2012年02月15日

水曜日の調整報告 【 Parker 75 14K-F ペン先段差 】

2012-01-15 01本日より1回おきにParker 75 (並びに類似品)の調整報告を行うことにする。大量に調整依頼が来たのだが、それそれ少しずつ仕様や症状が違う。さらに生贄なので、場合によっては部品交換や燻しを施すこともある。

そういう意味で同じような調整でも毎回違った発見があるはず。Parker 75は亡くなった父が愛用していた。そういう思い出を持っている方も多かろう。そうParker 75は50歳以上の人にとっては【父親の万年筆】というイメージじゃ。

第一回目の品は画像ではこぎれいに見えるが、実際にはドロドロに汚れている。ただ銀が錆びていないので目立たないだけ。

2012-01-15 022012-01-15 03まず首軸だが金属部分の根元と先端部内側にインクがこびりついている。熱湯を入れた超音波洗浄機に入れてもそれほど綺麗にならない。

そこでまずロットリング洗浄液を入れた試験管にペン先を外した首軸をつけ、何度も振って液を捨て・・・を繰り返した。さらに超電解水で同じように洗浄した後で、90度のお湯にアスコルビン酸を大量に溶かした液を試験管に入れ、それに首軸をつけて蓋をし上下に激しく撹拌する作業を5分ほど実施した。

2012-01-15 042012-01-15 05さらにペン先とペン芯を分離すべく、ヒートガンでペン先の根元部分を暖め、接着剤が軟化したころを見計らって、ペン先先端部をヤットコで摘んで引き抜いた。一歩間違えばペンポイントが飛んでしまうが修理する為にはリスクは取らねば・・・なぁ。

普通はちょこっと接着剤が付いているだけなのだが、この固体では左右ともべったりと接着剤がついており剥がすのに非常に苦労した。次回より外しやすいよう、今回は接着剤をつけないで再アセンブルした。

2012-01-15 062012-01-15 08首軸の根元は白く粉をふいており、コンバーターのゴムはほとんど死んでいた。そこで以前に頂いた新品のコンバーターと入れ換えることにした。

Parker 75で一番劣化が早いのは首軸。これが痩せてキャップが閉まらなくなったら万事休す。今回の品は首軸の劣化は無い。ただ首軸先端部の金属の内側には大量のインク滓がこびりついていたので、ボーグルーペと歯科医用の工具で丹念に錆を取り除いた。

2012-01-15 07今回ペン芯とペン先を分離したかった理由はコレ!ペン先に段差があるのじゃ。この段差は曲面型のニブであればお辞儀させて合わせれば良いのだが、背中が平たいニブの場合、ペン先を完全に外してから揃えないとインクフローが不安定になる。

またペン先の波うちが目立つこともあり、ペン芯に乗せたままの調整は得策ではない。左画像の状態なら向かって右側が下がっているというよりは、左側が上がっているように見える。この場合、ペン芯を外した状態で段差解消する方が精度も高く、工数も圧倒的に少ない。

2012-01-15 09こちらが清掃が終わったParker 75。軸は銀のお風呂に入れた状態で綿棒で擦って黒い部分を取り、その後で銅磨き布で磨いた。銀磨き布で磨かなかった理由は・・・手持ちが無かったから。また銅磨き布の方が研磨粉がたくさん付いているので生産性が高いことじゃ。

2012-01-15 102012-01-15 112012-01-15 12ペン先のスリットを若干拡げインクが出やすいようにした。また、首軸の金属部分は徹底的に銅磨き布で磨き上げた。

ペンポイントはやや角研ぎ風にした後で、スイートスポットを表と裏に一ヶ所ずつ削り込んだ。この時代のFはペン先の斜面が途中から鋭角になっている。そういう形状になっている物は先端部だけが柔らかい可能性もありワクワクする。

この固体も、全体としては硬いペン先なのだが、先端部だけが柔らかい。フッとインクが紙に盛り上がる感じになる。Parker 75らしさは消えてしまったのが残念だが、それは次回Fを調整する際に試してみよう。今回はParker 75をソフトタッチで使えるようにする研ぎでした!

今回の調整で最も時間がかかったのは首軸洗浄、二番目が胴軸・キャップの純銀洗浄。段差調整や研磨などはせいぜい10分ほど。ペン先さえペン芯から外れれば調整にかかる時間は非常に短縮される。さて次々回の調整講座ではフラットトップ・モデルの修理・調整を行う。そちらもお楽しみに!


【 今回執筆時間:4時間 】 画像準備1h 修理調整2h 記事執筆1h
画像準備
とは画像をスキャ ナーでPCに取り込み、向きや色を調整して、画像ファイルを作る時間
修理調整
とは分解・清掃・修理・ペンポイント調整の合計時間
記事執筆とは記事を書いている時間



Posted by pelikan_1931 at 07:00│Comments(2) このエントリーをはてなブックマークに追加 mixiチェック 萬年筆調整 
この記事へのコメント
monolith6さん
小さな球をうまくHoldするための手段か、あまり柔らかなペン先になりすぎないための苦肉の策でしょう。
Posted by pelikan_1931 at 2012年02月20日 18:15
 このFニブの先端部分は、1月20日付けで取り上げられた、ソネットのニブと似通った形状をしていますね。
Posted by monolith6 at 2012年02月20日 17:51