2012年03月02日

金曜日の調整報告 【 Montblanc No.146 18C-B 次世代に伝えるべき逸品! 】

2012-03-02 01今回の依頼品はMontblanc No.146。素通しインク窓のモデルで、先日の大宮大会で拙者の目の前で取引されていたブツ。もしその時に、それが売り物だと理解していれば、拙者の手元に来ていたはずじゃ。単に見せびらかしているだけと思っていた。不覚であった!

これは非常に貴重な18C-Bニブ付き。おそらくはフランス向けに輸出された物。日本でも18金ペン先モデルは伊東屋限定品や丸善120周年記念で販売されたが、いずれも18K表示であり18C表示ではなかったのじゃ。

2012-03-02 022012-03-02 03首軸先端部はラッパ型であるが、ペン先は非常に端正な形状!18C MONTBLANC 750 の刻印が誇らしげ。

エボナイト製ペン芯にのっかっているので、かなりのエボ焼けがある。14金のエボ焼けよりもすこし赤っぽい気がするのは気のせいかなぁ・・・

スリットの開き具合、ペンポイントの形状もうっとりするほど美しい・・・のだが、書いてみると意外とガリガリする。筆記角度が合わないと書き出し掠れも頻発。実際に体験したことが無いのでわからないが、慣らし運転が終了する前のスポーツカーのようなぎこちなさを感じる。

2012-03-02 042012-03-02 05ほれぼれするように美しいエボナイト製ペン芯と、同じくほれぼれするほど美しいペンポイントの研ぎ。これでも書き味はぎこちないのだから、調整というのは本当に繊細な作業なのであろうなぁ・・・

ほんの少しだけペン先がペン芯より浮いている。問題になるほどではあるまいが、筆圧が強い人に当たるとインク切れのリスクもあるので直しておこう。

2012-03-02 06こちらがペン先の裏表画像。ずっと以前にも書いた記憶もあるが、エボ焼けはペン先とペン芯が直接接していない部分に出来る。

すなわちエボナイトの成分である硫黄分が、空気中に漂い、空気中の酸素と反応して付近の金の表面を硫化させると考えている。

金は硫酸では溶けないぜ・・・と考える人もいようが、18金には銀や銅も含まれている。それらが変色するのであろう。現に、銀燻し液の【銀黒】の説明書には金やプラチナも黒化させますと書かれている。

裏側を見ると、見事に溝の隙間の部分だけが茶色に変色している。やはり金とエボナイトが密着している部分は焼けていない。

2012-03-02 07ペン先の裏側に【SOD】のような刻印がある。どっかで聞いたような気もするが、どういう意味のだろう。Solidかな。少なくとも【ソフト・オン・デマンド】ではなさそう・・・

最近のMontblancでもよく見かける刻印なのだが・・・例によってフランス向かな?

いずれにせよ、ペン先一枚でも手を抜いていない証拠。この時代のMontblancの社長は技術畑だと聞いた。だからこそ経営に失敗したのかもしれないが、製品としては歴史に残すべき名品を数多く出している。

企業は継続する事を一つの目的としているが、文化としては良品しか残らない。Eversharpやオノトの末期の製品がまったく見向きもされないのも魅力が全く無いから。幸いにしてMontblancは今でも文化に貢献できる萬年筆を作り続けている・・・と信じたい。


2012-03-02 08こちらが清掃後に調整を終えたペン先。清掃前には汚れでよく見えなかったホールマークが確認出来る。それにしても美しい!

スキャナーを使う限り、デジカメのマクロ撮影と比べてかなり劣った画像しか提供出来ないが、このペン先平面画像だけはけっしてマクロ撮影に負けていないと思う。

このようなペン先画像を等身大に拡大して部屋中に貼り、その中で身を横たえて死にたいものじゃ。やすらかな死になるであろうなぁ・・・

2012-03-02 092012-03-02 10こちらが調整後の画像。実はほとんど研磨していない。この萬年筆は文化として次世代に残すべきもの。安易に削ったりしてはいけない。

ごくわずかにスリットを拡げたのと、内側の引っ掛かりを少し平坦に下だけ。依頼人は、これを細字に研いで・・・と言っていたが、それは文化財の中でウンチをするようなもので許されない!

この貴重品は、この姿のままで愛用するか、使わないまま保存して、次世代に伝えて欲しい。それが大げさでないほどの逸品なのじゃ!


【 今回執筆時間:4時間 】 画像準備1.5h 修理調整1.5h 記事執筆1h
画像準備
とは画像をスキャ ナーでPCに取り込み、向きや色を調整して、画像ファイルを作る時間
修理調整
とは分解・清掃・修理・ペンポイント調整の合計時間
記事執筆とは記事を書いている時間


Posted by pelikan_1931 at 07:00│Comments(16) このエントリーをはてなブックマークに追加 mixiチェック 萬年筆調整 
この記事へのコメント
Mont Peli さん
それは大発見ですね。
18Cのニブの形状で、他とかなり違うものがあり、不思議に思ってました。
Posted by pelikan_1931 at 2012年03月13日 11:42
GSマークを解読して企業名を突き止め、これを手掛かりにMontblanc社が#149用18Cニブをある時期外注していたエビデンスを見つけたということだけとりあえず報告しておきます。
Posted by Mont Peli at 2012年03月13日 09:10
Mont Peliさん
G(star mark)Sのヒミツ、機会がありましたら教えて下さい。
Posted by pelikan_1931 at 2012年03月11日 20:12
FPN投稿文(#26)のnib画像の中にSteODとは別の謎の刻印がもうひとつありましたね。
その「G(star mark)S」の記号を解読したら思いがけない秘密が隠されていました。
Posted by Mont Peli at 2012年03月10日 19:49
Mont Peli さん

以前の所有者は、たしか仏蘭西のeBayで入手されたはずです。それなら辻褄が合いますね。
Posted by pelikan_1931 at 2012年03月07日 11:49
FPNのコピーでアクセント記号を付けたら「金匠」のフランス語が文字化けしました。
orfevrerie(fの次のeの上にaccent grave)です。
Posted by Mont Peli at 2012年03月07日 10:23
昨年2ヶ月ほどかけて主要メーカー10社ほどのmaker's markの記号解読に取り組んだ時は、このFPNの記事は一度も検索の網にかかりませんでした。今回、この記事で別なnib写真(更に鮮明な拡大写真)を見てSteODマークのSteのeの上にアクセント記号が刻印されているのに初めて気がつきました。
間のOは仕切り記号の可能性があると前言しましたが、Francois_uk氏のご意見のようにフランス語で「金匠」を意味するOrfèvrerieのOかもしれません。(Steについては、私と同意見)
金一色nib、首軸の形状、表面に刻印されたeagle's headから1980年代にフランスで販売されたモノであることは間違いないとして、この万年筆がどういうルートで日本に渡来したかについては大変興味があります。
Posted by Mont Peli at 2012年03月07日 10:15
Mont Peliさん

http://www.fountainpennetwork.com/forum/index.php?/topic/187008-vintage-149-tri-toned-18c-nibs/

ここの下の方にある画像ですね。これは見やすい!
Posted by pelikan_1931 at 2012年03月07日 09:20
FPNの投稿記事の中に、これと同じnib刻印のより鮮明な拡大写真を見つけました。
Vintage #149 Tri-Toned 18C Nibs and the "French Market
のkarmakoda氏の提供写真。(前後の議論もとても参考になると思います)
なお、このnibの登場でSteODマークを1992年初出とするBarry Gabay仮説は覆りました。
Posted by Mont Peli at 2012年03月07日 07:48
Amulorさん

そうそう、手を加えないでお使い下され。
Posted by pelikan_1931 at 2012年03月03日 13:45
無知ゆえの恐ろしい行動に出るところでした。

心して使用致します。
使うのか?
はい道具は使われてこそ幸せ。

という主義が折れそうな、豚に真珠のような物を入手したみたいです(汗)

心待ちにしておりました分、
149と言い、今回と言い、
若葉にはノックダウン寸前の内容でした(苦笑)
少しずつ知識を深めたいと思います。

宜しくお願い致します。






Posted by Amulor at 2012年03月02日 18:33
Mont Peliさん

はい、「M(ホワイトスター)B」ではなく「M(ホワイトスター)S」ですね。お恥ずかしい。
Posted by mochiduki at 2012年03月02日 17:55
mochidukiさんの疑問にお答えしなければなりませんね。
DUNHILL社は、経営危機に陥っていたMontblanc社の株60%を取得して1977年に経営権を取得しています。
結論だけをまとめて理由付けを端折ったので少し説得力を欠いたかもしれません。

1.DをDUNHILL社のイニシャルと推定した理由
(その1)このmaker's markが登場するのは、DUNHILL社がMontblanc社の経営権を取得した1977年以降で、それまでは、Montblanc-Simplo社のマークが使われていた。(ロゴマークの両サイドにMとSをあしらったもの)
(その2)DUNHILL NAMIKIのmaker's markとデザイン的に類似点が多い。
2.SteODのSteとDの間Oを仕切り記号(線)の可能性ありと判断した理由
DUNHILL NAMIKIのmaker's markで、やはり、PとDの間に斜線と丸を組み合わせた仕切り記号が使われているから。(PとDは、それぞれPilotとDunhillのイニシャルと判断)
なお、DUNHILL NAMIKIのmaker's markは、「万年筆スタイル2」(P.010)の久斎のnibをルーペで拡大し、左をP、右をDと認識しました。
3.Steをフランス語societeの略号と推定した理由。
(その1)色々なメーカーで使われていることから、法人略号である可能性が大。
(その2)CROSS社のTOWNSENDに刻印されている同社のmaker's markを拡大して見ると、交叉線の上のSteのeの上にフランス語のアクセント記号(accent aigu)が刻まれているものがある。
Posted by Mont Peli at 2012年03月02日 16:04
Mont Peliさん提唱のダンヒル説、とても興味深いです。私がいままで見てきたメーカーズマークは――フランス向けの個体を全部ばらして確認できるわけもないので、あくまで限られた範囲での経験ではあるものの――たしかに80年ごろ(あるいは70年代後半)を境に「M(ホワイトスター)B」から「SteOD」に切り替わっています。ダンヒルによる買収「完了」が1983年でしたっけ? そこからするとちょっと早い気もするのですが、W.-GERMANYあたりも含めて多少の時期のずれは日常茶飯事ですからね(笑)

ダンヒル説は、これまで謎とされてきた、なぜメーカーズマークがモンブランからSteODに変わったのかということと、はたしてモンブランのニブは自社生産なのかという二つの問題を同時に解決できるかもしれません。いままで疑われてきたような「SteOD時代になり、ニブの製造者が変更になった(モンブランがニブの生産を他社に委託した)」ということではなく、「親会社が変わったことでメーカーズマークも切り替わった」ということになれば、製造者はあくまでモンブランであるということになるからです。
Posted by mochiduki at 2012年03月02日 15:09
これは欲しい!最近は滅多に食指が動きませんが、やはりこういうのはいいです。いつまで経っても技術的なおはしは出来ませんが、80年代の柔らかくて書き易いペン先は50年代のモノよりも好きです。
Posted by takechanfavor at 2012年03月02日 12:07
>ペン先の裏側に【SOD】のような刻印がある。

一見すると、SODにも見えますが、小さくteが添えられており、正確にはSteODと刻印されています。
Steはいろいろなメーカーのmaker's markに刻印されているので、共通項で括って推理すると、フランス語で会社を意味するsociete(eの上にアクセント記号)の略号だと思います。
DはDUNHILL社のDではないかというのが私の推理です。従って、DUNHILL Ltd.のフランス語表記。
間のOが何を意味するのかわかりませんが、アルファベットではなく単なる仕切り記号(線)の可能性もあると思います。
なお、Steはパイロット社の輸出仕様nibにも刻印があるので、同社に問い合わせればSteについては正確な情報を提供してくれるものと期待します。
Posted by Mont Peli at 2012年03月02日 08:11