2012年02月24日

金曜日の調整報告 【 Parker 75 14K-M 満身創痍 → 礼服紳士 】

2012-02-24 01今回の調整講座は今までで一番多くの画像が登場する。なんと15枚!これでも5枚ほどはしょっている。如何に手がかかった調整であるかがわかるかな?特に、この個体は本来なら即ゴミ箱行きのParker 75。それを拙宅にある部品を駆使して完璧な1本に作り上げたのじゃ。今回、Parker 75とParker プリミアを合計で9本預かったのだが8本修理できたら1本いただけるとのことで部品の大盤振る舞いをしてみた。なをいただける1本(父の遺品と同型)は既に確保済み。従って是が非でも直さねばならない!

2012-02-24 02首軸の劣化は酷い。今までに首軸劣化のParker 75を50本以上は見てきたが、これは文句なしにNo.1の惨さ。汚れはたいしたことは無いのだが、樹脂の痩せ方が酷い。握ってみて細いと感じられるほど痩せている。

首軸内部にあるインク溜まりに長期間溜まったインクが、内部から樹脂を侵すせいだと思われる。Parker 75の首軸内インク溜まりのインク保持能力は抜群で、超音波洗浄機で長時間洗浄しても、丸めたティッシュをつっこむと、紙がインクでみっちりと汚れてしまう。インク切れ予防には抜群だが、好ましからぬ溶剤の入ったインクの場合は恐ろしいことになる。特にブルー・ブラックインク!

もう一つの弱点はキャップがスカスカで止まらないこと。これは首軸の痩せとは関係ない。これについては後ほど説明しよう。

2012-02-24 032012-02-24 042012-02-24 052012-02-24 06ペン先については大きな問題は無い。スリットがガチガチに詰まっているが、少しスリットを拡げればペンポイントの調整は非常に良い。14K POINTの刻印のMでも丸研ぎではなかった時代のものらしい。これは極上!

これこそがParker 75!という懐かしい書き味。もしこのペン先がひん曲がっていたら、流石の拙者もゴミ箱行きにしたであろう。このすばらしい書き味を生かすためにだけ、いろんな部品を集めて再構築したのじゃ。預かった9本の中でピカイチの書き味であるのは間違いない!

2012-02-24 07このままでは首軸は使えないので、本体より高い値段を払って購入した代替首軸を供出しよう。上がソレ。本体に付いている首軸は99.9%インクが通されている。従って少しはインクによる首軸収縮が始まっている。このため未使用の首軸は珍重され、本体よりも高いという逆転現象が発生していたのじゃ。

なを下段の首軸はScan終了と同時にゴミ箱へ直行。二度と使えない部品は即捨てるのが修理のコツ。ゴミ部品を引っかき回して使えるモノを捜すのは生産的ではない。

2012-02-24 08こちらはペン先を外したペン芯。前回紹介したParker 75と違いインク溝がインク滓で詰まるような状態にはなっていなかった。もっとも80度のお湯100cc程にアスコルビン酸小さじ1杯ほど入れた溶液の中で5分間ほど撹拌したので、その段階で滓が綺麗に溶けた可能性もあるがな。

この個体はペン芯にペン先をはり付けている糊の量が少なかったので、ペン先をヒートガンで十分時間をかけて暖めた後、ヤットコでペン先先端部(ペンポイントの下部分)を摘んで引っぱれば外れた。ヤットコを使うと小さな傷がつくのだが、これはサンドペーパーと金磨き布で完璧に消し去ることが出来る。爪が丈夫な人は爪で引っぱって抜く事も可能。拙者は過去に痛い事故にあったので爪は使わない。

2012-02-24 09こちらが洗浄後にスリットを拡げ、その時の傷を磨きによって取り除いたペン先。清掃以前のペン先と比べていかに綺麗になっているのかがわかろう。

Parker 75のペン先調整を完璧にやろうとすると、どうしてもペン先とペン芯を外さなければならない。かなり慎重さが要求される作業なので、対面ペンクリのようなザワついた場所では出来ないのじゃ。

2012-02-24 10この個体に付属していたコンバーターは下段のもの。ところがこれは交換した新しい首軸には固定出来ない。これは知らなかった!

コンバーター箱からParkerのものを捜すと、ほとんどが上段の形状をしていたので、それを差し込むとしっかりと固定出来た。ということは首軸内部のコンバーター差込口の形状も変化していることになる。いやはやParker 75の世界は奥が深い!

2012-02-24 11次はクリップ。最下段がこの個体についていたクリップ。よく見るとあちこちの表面が腐って剥がれ落ちている。これではせっかく他を新しく交換しても寂しい・・・

そこで部品箱から新品同様のクリップを捜したところ、最上段と真ん中のものが出てきた。時代によって矢羽根の数が違うと聞いていたが、実際に並べて見たのは初めて。どうやら真ん中のクリップが最下段と同じものらしいので、これと取り替えてみよう。

2012-02-24 12左の部品はインナーキャップとキャップを首軸に固定する機能を兼ねた重要部品。キャップの内側にあって天冠でクリップとともにキャップに固定されている。

このひん曲がった部分に首軸先端部があたってパチンという心地よい音を立ててキャップが胴軸に固定される。この個体ではその音もなく、固定もされなかったのだが、その原因がわかった。左側は正しい部品で板バネは4本あるが、この個体の板バネは3枚しかない。1本が折れて紛失していたらしい。これでは固定出来るわけがない。

キャップに名前が彫られていたために部品箱行きとなっていた真新しいキャップを分解して新品同様の部品(左側)をキャップには固定したところ、パチンと音を立てて締まるようになった。


2012-02-24 13最後に純銀のボディを燻した。80度くらいのお湯を容器に入れ、そこに銀燻し液をスプーンに1杯垂らし、それにキャップとボディを入れて激しく2分ほどかき混ぜる。

液を水に流して流水でボディを綺麗に洗い、タオルで何度も擦りながら水分を拭き取り、ドライヤーで乾かす。それに椿オイルを塗ってさらに磨き込むと、綺麗な燻し銀状態のボディになる。

燻しには一時凝って様々な万年筆に施したが、Parker 75以外は小汚くなるだけ。この銀燻し液はParker 75のためにあるようなものじゃ。まるで礼装した紳士のように凛々しい姿に変貌した!

2012-02-24 14こちらがペン先を取り付けた首軸画像。ペン先を押し込む位置は、ここが標準。

ところが中古品はこの位置がほとんどズレている。90度くらいズレているものもある。ギザギザがついた部分を握り、自分の書きやすい角度にペン先を回してセットする設計になっているのだが、皆さん握る位置には無頓着なのだろうか・・・位置ズレの個体を見る度に不思議に思う。ずっと昔、伊東屋で新規購入した時にはペン先回転用の器具も箱に中に入っていたので、何度も位置の微調整をしたものじゃ。

2012-02-24 15ペン先はさほど研ぐ必要はなかった。スリットを拡げ、エッジをスリスリするだけで完璧な書き味となった。今までに200本以上のParker 75で書いてみたが、やはりMが本来のParker 75らしい書き味だと思う。グリグリと紙の上で音を立てそうな・・・けっして柔らかい書き味ではないのだが、Parker 75らしい書き味。ほかのどの万年筆とも違う独特の書き味に惚れると危険。

そして丸研ぎよりも明らかに書き味の良い、この時代の角研ぎは秀逸。今回の修理を通じて、またParker 75に惚れ直してしまった!


【 今回執筆時間:7.5時間 】 画像準備2.5h 修理調整2h 記事執筆3h
画像準備
とは画像をスキャ ナーでPCに取り込み、向きや色を調整して、画像ファイルを作る時間
修理調整
とは分解・清掃・修理・ペンポイント調整の合計時間
記事執筆とは記事を書いている時間

Posted by pelikan_1931 at 10:00│Comments(8) このエントリーをはてなブックマークに追加 mixiチェック 萬年筆調整 
この記事へのコメント
monolith6さん
フランス製の最終形Parker75(細い金色帯の首軸)、プラスティック一体型なのでインク漏れは確かに皆無でしょうね。
ただ、工業製品としての完成度が高くなったかも知れませんが、首軸の3箇所のくぼみが殆ど無く、”Parker75らしさ”は薄れてますね。
本体の銀も樹脂コーティングされているようですし、Parker75からSonnetへの以降途中の万年筆と感じます。
(とは言え、このフランス製Parker75も好きなので持ってますが。)
Posted by fountain75 at 2012年03月02日 23:45
5
師匠様、monolith6様、貴重な情報を有難うございます。長年疑問に思っていた事が解決し、すっきりした気分です。
次の週のParker75の首軸分解写真も拝見しました。なるほど!こうなってるんですね。 
それにしても、首軸を捨ててしまったのは、我ながら失敗です。これからは大切にします。今度インク漏れしたら、分解するかも知れませんが。
Posted by fountain75 at 2012年03月02日 22:47
monolith6さん
ゴミ箱に捨てた首軸は、水曜日の調整報告で復活することになってます。もっと酷い個体を復活するためです。お楽しみに!
Posted by pelikan_1931 at 2012年02月27日 20:28
 皆様

 横から失礼します。

1.この個体のニブは、ペン・ポイントのところは綺麗に切り割りがされていますが、ハート穴に近づくにつれてずれてしまっているんですね。切り割り自体が斜めに入っているようには見えないのですが、もしかして、ハート穴を穿つ場所がそもそも左側にずれているとか?

2.元々のコンヴァータのタイプは、私も初めて見ました。一見すると、ほぼ全面的に75がフランス製に切り替わって以降に用いられたタイプと似ている(中押し部分に PARKER とも U.S.A. とも FRANCE とも入っておらず、凸凹加工がしてあるだけ、というタイプ)のですが、首軸に押し込まれる部分の長さが短すぎるように思います。これがピタリと合う、元々の首軸は廃棄された由ですが、是非、拝見したかったです。

3.75の首軸痩せについては、既にここに書き込まれた通りで、熱変化とインクが原因の変化の両方があります。私も経験則上、酸化鉄を含む、本当のブルー・ブラック・インクを吸入しっぱなしで長期間放置すると、このようになりやすいと感じております。また、fountain 75 さんの疑問ですが、境目からインクが滲むのは、浸透製の高いインクである場合もありますが、そもそも「ネジが緩んでいる、またはそれに近い状況だから」というのもあるのです。そう、実は首軸先端の金環とプラスティックの握り部分は、接着剤を用いてネジで接合されており、この部分の接着剤が効果を無くす(経年変化で徐々に剥離する)とか、ネジが緩むと、インクが漏れやすくなります(とは言え、普通の状態では外れないように強固にしてある筈ですが)。因みに、インク痩せしない首軸は、首軸先端部から2ミリほど手元寄りに細い金環が付いた、フランス製の最終的なタイプです。しかし、ここで取り上げられているペン芯とは互換性がありません。
Posted by monolith6 at 2012年02月27日 17:13
fountain75 さん
来週水曜日の記事をご覧下され。疑問が解決するかも?
なを首軸は貴重な財産です。捨てないで寄付して下さい!
Posted by pelikan_1931 at 2012年02月26日 11:36
すいどう さん
むかし、首軸を熱湯に入れて放置していたら、首軸が凸凹になった記憶があります。熱も痩せの要素です。
痩せた首軸にパーカーのカートリッジがささったままのもありますので、自社製インクといえども安心は出来ません。なんせペンマンインクを作っていた会社ですので。
Posted by pelikan_1931 at 2012年02月26日 11:35
5
私も、すいどう さんと同じく、パーカー75が好きです。

 首軸トラブルについて以下教えて下さい。パーカー75を複数本持っているのですが、首軸先端の、プラスチックと金属の部品の間からインクが滲むトラブルを複数回経験しました。インクはペリカンのブラック。
 最初のトラブルでは首軸が壊れたと思い捨ててしまったのですが、その後、別の首軸個体でも発生。一方、ロイヤルブルー(これもペリカン)では滲み無し。このため、インクとの相性があるのでは?と考えた次第です。

 そこで、なるべくトラブルが起こりにくいインクを使いたいのですが、
もしもお勧めのインクについてのご知見があれば教えて下さい。
(勿論、トラブルは私の自己責任ですので。気にしないで下さい。)
Posted by fountain75 at 2012年02月25日 11:09
親から譲ってもらって以来、パーカー75は大好きなのですが、首軸痩せの件がどうしても気になります。
でも補償関係で厳しい米国製なだけにクインクなど純正品を使用する限り、大幅な痩せは進行しないのではないか?と楽観的に考えるのですが如何でしょうか?
Posted by すいどう at 2012年02月25日 10:26