本日紹介する萬年筆はカルティエ製。ただしモデル名称は不明。輸入筆記具カタログからカルティエの名が消えて以来、カルティエの筆記具の情報は極端に少なくなってしまった。どなたかモデル名を知っていたら教えて欲しい。出来れば販売された年代も知りたいなぁ・・・
カルティエの萬年筆は、ずっと以前からMontblancがOEMで製造しており、書き味も安定していたので、けっこうな数を購入したのは事実。カルティエだけは、一時期の輸入筆記具カタログに掲載されていた全モデルを所有していた。今は・・・おそらくは5本以内であろう。
カートリッジ・コンバータ式で、ブラスにプラチナ鍍金軸。ペン先はマストなどと同じ大きさだが、プラチナ鍍金が施されている。ルイ・カルティエのシリーズにはNo.146クラスの大型ニブを搭載しているが、このモデルはNo.144やNo.145クラスのペン先。ただしカルティエ萬年筆の値段は、ペン先の大きさと連動してはいない。
カルティエのオーバルシリーズは、それこそ鼻くそほどの小さなペン先だったが、値段は高かった!
インクの出が悪いとの事だが、ペン先は中字。通常ならニュルニュルとインクが出てくるはず。最近気付いたのだが、Montblancのペン先の切り割りで7:3とか6.5:3.5などのズレを見た記憶が無い。今回のペンポイントを見ても綺麗に面取りがされ、形も整えられている。
また52g近くなる筐体を、弾力の無い柔いペン先で支えているので、萬年筆の重さだけでペン先は開く。それに筆圧が加われば、かなりドバドバとインクが流れるはず。にもかかわらずペンを立てないとインクが出ないとしたら、おそらく・・・と考えて横顔を見たら、案の定!ペン先が上下にずれていた。これは製造販売時のズレ出はなく、日常的に使っていて曲がったものだと思われる。たとえば・・・吸入のためにインク瓶にペン先を入れている途中で手が滑って、ペン先がインク瓶の底に衝突した!とか、コンバーターで吸入した後、ペン先をティッシュで拭う際に、ちょっと力が入ってペン先をぐっと押したとか・・・それくらいの力でも十分にペン先は曲がってしまう。それほどこのペン先は柔い(やわい)。加工精度を高めるためには、戻りの少ない?18K以上を使うのが良いのかもしれないが、あまりに柔いよ!これは。
正面から見ると、左画像のように無残な姿になっている。
寝かせて横書きをする際に、最初の一筆が左から右への線であれば、まずインクは紙につかないであろう。
合金の配合に依存するので一概には言えないが、14金製のペン先の方が弾力が有り、調整戻りも大きい。18金製のペン先は成型は楽だし、調整戻りも少ないので、調整師にとっては楽。作業はすぐに終わる。ただし、ちょっとした衝撃で、またすぐに曲がってしまう。14金なら多少の力がかかっても戻る力が大きいので、衝撃を吸収できるのじゃ!段差調整はペン先を外して行うのがポイントなので、ペン芯ごと引き抜いた。ペン芯側にニブストッパーの凸があり、その受けとなる切り込みがペン先の根元にある。
この状態でペン先の段差やカーブを修正し、ペン芯に乗せても段差が出来ないように微調整を繰り返す。インクが出にくいということなので、スリットは微妙に開いておこう。それにしても美しく、シンプルで無駄の無い刻印!刻印は少なすぎても寂しいし、複雑すぎると書き味を硬くすると言われている。(あたりまえかもしれないが)スリットが正しい位置に入っているのがなんともうれしいではないか!
昔のSheafferの萬年筆製造現場を撮影した画像では、このスリット入れを手作業で行っていた。日曜日に飲みまくって月曜日に二日酔いで出勤した作業員が入れた切り割りなど、とても使い物にならなかったのではないかな?こちらが微調整後のペンポイント正面図と横顔。調整講座ではないので詳細は略すが、表書きではインク量が多く、Mらしいインクフローが潤沢な書き味。裏書きでは細字でインクフローを押さえた書き味に調整してある。裏調整のために多少研磨したくらいで、ペンポイントの腹は【一舐め】程度の研磨じゃ。
ここ10年くらいのMontblancの研ぎはすごみを増している。そのすごさをボディや素材の研究にも生かして欲しい。すぐにクラックが入る首軸やインク漏れといえばMontblancという負の定評を速く解消したほうがよい。もっとも最近のMontblancを日常的に使っているわけではないので、ひょっとすると解消されているのかもしれないがな。
プラチナ鍍金軸は滑りやすいので、筆圧が高くなる・・・と言われている。このカルティエの萬年筆もプラチナ鍍金なので、一番安定した握り方はキャップは外したまま首軸の黒い樹脂の部分を握るというのであろう。
書き味を試してみたが・・・でへへへ・・・と涎が出そうな書き味!やはり侮れない萬年筆じゃ!