今回の依頼品はMontblancのNo.149 14C-EF。なで肩クリップと、首軸先端部の仕上げが現行品と大きく違っている。これは1980年代前半のモデルで、ペンポイントは円盤研ぎではなく、またペンポイント自体も小さい。この形式の方が当然書き味は良いのだが、高度な研ぎの技術が必要。
調整を初めて2〜3年目のころ、細字調整が非常に苦手だったが、それはMontblancの安価な円盤研ぎのモデルばかり研磨していたからじゃ。最近開発したタコスペ・超不細工は円盤研ぎのペンポイントを、このNo.149のEFのペン先に近い書き味に変えてくれる。円盤研ぎの書き味にお悩みの方がいれば萬年筆研究会【WAGNER】に持ち込んで下され。非常にシェイプアップされた美しいペン先なのだが、惜しむらくはペン芯が上から見える状態になっている。これは不細工!ペン芯を後退させてペン芯を見えなくする必要がある。
また筆圧をかけないでもインクが盛り上がるように書けるためには、もう少しスリットを開いた方が良かろう。こちらは横顔。この角度で見ると、この個体の状態の悪さがよくわかる、まずペン先とペン芯の間に隙間が出来ている。これでは頻繁にインクが途切れてしまう。また、かなりの筆圧で書かれたのか、ペンポイントが直線状にすり減っている。まるでコテ研ぎをしたみたいに・・・
実は、この時代の二段ペン芯が(以前にも紹介したが)ペン芯単体で販売されていた時代には上下が5ミリ程度の段差状態で出荷された。その上にペン先を乗せて首軸に突っ込むとペン先は開いてしまう。その状態で熱湯に浸せば熱で軟化したエボナイトがペン先の戻ろうとする圧力に抗えず隙間が狭まっていく・・・動きが止まったところで冷水に浸せばペン先とペン芯は密着し、スリットもペン先単体でスリット調整した状態になる!隙間調整の時間を削減した画期的なエボナイト製ペン芯なのじゃ。
従って段差が出来た状態の時には、一度ペン芯を外し、暖めて隙間を拡げ(拙者はスキマゲージの一番太い物を挟んで熱湯に入れる)てから、ペン先を乗せて・・・という作業をする。その前に処置しておく必要があるのが段差調整。前から見ると大きな段差が見える。利用者はこれまでこの段差を認識しないまま、書き味が悪い!と嘆いていたらしい。
ペン先単体では段差が無いのに、ペン芯に乗せると段差が出来る事がある。そういう場合はペン芯が歪んでいるか、ペン先の内側のカーブとペン芯のカーブが合わないか、ペン先をペン芯に乗せる段階でどちらかにズレているケース。これを直すにも、このエボナイト製ペン芯はありがたい。ほとんどのケース、上記熱湯微調整で同時に直る。それでも直らない場合はペン芯の一部を多少削って高さ調整を施せばよい。この微妙な作業は実におもしろい。
まずはエボ焼けしたペン先の・・・