左の表はらすとるむさんのコメントを参照に完成した表で、それぞれの研ぎが何を目的としてなされたのかを整理したもの。
言いかえれば、その調整を施すことによって認識出来る使い手の側から見た変化をまとめたものじゃ。
これで判断すれば、らすろ・フォルカンと、らすと純米大吟醸との違いは、字幅だけということになる。まったく違う手法・工法を取りながらも受け手の側から見た変化にはそれほど差は無い。
逆の言い方をすれば、使い手の側から見た変化は同じであっても、それを実現するアイデアや工法は無限にあるということ。これは調整師の間では常識であったが、それを自己調整しない人に説明するのは難しかった。ところがこの表を使えばすぐに理解出来よう。
この表にもう少し項目を増やして整理し、それが工法と関連付けられれば、【使い手が望む変化に対してどの工法を施せばよいのか?】が一目瞭然となる。
【萬年筆と科學】などには製品の使用としての【研ぎ方】がまとめられている。今回やりたかったのは、(調整師による)書き味の変化と(特殊な)研ぎ方との対応じゃ。
今後新しい研ぎ方・工法を開発する際に、何を目的として開発するのか?を明確にして始めれば、それが成功したのかどうか?他の工法と比較してどうなのか?がわかりやすい。
その工法を施した結果、予想外の効果が出たのであれば、その観点を縦軸に追加して全ての研ぎ方を再評価すればよい。同じ効果を得られるために必要な工法が多数あるのであれば、時間と費用と効果によって、最適なモノを選べば良い。時間の少ないペンクリでやる工法と、じっくり時間をかけられる生贄調整では工法が違って当然であろう。今回紹介する【タコスペ・イチオシ】は、普通に調整すると縦横極太で、ぬるぬるぬらぬら調整となるWAGNER 2009を、左手筆記用に改造している過程で思いついた工法。調整中に・・・これは右手用のStub調整にも使えると感じた。
実際に研いでみると、Stubの観点からも、左手書きの観点からも満足出来る物になったというわけじゃ。けっして、上記表の空白部分を狙って開発した工法ではない。
しかし上記の表は、新しい工法を編み出す際にはずいぶんと役に立つのではないかなぁ。特に特殊要件の部分が増えれば工法も数多く開発されるように思う。
さてタコスペ・イチオシだが、上から見ると変化はわからない。スリットの拡がり具合は通常調整と同じだし、ペン先の斜面などは研磨していないので紙当たりや柔らかさも同じ。違うのはペン先の研ぎのみ。画像では被写界深度の関係で良くわからないが、これをルーペで見ると、研ぎの異様さが良くわかる。遠くから走ってくる新幹線を、右斜め前から撮影したような形状をしているのじゃ。
腹は全て削り取られている。そして左手で押し書きする角度でペン先が突っ張らないようにペンポイントが研磨されている。ただし横幅は狭まってない。
結果として横線を引くときの線幅は細くなり、Stubの字幅が実現できたことになった。通常のStubは90度に削られた直方体のある角に丸みを付けながら削っていくのだが、イチオシは、90度よりも鈍角になっている。このためか描かれる線の表情がかなり豊かになってくるように思われる。また書き味もずいぶんと良くなる。もちろん当初の目的である左手筆記も出来る。
たまたま出来た工法であって、最初から狙ったものではないが、表に整理するともっともらしく見える。かなり時間がかかる工法なので一般的ではないし、Italic調のStub好き人間には物足りない字幅(横線が太くなりすぎる)となる可能性も高い。
だがなんちゃってStub好きで、字の下手な人が使えば、非常に表情豊かな珍しい字形となる。すなわち下手な字を珍しい字形でごまかせる魔法の研ぎなのじゃ!
柔らかいニブに施さないとおいしくならない調整なので、WAGNER 2009に施して大宮大会に持参する。ぜひお試し頂きたい。残念ながらまだ調整の型が完成していないので、お嫁には出せないが・・・