2012年02月22日

水曜日の調整報告 【 Pelikan #500 14C-B 本来の姿に・・・ 】

2012-02-22 01今回の依頼品はPelikan #500 14C-B。初期の品はヘロヘロに柔らかいニブが付いており、その形だけから判断できる。

現行のM400はシリーズ全体とのデザインの整合性の関係で、キャップリングが2本になり、また尻軸にも2本リングが入っているが、#500にはそれがない。VintageのPelikan 400と同じデザインを踏襲したのであろう。ずっと#500の方がシンプルで良いなぁ・・・と思っていたが、最近の拙者はM400に傾倒しているので、やはり現行品に惹かれるようになった。

2012-02-22 022012-02-22 03ずいぶんとインクのシミが付いたペン先。こんなの初めて!流水にさらせばすぐに綺麗になるのだが、保存の悪さでこういう紋様が出てくるのはおもしろい。既に清掃してしまったので手遅れだが、このまま残しておいてもおもしろかったかも?

パッと見たところでは、ヘロヘロニブと比べて、首軸寄りの部分が絞られており、ペン先の斜面もなだらか。M250のペン先を移植したかな?と思ったのだが、実際には筆圧でかなり開くニブであった。またBであるにもかかわらず丸研ぎになっている。Bなら角研ぎでないとおもしろい字にならない。

2012-02-22 042012-02-22 05こちらが横顔。ペンポイントの背中側は見事な平面に研がれている。おそらくは工場出荷時からこうなっていたのであろう。これは#600の18C-Bとも同じ仕上げ。ただ、ペンポイント先端部分の仕上げには多少違和感がある。

当時の#500の#600のBの研ぎは角研ぎだった。ということは横から見てもペンポイントは長方形でStubのような研ぎが多いのだが、綺麗な斜面が形作られている。しかも自己調整ではなさそう。ということは、こういう調整をして出荷されていた#500もあるということ。14C-Fの後、14C-HFのように【Hard】の頭文字を入れるようになり、同時にペン先が硬くなったのだが、ひょっとすると、その前にマイナーチェンジがあったのかもしれない。

Pilotはペン先のお辞儀を減じる設計変更をした際、マスコミに発表した。拙者はそれを新聞で知り、すぐに古いペン先を持つ萬年筆を買い集めた。ただしこういう設計変更を発表する会社の方が圧倒的に少ない(というか後にも先にもコレしか聞いたことがない)のは残念。拙者の想像ではこのBは最初期のニブではないように思う。あるいは、拙者が最初期と思っている前に発売されたものか、プロトタイプかも?

2012-02-22 06ペン先をソケットから外し、流水と超電解水で洗って、表面をさっと金磨き布で軽く擦った状態がコレ。見事なのはスリットが入っている位置!ハート穴の真ん中に切り割りが来ているし、ペンポイントもちょうど二分割されている。当時のペン先作りの品質管理は厳しかったんだろうなぁ・・・

あっ!Pelikan #500というのは日本だけの商品番号であって、本国ではM400と呼んでいた。またPelikan Book(古い方)には、日本ではM500という名称で発売されたと書いてある。ということは、彼らの呼ぶM400とM500では研ぎに差をつけたのかもしれない。元々は日本からの強烈なPushで発売に至ったのがM400/500だったらしいので、十分に考えられる。拙者が入手している#500や#600は全てが海外からの入手なので角研ぎなだけで、国内で販売された物は丸研ぎに研ぎ直して出荷されたのかも?


2012-02-22 07こちらが、丸研ぎを、角研ぎ風に研ぎ直した物。よく見るとペン先の斜面はやや鋭角になっている。そしてペン先の根元はツボ押し棒で拡げて寄りを弱くしている。結果としてペン先のスリットも多少開くようになった。

今回の重点は見かけをヘロヘロニブの形状に近づけること。ペン先自体は十分に柔らかいので、見かけだけの改善。またペンポイント先端部を角研ぎにすることによって、ピントのズレの発生を抑える意味もある。ピント云々に関しては2005年/2006年ごろの記事を読み返せば理解出来よう。これから調整を始めようと思う人は、過去記事も丹念に読むのじゃよ!拙者も忘れてしまった技法も紹介されている。全部会得すれば、少なくとも拙者以上にはなれるはずじゃ。

2012-02-22 082012-02-22 092012-02-22 10こちらが調整後。上から見るとかなり感じが変わっているが、横から見ると先端部が多少落とされた程度にしか見えない。

しかし書いてみると、ヘロヘロの形状だが、しっかりと芯のある書き味。そして(これが重要なのだが)、左下から右上に超高速で低筆圧で線を引けば、【ピ--------!】という引っ掻き音とともに、インクのしぶきが紙に飛び散る。通常筆記では鳴かないが、超高速筆記の時だけ鳴く!この鳴きが出れば#500のペン先調整としては完成となる!


【 今回執筆時間:4時間 】 画像準備1.5h 修理調整1.5h 記事執筆1h
画像準備
とは画像をスキャ ナーでPCに取り込み、向きや色を調整して、画像ファイルを作る時間
修理調整
とは分解・清掃・修理・ペンポイント調整の合計時間
記事執筆とは記事を書いている時間

Posted by pelikan_1931 at 08:00│Comments(3) このエントリーをはてなブックマークに追加 mixiチェック 萬年筆調整 
この記事へのコメント
すいどうさん、Ikontaさん

本来のヘロヘロは
http://pelikan.livedoor.biz/archives/51952302.html
です。やはりだいぶちがいますよね。
Posted by pelikan_1931 at 2012年02月23日 10:33
私の#500ニブ(昨年の広島で師匠鑑定済)よりも明らかに刻印が太く、深いように見えます。
Posted by Ikonta at 2012年02月23日 08:16
形状もさることながら、刻印の太さ、深さがどうしてもM250のペン先に見えてしまいます。#500の未発見仕様という見方もあるのでしょうが、以前師匠が紹介されていたM250に稀に見られる軟らかペン先と同仕様なのではないでしょうか?それはそれで通常の#500のものよりもレアなのでしょうが。
Posted by すいどう at 2012年02月22日 19:10