2012年03月19日

月曜日の調整報告 【 Pelikan M405 Blue 18C-F これ・ドM 】

2012-03-19 01今回の依頼品は研ぎ方名称指定でやってきた。タコスペには4種類の特殊研ぎがあるが、一番よく使うのが【タコスペ・コレドM】じゃ。

ところが、今回の要望は【これ・ドM】に研げという。【タコスペ・コレドM】から一工夫せよということだろう。

タコスペ・コレドM】の特徴は、細く柔らかい書き味になるが、インクフローは少なめで、背書きの方が太くて滑らかというもの。そこで【これ・ドM】では【タコスペ・コレドM】から長所を全て取り去ってしまうことにする。堅さは変わらず、極細にもならず、インクフローも変わらず、背書きの方が細くてインクフローは少ないが書き味はマシ・・・という、良いところがない調整。しかも先端部が針のように尖っていて、チクチク痛い!それを楽しむというのを【これ・ドM】とした。残念ながらタコスペの称号を冠するわけにはいかないが・・・

2012-03-19 062012-03-19 02こちらが調整前のペン先。多少柔らかいなと思い、拡大してみるとP.F刻印付きの18金ペン先がついている。これは#600の後期モデルや#750(銀鍍金モデル)、#760の後期モデルやトレドに付いていたペン先じゃ。初期の#600や#760、初期トレドには金一色のE.N刻印付きのニブがついていたはず。

2012-03-19 03ペン先は綺麗に揃っているし、スリットも開いておりインクフローもなかなかだが、円盤研ぎによって細さを演出した研ぎなので、書いた際に多少猥雑な感覚が手に残る。この安っぽい書き味を濃厚なリキュールのような書き味に変えてみよう。舌触りはねっとりとしているが美味いわけではない。でも後を引く口あたり・・・みたいな。

2012-03-19 042012-03-19 05円盤研ぎのニブに施す調整は一般的には【タコスペ・超不細工】。これはペン先をお辞儀させてインクフローを絞った極細を演出する調整。今回の【これ・ドM】ではペン先をお辞儀させないまま【タコスペ・超不細工】と同じように研ぎ、なおかつ、ペンポイントの背中の面積を狭めて背書き時のヌラヌラ感を落とし、カスカス感を演出する。ただし、通常筆記時の書き味は【細字らしく紙に食い込む感じがあるのに、引っかからないで書ける】ようにしたい。

現在の研ぎは、優等生的ではあるが、記憶に残らない書き味。頻繁にキャップを外していたずら書きしてみたい感じはまったくしない。大量の萬年筆にインクが入っている場合、頻繁にお呼びがかかるためには、特徴のある書き味でないと無理。そこで、二度とはしない、かわった調整を施してみよう。

2012-03-19 072012-03-19 08まずは、書き味を硬くするために、お辞儀ではなく、ペン先を少しだけ首軸に突っ込んだ。ペン先とペン芯の位置は動かしていない。太さを示す刻印【F】の全体が上から見えるギリギリのところまで押し込んだ。これ以上押し込んで【F】の刻印の一部が首軸に隠れてしまうと極めて美しくない。

2012-03-19 092012-03-19 10ペン先はお辞儀させないまま、ペンポイントの背中側を猫背に研磨した。これは背中を削って細字を演出する【細美研ぎ】の理屈を参考にしている。背中側のペンポイントを削る量は【タコスペ・超不細工】よりは少なめ。ペンポイントの腹の研磨は【タコスペ・コレドM】よりは少し丸めを多くしている。仕上げに15,000番のラッピング・フィルムの上で角度を変えながら400字ほど書いてスムージングを行っている。仕上げにラッピング・フィルムをむやみに使うと書き出し掠れが発生するのだが、角度をピッタリと合わせれば問題はない。依頼人の筆記角度が、ペン習字講座のおかげで変わってきているのが気がかりだが・・・


2012-03-19 112012-03-19 12左画像は、この萬年筆を受け取った時の状態で、右画像がお渡しするときの状態。もちろん青軸の方が依頼品。

よく見ると天冠の色が変わっている。軸が青縞の軸に黒い天冠は多少違和感がある。むしろ最新の銀色天冠の方が美しい。一方で軸が黒一色の天冠は、プリントの黒天冠の方が似合うと感じている。

そこで、キャップ毎交換してみると、双方が理想通りの色合いになった!

黒軸の方は同時に調整した拙者の【タコスペ・コレドM】。調整時間は20分ほど。それに対して【これ・ドM】には研ぎだけで2時間かかった。通常筆記状態で書くと【これ・ドM】の方が良く、背書きならば【タコスペ・コレドM】の方が良い。

ただし、この【これ・ドM】の妙味は背書きにある。インクがカスカスなのに書き味がなかなか・・・という調整は実はすごく難しい。筆圧をかけてもインクフローが変わらない(むしろ少なくなる)背書きだからこそ実現できた書き味なのじゃ。でも面倒なので二度と研がないよ〜。


【 今回執筆時間:5.5時間 】 画像準備1.5h 修理調整2.5h 記事執筆1.5h
画像準備
とは画像をスキャ ナーでPCに取り込み、向きや色を調整して、画像ファイルを作る時間
修理調整
とは分解・清掃・修理・ペンポイント調整の合計時間
記事執筆とは記事を書いている時間

Posted by pelikan_1931 at 09:30│Comments(4) このエントリーをはてなブックマークに追加 mixiチェック 萬年筆調整 
この記事へのコメント
Bromfieldさん
仕上げに、このペン先に銀色の鍍金をかけます。お楽しみに!
Posted by pelikan_1931 at 2012年03月20日 10:03
師匠、有り難うございました。随分お手間を取らせたようで、恐縮です。

この万年筆をお願いした際、(調整方針の)「イメージがわかない」と仰っておられたのが印象的でした。記憶に残る「特徴のある書き味」に、どのように生け贄のペン先を造形されるのか、楽しみにしておりました。

この万年筆の書き味を、じっくりと味わいたいと思います。
Posted by Bromfield at 2012年03月20日 09:29
monolith6 さん

M405でした! 依頼人はオリジナルの14Cのペン先を、これと入れ換えたようです。
Posted by pelikan_1931 at 2012年03月19日 18:20
 すみませんが、タイトルのM805というのは合っていますか?ニブを見る限り、800シリーズには、このような模様&染め分けになっているものはないと思いますが...M605または、M405の間違いでしょうか?
Posted by monolith6 at 2012年03月19日 17:19