2012年03月12日

月曜日の調整報告 【 1980年代前半 Montblanc No.149 14C-EF ペン先段差 】

2012-03-12 01今回の依頼品はMontblancのNo.149 14C-EF。なで肩クリップと、首軸先端部の仕上げが現行品と大きく違っている。これは1980年代前半のモデルで、ペンポイントは円盤研ぎではなく、またペンポイント自体も小さい。この形式の方が当然書き味は良いのだが、高度な研ぎの技術が必要。

調整を初めて2〜3年目のころ、細字調整が非常に苦手だったが、それはMontblancの安価な円盤研ぎのモデルばかり研磨していたからじゃ。最近開発したタコスペ・超不細工は円盤研ぎのペンポイントを、このNo.149のEFのペン先に近い書き味に変えてくれる。円盤研ぎの書き味にお悩みの方がいれば萬年筆研究会【WAGNER】に持ち込んで下され。

2012-03-12 022012-03-12 03非常にシェイプアップされた美しいペン先なのだが、惜しむらくはペン芯が上から見える状態になっている。これは不細工!ペン芯を後退させてペン芯を見えなくする必要がある。

また筆圧をかけないでもインクが盛り上がるように書けるためには、もう少しスリットを開いた方が良かろう。

2012-03-12 042012-03-12 05こちらは横顔。この角度で見ると、この個体の状態の悪さがよくわかる、まずペン先とペン芯の間に隙間が出来ている。これでは頻繁にインクが途切れてしまう。また、かなりの筆圧で書かれたのか、ペンポイントが直線状にすり減っている。まるでコテ研ぎをしたみたいに・・・

実は、この時代の二段ペン芯が(以前にも紹介したが)ペン芯単体で販売されていた時代には上下が5ミリ程度の段差状態で出荷された。その上にペン先を乗せて首軸に突っ込むとペン先は開いてしまう。その状態で熱湯に浸せば熱で軟化したエボナイトがペン先の戻ろうとする圧力に抗えず隙間が狭まっていく・・・動きが止まったところで冷水に浸せばペン先とペン芯は密着し、スリットもペン先単体でスリット調整した状態になる!隙間調整の時間を削減した画期的なエボナイト製ペン芯なのじゃ。

従って段差が出来た状態の時には、一度ペン芯を外し、暖めて隙間を拡げ(拙者はスキマゲージの一番太い物を挟んで熱湯に入れる)てから、ペン先を乗せて・・・という作業をする。

2012-03-12 06その前に処置しておく必要があるのが段差調整。前から見ると大きな段差が見える。利用者はこれまでこの段差を認識しないまま、書き味が悪い!と嘆いていたらしい。

ペン先単体では段差が無いのに、ペン芯に乗せると段差が出来る事がある。そういう場合はペン芯が歪んでいるか、ペン先の内側のカーブとペン芯のカーブが合わないか、ペン先をペン芯に乗せる段階でどちらかにズレているケース。これを直すにも、このエボナイト製ペン芯はありがたい。ほとんどのケース、上記熱湯微調整で同時に直る。それでも直らない場合はペン芯の一部を多少削って高さ調整を施せばよい。この微妙な作業は実におもしろい。

まずはエボ焼けしたペン先の・・・


2012-03-12 07表面と裏側を磨いてエボ焼けを全て取り除く。いつもの事ながらペン先の全体が映った映像は美しい。

特に穂先の斜面が鋭角になっているペン先は別格じゃ!最近のNo.149のペン先の色は黄色が強いが、拙者はこの時代のやや青ざめたような薄い金色が断然好き!

一時セーラーが21金ペン先に24金鍍金を施していたが、あれはいただけなかった。販売する時だけ綺麗ならイイや・・・という発想?金に施した鍍金など、すぐに剥がれてしまう。

2012-03-12 082012-03-12 09こちらが調整後のペン先。大きな変化はエボナイト製ペン芯が上からは見えなくなった点。これで、ワイシャツがスーツのズボンからはみ出しているような心地悪さは解消された。

ペンポイント先端部は、若干細字Stub調になるよう角研ぎにしてある。またスリットはペン先単体の時よりは若干寄せた。かなり柔らかいペン先なので最初に紙にインクが付きさえすればあとはポンプ運動でどんどんインクが供給されるので、それほどスリットを拡げる必要はない。

2012-03-12 10こちらが横顔。ペン先とペン芯のスリットは無くなり、ペンポイントのコテの部分も丸めた。この時代のペン先の特徴を残すべく鉈の先端のような形状はそのまま・・・のように見えるが、ちゃんと裏書きも出来るようには研いである。

インクに浸して書いてみると・・・もう夢心地。自分の萬年筆であればすぐに飽きてしまうのだが、他人の萬年筆であれば妙に名残惜しい!


【 今回執筆時間:4時間 】 画像準備1h 修理調整2h 記事執筆1h
画像準備
とは画像をスキャ ナーでPCに取り込み、向きや色を調整して、画像ファイルを作る時間
修理調整
とは分解・清掃・修理・ペンポイント調整の合計時間
記事執筆とは記事を書いている時間


Posted by pelikan_1931 at 08:30│Comments(1) このエントリーをはてなブックマークに追加 mixiチェック 萬年筆調整 
この記事へのコメント
毎日楽しみに(特に日曜日(笑))記事を読ませて頂いております。

WAGNERさんのペンクリについての質問なんですが。

自宅のペン入れから出てきた、古いセーラーの万年筆(川口先生曰く、詳細は分からないが20〜30年くらい前に5000円位で売っていた物だろう)の事で質問が合ってコメントさせて頂いてます。

洗浄してもインクが出ないで、使えない万年筆だったのですが、セーラーのペンクリニックに持ち込み、川口先生に調整して頂いて、なんとか書ける状態になりました。(洗浄する段階でペン芯とペン先が首軸から外れないと言う、アクシデントはありました。)が、書いている途中でインク切れを起こしてしまいます。

一本の万年筆は1人の調整士に任せる。と言った事をどこかで聞いたのですが、WAGNERさんのペンクリでお願いするのは可能でしょうか?

WAGNERの会員の方々からしたら玩具の様な万年筆かも知れませんが、私にとっては大切な物です。

もし可能だとしても、当方福岡ですので参加させて頂くのは、6月9日の九州地区大会ですが・・・。
Posted by 山本ツカサ at 2012年03月13日 18:11