2012年02月20日

月曜日の調整報告 【 Parker 75 14K-M フラットトップ ドロドロ〜 】

2012-02-20 01Parger 75 修理シリーズ第二弾は、フラットトップのParker 75。よく初年度モデルと間違えて説明されていることがあるが、初年度モデルは首軸を銅軸にねじ込む部分が金属製。今回紹介するのは、そこが樹脂製なので初年度モデルではない。

胴体の純銀部分は疲れていないが首軸ユニットは相当疲弊している。カートリッジを長期間挿したまま放置し、書けなくなってから慌てて抜き、コンバーターを挿した状態で中古市場に流れたのであろう。

2012-02-20 02このペン先根元のドロドロさ加減は【半一族】、特に西日本方面に生息する部族の琴線に触れるのでは・・・と想像する。ペン先鏡面をサンドペーパーで磨いて綺麗にしてあるのがお気に召さないかもしれないが。

首軸の金属部分の左側、ペン先の首軸と接する部分に茶色の滓のようなものが付着している。削って水に溶かすと黒いのだが、ブルーブラックが黒化したのか、ブラックインクの成分が変色したのかは不明。おそらくは前者ではないかなと想像している。昔の人はブルーブラックが大好きだったというのがその理由。

2012-02-20 03この個体にはParker 75の典型的症状である首軸痩せが発生している。画像下部分がやや細くなっているのがわかるかな?

この症状を持つ個体は二束三文の値打ちになってしまう。eBayでは状態の良い首軸ユニットは往々にしてParker 75自体よりも高い値付けになっている。これは父親からプレゼントされた本体は生かしながら、首軸を交換して書けるようにしたい・・・という人が多いせいではないだろうか?

拙者の父もParker 75を使っていた。几帳面で神経質な人で、しょっちゅう萬年筆を洗浄していたため、最後まで首軸の劣化はなかった。1977年〜1997年くらいまで20年ほど使っていたはずじゃ。

2012-02-20 04父親のParker 75もMだったが球状のまん丸いペンポイントが付いていた。しかるのこちらにはちゃんと成型されたペンポイントがついている。おそらくは後年のペン先がついていると思われる。さらに驚くべき事に、ペンポイントが誰かによって研がれている。

かなり上手な研ぎで、これ以上いじる必要性を感じない。引っ掛かりもなく、一般の人の書き癖に合わせてスイートスポットも形成されているが、チャーチャーと研ぐ機械が使われた形跡はない。また超音波洗浄機で洗浄された形跡もないという不思議なペン先。調整師ならプロ・アマを問わず、清掃くらいはするからなぁ・・・

2012-02-20 052012-02-20 06首軸先端部に【0】の刻印がある。このマークに惚れている人も多いので、中古市場では通常物よりは値が張るらしい。人のことは言えないが、ほんにコレクターってヘンな奴!【神は細部に宿る】のか?

そしてペン先ユニットであるが・・・驚くほど汚れていた。ドロドロというよりは、カサカサ!ペン先ユニットを抜こうとしてもビクともしない。左右に捻ろうとするとインク滓がカサカサと紙の上に舞い落ちる。それでもグイグイひっぱているとペン先ユニットがズリズリと出てきたのだが・・・


2012-02-20 07インクの通り道がインク滓で埋まっている。これではインクは出ない。水に入れて振ってみると、モクモクと黒いような青いような色でビーカーが汚れるのだが、一向に滓が取れる感じがしない。

熱湯を入れた超音波洗浄にに入れると再びモクモクと色は出るのだが、やはり綺麗にはならない。そこでアスコルビン酸の高濃度溶液につけて激しく振る作業を数分間行った後で15分間放置する・・・というのを液を新しいのに変えながら3回繰り返した後、再び熱湯を入れた超音波洗浄機で合計6分間ほど洗浄した。

2012-02-20 09そうすると首軸ユニットは左画像のとおり非常に綺麗になった。もちろん細部に残った錆は固形化したインク滓はボーグルーペと歯科医用の先端工具で丹念に取り除いた。

当初は間違った位置にペン先ユニットが刺さっていたが、【0】マークの延長上にスリットがくるようにセットしておこう。実際には書き手が自分の筆記角度に合わせてペン先を回転しながらベストポジションを決める方式。【0】マークは標準点でそれからどれくらい捻るかを記録しておく目的で入れたのだろうが、それほど評価されなかったのか、すぐに無くなってしまった。だからこそマニアが珍重するのであろうが。

2012-02-20 10こうやって拡大してみると、初期のペン先ではないことがよくわかる。ぴっちり詰まっていたスリットを多少拡げたが、今回はペン先をペン芯から外さず、工具も使っていない。耐水ペーパーとラッピングフィルムを入れてスリスリしただけ。

アスコルビン酸水溶液と超音波洗浄液の組み合わせはブルーブラックインクには絶大な効果を発揮するらしく、完璧にペン先ユニットが洗浄された感じがしたので、それ以上の無理はさせなかった。調整済みなので書き味に文句は無い。いったいだれが調整したのだろう?ちなみにはペンポイントの背中側も研がれてはいるが、調整は施されていない。エッジは少し残っている。

2012-02-20 08今回胴体に入っていたコンバーターはこちら。かなり古いタイプだが、中にインクを入れた様子は無く、洗浄しても色も付かなかった。元の所有者はもっぱらカートリッジで使っていたのであろう。

今回の萬年筆はオークションではなく、古道具屋さんがごっそりまとめて仕入れた物の中に入っていたらしい。従ってペン先の入替があったとすれば、当初の利用者が抜き差ししたとしか思えない。しかしペン先交換法などはパンフレットには書いてないだろうから、回転してベストポジションを決める・・・という作業を繰り返しているうちに引っぱれば抜けるじゃん!となって交換したのではないか?

あるいは、新しい軸(漆塗りなど)に書きやすくなったペン先を移植して、新しい軸に付いていたペン先をこちらにつけなおしたのかもしれない。いずれにせよ、つけ直してからも相当使われ、インクをこびりつかせたのは事実だ。

キャップはパチンと締まらず、ヌーと入って止まる感じだったが、その昔セーラーの川口先生に教わった方法でペン先内部の部品を変形させることによって、パチンと音をたててキャップがしまるようになった。こちらも大成功!


【 今回執筆時間:4時間 】 画像準備1.5h 修理調整1.5h 記事執筆1h
画像準備
とは画像をスキャ ナーでPCに取り込み、向きや色を調整して、画像ファイルを作る時間
修理調整
とは分解・清掃・修理・ペンポイント調整の合計時間
記事執筆とは記事を書いている時間

Posted by pelikan_1931 at 09:30│Comments(4) このエントリーをはてなブックマークに追加 mixiチェック 萬年筆調整 
この記事へのコメント
monolith6さん

丸ニブは14K POINT以降でしたか!なら全ての謎が解決します。ありがとうございました。
Posted by pelikan_1931 at 2012年02月22日 08:49
 ペン・ポイントの形状については、断言できませんが、14K POINT 云々と刻印されたもの辺りから、球のままで付けっ放しという形状になったと思います。

 これはBニブよりも太いものは別として、Mニブ以下のものは一様にこうなっていたと記憶しています。Bよりも太いものは、さすがに溶接後、形状を整えてありました。
Posted by monolith6 at 2012年02月21日 12:25
monolith6さん
刻印は14K PARKER U.S.A. なので、1965-1971ですね。ありがとうございました。
父親のは1971年以降に購入したはずなのですが、ペンポイントが球研ぎでした。Mとの刻印がペン芯にはいっていました。細く書けないので苦労していたようですが、1971年以降のペンポイントで球研ぎのMってのがあったのでしょうか?
今回紹介したペンポイントはサイドがきちんと研磨されていました。
Posted by pelikan_1931 at 2012年02月20日 18:12
 このニブは刻印から判断するに、ほぼ初期型です。

 米国製のニブの刻印は、「14K. PARKER U.S.A.」が最初期、次が「14K PARKER U.S.A.」(要は、14Kの次にピリオドがあるか無いかの違い)、最後に「14K POINT PARKER U.S.A.」となって、フランス製の14Kニブへと移行しました。

 最初期のものは、おおむね1964年〜1967年頃まで、次のものは最初期のものと使用時期がダブっていますが、おおむね1965年〜1971年頃まで、最後のものはおおむね1971年〜1981年頃まで使われました。

 鞘軸のクリップの受け方、キャップ口の刻印、ニブの刻印、首軸のデザインを個別に見ても、年代の整合性がきちんと取れていて、純正なものです。
Posted by monolith6 at 2012年02月20日 17:59