはペン先がフニャフニャに柔らかいので、日本では爆発的人気だった。一部の軟筆愛好家の間では・・・といった方が良いかもしれないが。

2012-01-20 022012-01-20 03柔らかい原因はペン先の金の薄さ。かなり複雑な形状に曲げ、それをパチンとペン芯にはめ込むようになっている。必然的に肉薄でポワンポワンと弾力がある作りにしておかないと、ペン芯に嵌まらないからな。

この柔らかさは特にFやXFでは顕著。この生贄はXFだが先端部だけがピコンピコンと跳ね上がるように柔らかい。

ペン先先端付近の拡大図(右側)を見ると、斜面の一部が少し膨らんでいる。これは何故かな?最初はペンポイントを電気溶接で取り付ける際に金が寄って出来たのかと考えていたのだが、ひょっとするとこれが無いと書き味に締まりが無くなるのかもしれない。すなわち、ふにゃぁ〜感が強すぎるので少し力を貯める膨らみを作ったのかも?こういう仮説を証明するために太くなった部分を削ってみる・・・なんて実験は、自分の萬年筆ならやっちまったかもしれない。

2012-01-20 042012-01-20 05インクが出ない!と感じるほどインクフローが悪いと言うことだった。ソネットはペン先が柔らかいので、ある程度の筆圧があればインクは出るはず。ということは依頼者はかなり筆圧が低いことになる。

萬年筆の特徴と、依頼者がしゃべったり、紙に書いた短い文章から、依頼者の筆記の特徴を探り出せれば、対面で無くても調整は出来る。今回のインストラクションには【インクフロー悪し!でもこのペン先はいじるのが難しい】とだけ書かれている。これから調整の方向性を見つけるわけじゃ。

2012-01-20 06このペン先はいじるのが難しい】というのは左図が原因と断定した。すなわち円盤重ね型のXFになっている。しかも左右のペンポイントの長さが微妙に違う。

従って上部を合わせれば腹に段差が出来、腹を合わせれば上部に段差が出来る。通常のペンクリであれば、腹側を合わせて上部のデッパリは書き味に影響ないと無視する。しかし拙者は見てくれ重視なのと、背側筆記も視野に入れるため、スリットの左右の位置調整を最重視し、それに合わせて上部も腹側も研磨する。左右のペンポイントの高さを揃えた上で調整をするのが基本。

2012-01-20 07こちらがペン先ユニット。ペン先とペン芯が一体になっているので、強く摘んで左に捻れば外れる。ずっとここから先は分解できないと思っていたのだが、ペン芯に食い込んだ爪を、ルーペで見ながら歯医者用先端工具でピンっとはじくと、ペン先だけがパコンと外れる。

今まではルーペで見て見当をつけてから工具ではじいていたのだが、そこら中傷だらけにしていた。今回はボーグルーペを使用したため、一発で成功!どこにもためらい傷を残さなかった!もはやボーグルーペ無しの調整など考えられないくらいに愛用するようになった。何が良いって、あのLEDライト!明るくて実に見やすい!

2012-01-20 082012-01-20 09こちらは外れたペン先と、その先端部のスリットを拡げた拡大画像。このスリットを拡げる際にはペン先を両端から引っぱるようにする。そしてそのままペン先をパチンとペン芯に嵌めると、ペン先がグラグラする。

これはスリットを拡げる際に根元も拡がってしまうから。従ってスリットが開いたことが確認出来たら、根元は若干絞る。そして絞られたままの根元をペン芯に嵌めるのじゃ。こうすればペン先がぐらつくことはない。過去に何度も痛い目に遭うと自然と覚えているもんじゃ。

2012-01-20 10最後にペンポイントの研磨。円盤2枚重ねの書き味を、通常の書き味に直すため、まずはペンポイントの背中を前のめりに削り込んだ。最近マイブームの研磨法。これをやると細字を背中側で書くときの書き味が一挙に向上する。

そして腹はゴムブロックの角に敷いた1200番の耐水ペーパーの上で往復運動をやって、丸みをそぐ。次に低い筆記確度に合わせてペンポイントを粗砥ぎし、そこから徐々に丸めていく。

実は薄いペン先は調整が難しい。薄いと筆圧によってペン先の左右が好き勝手に暴れるが故に、筆記中少しでも捻れば、すぐにエッジが紙に当たる。それを避けるために面取りをすれば、ますます接紙面積が狭まって書き味が悪化する。これが細字調整を始めたときに経験する【地獄】じゃ。

ある意味、国産の硬いペン先の細字は調整しやすい。SwanやConwayの柔らか細字の調整は、国産で練習した後で入るのが良いであろう。拙者はSwanや独逸マイナーブランドの細字から入ったので苦労した。やはり基本をマスターしてからの応用が大切。

調整は自分が好きな書き味の萬年筆だけを調整していては上達しない。あらゆるメーカーのいろんな書き味に合わせた調整を訓練することによって【見えてくる】のじゃ。それを自分の萬年筆だけでやるには投資がかかりすぎる。そこに【生贄】の存在価値がある!

生贄】とは将来の大成功に対する、他人が行う他人に無理矢理行わせる先行投資なのじゃ!


【 今回執筆時間:3.5時間 】 画像準備1h 修理調整1.5h 記事執筆1h
画像準備
とは画像をスキャ ナーでPCに取り込み、向きや色を調整して、画像ファイルを作る時間
修理調整
とは分解・清掃・修理・ペンポイント調整の合計時間
記事執筆とは記事を書いている時間



Posted by pelikan_1931 at 08:30│Comments(8) このエントリーをはてなブックマークに追加 mixiチェック 萬年筆調整 
この記事へのコメント
monolith6さん
たしかにParker 75も極細にはこういう形状のものがありましたね。以前は溶接した後でペンポイントを綺麗にするために再研磨したのだと考えていましたが、謎が深まってきました。
Posted by pelikan_1931 at 2012年01月22日 08:06
Mont Peliさん、mercuryo さん、すいどうさん
ずいぶんと細かく時代特定が出来るのでビックリ!
モデル名もわかって気持ちがスッとしたありがとしゃん!
Posted by pelikan_1931 at 2012年01月22日 08:04
mochiduki さん
もし意図的ならばペン先の強度増加。反ったニブに強度を与えるとか?
井としていないのなら、電気溶接時に一瞬縮んで出来るのかも。
Posted by pelikan_1931 at 2012年01月22日 08:02
皆さんおっしゃるとおり1994年の第3四半期だと思います。
93年がソネット初年ですが、その時にはラインナップされていませんでした。1年遅れで追加されたモデルだった筈です。
Posted by すいどう at 2012年01月21日 09:42
Mont Peliさんのおっしゃる通りラック・インディゴのようです。データコードが「II」と確認できるので,1994年製ですね。
Posted by mercuryo at 2012年01月20日 22:16
>ペン先先端付近の拡大図(右側)を見ると、斜面の一部が少し膨らんでいる。これは何故かな?

 私のパーカー75の極細なんかも、このようになっているものがあるので、メーカーによる考え方の表れと思います。

 今回言及頂くまで、過去にこのような形状には気づいていたものの、それが何のためであるかにまで考えが及びませんでした。

  ソネットも、75も、ニブがペン芯に固定された状態になっていることと関係があるかなというところまでしか判断できませんが。

 一方、デュオのようなオープン・ニブでは、このような膨らみはXFなどには見られません。
Posted by monolith6 at 2012年01月20日 13:48
この軸のモデル名は'Laque Indigo'で、Andreas Lambrou本(p.210)によれば、発売開始時期は1994年です。
Parker Sonnetのペン先に刻印されているmaker's markは3パターンありますが、このペン先では、Gillette社に買収される前のマークが使われており、1993-1994年頃のパーカー・メルー(Meru)工場製であることを裏付けできます。(Meru工場は1996年に閉鎖)
Posted by Mont Peli at 2012年01月20日 11:58
先端部だけ見たら、九分九厘シェーファーと答える自信があります。
あれもどういった理由からなんでしょう。太字のサイドカーブを基準にしておいてそこから削ったりするわけでもないでしょうに……。
Posted by mochiduki at 2012年01月20日 08:44