今回の調整講座は今までで一番多くの画像が登場する。なんと15枚!これでも5枚ほどはしょっている。如何に手がかかった調整であるかがわかるかな?特に、この個体は本来なら即ゴミ箱行きのParker 75。それを拙宅にある部品を駆使して完璧な1本に作り上げたのじゃ。今回、Parker 75とParker プリミアを合計で9本預かったのだが8本修理できたら1本いただけるとのことで部品の大盤振る舞いをしてみた。なをいただける1本(父の遺品と同型)は既に確保済み。従って是が非でも直さねばならない!
首軸の劣化は酷い。今までに首軸劣化のParker 75を50本以上は見てきたが、これは文句なしにNo.1の惨さ。汚れはたいしたことは無いのだが、樹脂の痩せ方が酷い。握ってみて細いと感じられるほど痩せている。
首軸内部にあるインク溜まりに長期間溜まったインクが、内部から樹脂を侵すせいだと思われる。Parker 75の首軸内インク溜まりのインク保持能力は抜群で、超音波洗浄機で長時間洗浄しても、丸めたティッシュをつっこむと、紙がインクでみっちりと汚れてしまう。インク切れ予防には抜群だが、好ましからぬ溶剤の入ったインクの場合は恐ろしいことになる。特にブルー・ブラックインク!
もう一つの弱点はキャップがスカスカで止まらないこと。これは首軸の痩せとは関係ない。これについては後ほど説明しよう。ペン先については大きな問題は無い。スリットがガチガチに詰まっているが、少しスリットを拡げればペンポイントの調整は非常に良い。14K POINTの刻印のMでも丸研ぎではなかった時代のものらしい。これは極上!
これこそがParker 75!という懐かしい書き味。もしこのペン先がひん曲がっていたら、流石の拙者もゴミ箱行きにしたであろう。このすばらしい書き味を生かすためにだけ、いろんな部品を集めて再構築したのじゃ。預かった9本の中でピカイチの書き味であるのは間違いない!このままでは首軸は使えないので、本体より高い値段を払って購入した代替首軸を供出しよう。上がソレ。本体に付いている首軸は99.9%インクが通されている。従って少しはインクによる首軸収縮が始まっている。このため未使用の首軸は珍重され、本体よりも高いという逆転現象が発生していたのじゃ。
なを下段の首軸はScan終了と同時にゴミ箱へ直行。二度と使えない部品は即捨てるのが修理のコツ。ゴミ部品を引っかき回して使えるモノを捜すのは生産的ではない。こちらはペン先を外したペン芯。前回紹介したParker 75と違いインク溝がインク滓で詰まるような状態にはなっていなかった。もっとも80度のお湯100cc程にアスコルビン酸小さじ1杯ほど入れた溶液の中で5分間ほど撹拌したので、その段階で滓が綺麗に溶けた可能性もあるがな。
この個体はペン芯にペン先をはり付けている糊の量が少なかったので、ペン先をヒートガンで十分時間をかけて暖めた後、ヤットコでペン先先端部(ペンポイントの下部分)を摘んで引っぱれば外れた。ヤットコを使うと小さな傷がつくのだが、これはサンドペーパーと金磨き布で完璧に消し去ることが出来る。爪が丈夫な人は爪で引っぱって抜く事も可能。拙者は過去に痛い事故にあったので爪は使わない。こちらが洗浄後にスリットを拡げ、その時の傷を磨きによって取り除いたペン先。清掃以前のペン先と比べていかに綺麗になっているのかがわかろう。
Parker 75のペン先調整を完璧にやろうとすると、どうしてもペン先とペン芯を外さなければならない。かなり慎重さが要求される作業なので、対面ペンクリのようなザワついた場所では出来ないのじゃ。この個体に付属していたコンバーターは下段のもの。ところがこれは交換した新しい首軸には固定出来ない。これは知らなかった!
コンバーター箱からParkerのものを捜すと、ほとんどが上段の形状をしていたので、それを差し込むとしっかりと固定出来た。ということは首軸内部のコンバーター差込口の形状も変化していることになる。いやはやParker 75の世界は奥が深い!次はクリップ。最下段がこの個体についていたクリップ。よく見るとあちこちの表面が腐って剥がれ落ちている。これではせっかく他を新しく交換しても寂しい・・・
そこで部品箱から新品同様のクリップを捜したところ、最上段と真ん中のものが出てきた。時代によって矢羽根の数が違うと聞いていたが、実際に並べて見たのは初めて。どうやら真ん中のクリップが最下段と同じものらしいので、これと取り替えてみよう。左の部品はインナーキャップとキャップを首軸に固定する機能を兼ねた重要部品。キャップの内側にあって天冠でクリップとともにキャップに固定されている。
このひん曲がった部分に首軸先端部があたってパチンという心地よい音を立ててキャップが胴軸に固定される。この個体ではその音もなく、固定もされなかったのだが、その原因がわかった。左側は正しい部品で板バネは4本あるが、この個体の板バネは3枚しかない。1本が折れて紛失していたらしい。これでは固定出来るわけがない。
キャップに名前が彫られていたために部品箱行きとなっていた真新しいキャップを分解して新品同様の部品(左側)をキャップには固定したところ、パチンと音を立てて締まるようになった。