2012年03月21日

水曜日の調整報告 【 Parker 75 14K-M Mint 生贄 】

2012-03-21 01大量に生贄としてやってきたParker 75も残すところあと2本。短期間にこれだけの本数をこなせばコツもわかってくる。こういう作業を通じてわかったことは、(言うまでもないが)いかに沢山の本数にあたるかが勝負!ということ。素人がいくらがんばっても所詮プロの生産性にかなうはずもない。また萬年筆店の修理人がいくら場数を踏んでも、そのメーカーの職人にはかなわない。そもそも純正部品が手に入らない。

ただし、いろんなメーカーの修理を手がけることによって、ノウハウは入手出来る。従ってメーカーが修理を放棄したVintageの修理や、消滅してしまったメーカー製萬年筆の修理などは、萬年筆店あるいはフリーの修理人(堀切の久保先生など)に一日の長がある。

2012-03-21 022012-03-21 03今回の生贄をまじまじと眺めていて、これがMintの貴重品だとわかった。ペン先の硫化の具合から考えて、インクを使った形跡が無い。またペン芯も、首軸内部にもインク汚れが全く無い。Parker 75の首軸内部は、一度でもインクを入れると、その色が洗っても洗っても取れなくて苦労する。超音波洗浄機にかけて色が出なくなったとしても、水を入れてしばらく置き、ピュッピュッと振れば、インク色の水があたりに飛び散る。未だかつて完璧洗浄に成功した経験が無いのじゃ。

水をつけて書いてみると、グリグリゴリゴリとしたParker 75独特の書き味。ただし外側のエッジが紙を削るように引っかかる。これでは相当低筆圧でないとまともな字が書けない。少し形状変化させる必要がありそうじゃ。しかもMintの見た目を壊さないよう、調整痕(内側エッジ研磨による馬尻)は残さない。すなわち、オリジナル・ペンポイントの形状バリエーションの範囲内での調整を行うということ。これは相当にParker 75のペン先を見ていないと出来ないが、幸いにして100本以上はMint状態のParker 75を今までに見てきている。

もちろんインクをつけての試し書きは、上記の理由から御法度!Parker 75の疑似Mint状態にはインク痕があってはならない。

2012-03-21 042012-03-21 05インク痕の無いParker 75の特徴は、左側画像の首軸先端部の溝の美しさ。使うとこの部分がインクの酸で冒されて汚れてくる。そして汚れはどんな清掃手段をとっても落ちない。

ペンポイントはMなのに円盤研ぎのような形状になっている。これがグリグリゴリゴリの書き味の元凶。Mintでも書き味の良いParker 75はいずれもがペンポイントが多少細長く、かつ、先端部が少しだけ上向きだった。もちろんスイートスポットなどあってはならない。

2012-03-21 06胴軸を外してみると、コンバーターは古いタイプが付いている。フラットトップからディンプルトップに変わってからあまり時間が経ってない頃のモデルかもしれない。もちろんコンバーター内部にもインク痕は無かった。

この画像では綺麗にしてあるが、首軸と胴軸の純銀が接する部分に白い粉のような物がついていた。これも長期間いじられないまま放置されていた場合に発生しやすい症状。

2012-03-21 07こ画像の一番上が、今回のコンバーター。中断がやや簡素化されたバージョンで、下段がずっと後期のコンバーター。よく見ると先端部の長さが違う。そのためか、下段のコンバーターを使おうとしても具合が良くない。カートリッジなら問題はないようだが、コンバーターは軸と時代が合致するのを選ぶのが賢明じゃな。


2012-03-21 08ペン先のスリット調整をするために、ペン先を抜いてみた。抜くためにはペン先を100度強の熱風で暖めて、接着剤を軟化させたあとで、ペン先を押し出すとはずれる。ペンポイントをヤットコで引っぱると・・・ペンポイントだけが取れるのでご注意を!(経験有り・・・)

なを松江の中屋万年筆店の久保店主は、左右の溝を交互に少しずつ引っ掻き棒のような金属工具で前から引っぱるとおっしゃっていた。そちらの方が安全であろう。

ペン芯先端部に白い粉のようなものが付着しているが、この理由は明らかではない。少なくともインク痕ではない。ペン芯に付着した接着剤にもインク痕が一切無い。まさに完璧Mintじゃ!

2012-03-21 09こちらが疑似Mint状態を保ちつつ、ペンポイントの形状をより書きやすくしたもの。通常のParker 75の工場出荷状態時のバラツキの範囲無いに治まる程度の調整しか施していない。

従ってスイートスポットは無い!どこといって引っかかるところも、衝突するところも無いのだが、もう少し何とかならないかなぁ・・・というレベルの調整にしてある。

調整して書き味を良くするのは慣れれば簡単。ただし今回のように、意図した書き味に変えるというのは、かなり失敗経験をつまないと難しい。幸いにして人一倍失敗経験を持っているので、こうい調整は萌える!

結果、だれがどう見てもMintのParker 75の状態を保ちながらも書き味に不満が無い程度のParker 75を作りだせた。しかし、インクをつけないで書き味を確認するのは難しい!


【 今回執筆時間:3時間 】 画像準備1h 修理調整1h 記事執筆1h
画像準備
とは画像をスキャ ナーでPCに取り込み、向きや色を調整して、画像ファイルを作る時間
修理調整
とは分解・清掃・修理・ペンポイント調整の合計時間
記事執筆とは記事を書いている時間


Posted by pelikan_1931 at 07:45│Comments(0) このエントリーをはてなブックマークに追加 mixiチェック 萬年筆調整