2012年03月09日

金曜日の調整報告 【 Parker プリミア 純銀軸 18K-M 海老反り? 】

2012-03-09 01今回の依頼品は・・・まとめてお預かりしたParker 75の群れの中に混じりこんでいたParker プリミア スターリングシルバーじゃ。1984年ごろ、父がペン先が太すぎると悩んでいたParker 75 14K-Mの代わりに贈ろうと伊東屋に行った際、プリミア純銀軸(コレ)があまりに高価だったのでParker 75 14K-Fを贈った記憶がある。ただし値段だけではなく、キャップを抜き差しした時の感触がParker 75に比べてチープだったのもプリミアをあきらめた理由だったはず。カタログでの見栄えはプリミアが圧倒としていたのだが、実際に持つと、なんだかなぁ・・・という感じ。もっともその後、コレクションとしては何本か持っていた時期もあった。

2012-03-09 022012-03-09 03首軸先端部にツルツルの金属バンドが巻かれている。これはおそらくは耐久性向上のため。首軸先端部とキャップ内の金属のバネ(金具)がパチンと咬む方式なので、首軸先端部が樹脂だけでは、キャップ内の金属に比べて弱い・・・という判断だったのであろう。初期のモデルではこの金属部分がツルツルではなく、縦線のギザギザ状態になっていた。拙者はその初期モデルが好きで、このツルツルモデルは持ったことはなかった。

今回、首軸先端部を良く見ると、かなり擦れが目立つ。Parker 75ではこの部分に金は鍍金されていなかったが、その分インクの酸で腐食しやすかった。そのためにプリミアでは金メッキを施したリングにしたのであろう。こういう改良はすばらしいことなのだが、完成度という面ではParker 75と比べると、全体としてチープさが目立った。事実、Parker 75の後継となるはず?だったプリミアが商品ラインから消えたのは、Parker 75が消えるのよりも早かったはず。Duofoldとソネットが基盤を築いてからParker 75が市場から消えたように思うのだが、どうだったかなぁ・・・現在、岡山の実家で資料が無く、またネット環境も劣悪なので、調べることもままならないので悪しからず。

ペン先は非常に綺麗な状態で特に問題はない。寄りが強いように見えるが、インクをつけて書いてみるとかなり柔らかいタッチで文字が書ける。プリミアではペン先が18金になり、これでParker 75との差別化(高額化の理由付け)を図ろうとしたのだろう。

書き味自体はParker 75に似たゴリゴリ感は残るものに、多少柔らかいような印象は受けていた。当時は拙者も柔らかくていいなぁ・・・と思っていたが、その後自分の萬年筆を数多く所有するようになるにつれ、Parker 75のゴツゴツとした書き味の魅力がわかってきた。プリミア程度の柔らかさの萬年筆は掃いて捨てるほどあるが、Parker 75のゴリゴリ感は他のメーカー製品では感じることが出来なかったから。そう、14Kのペン先がついたParker 75だけの魅力だったのじゃ。18金ペン先が標準仕様になってからの(最後の)Parker 75は、かなり書き味としての魅力は薄れてしまったように思う。

2012-03-09 042012-03-09 05ありゃりゃ・・・ペン先が海老反りになっている!と見た時には思ったのだが、ペン先は上に反っているわけではない。反っていればスキャナー画像で色が変わって見えるはずだが、それがない。つまりはペン先が反っているのではなく、ペン芯がお辞儀しているのだ。

Parker 75のペン先ユニットはプリミアのペン先ユニットと互換性があり、構造もいっしょ。ただしペン芯もペン先も素材は異なっている。見栄えだけからならプリミアのペン芯の方が良いのだが、こういうお辞儀状態はParker 75では見かけないが、プリミアでは数度お目にかかった。

Parker は営業/マーケティングの支配が強い会社なのかもしれない。プリミアのペン芯にしろ、先日紹介したDuofold Intarnationalの天冠外れにせよ、はたまた、ペンマンインクにせよ、魅力的な宣伝文句で売った割には後に品質問題を引き起こしている。製造ラインに落ちる前の品質管理(設計品質)問題は、そこだけを問い詰められれば反論は出来まい。

その点、製造部門の力が強い国産メーカーは、たとえ社長命令であっても、品質管理部長のOKが出なければ絶対に工場から外に製品を出さないというような気構えがある。だからこそ安心して使えるわけだが・・・品質がいいから魅力があるかといえばそういうものでもない。伊太利亜製萬年筆のように、品質には多少問題はあっても魅力に抗えない場合も多い。マーケティング主導でも、工場主導でも魅力的かつ高品質な萬年筆は作れない。だからこそペンクリを通じて利用者の声を製品企画や製造にフィードバックする仕組みが有効なのだが、はたして部門間の情報共有はうまくいっているのだろうか?

2012-03-09 06こちらがペン先の刻印。Parker 75と比べるとかなり煩雑に見えるが、刻印が複雑で場所が特定されていないほど魅力的に見えるから不思議!それがわかっているからこそ、敢えて表面に刻印したのかな?

なを画像左横の刻印は750Mとなっている。18金を表す表記じゃ。何本かのParker 75とプリミアのペン先を並べてみると、プリミアのペン先の方がピンクっぽい。プリミアの方が金の含有率は当然高いので、Parker 75のペン先の色が薄いのは、銀の含有率が高いせいであろう。

ペン先だけの美しさならプリミアに軍配が上がる!

2012-03-09 072012-03-09 08首軸の金具は金磨き布で磨いたのだが、傷は全ては消えていない。これを完全に消すには粗めのサンドペーパーで擦って凸凹を完全に消してから金磨き布で擦ればよい。

ただしすぐにまた傷がついてしまうのも事実。コレクターの目から見れば、このささいな傷が気になって仕方ないのだが、日常使用するなら気にする必要はない。


2012-03-09 09お辞儀したペン芯の修理にはペン先をペン芯から外すことが必要になる。それは以前のParker 75のペン先修理の時にも紹介したので省く。ペン先ユニットを十分に熱風で暖めてから先端部が平たいヤットコで引き抜き、ペン芯をやや上に反る形状に曲げてからペン先を押し込む。どの程度反らせるとピッタリするかは感だが、今までは100%成功している。(こういうのは後世にうまく伝えられないなぁ・・・)

2012-03-09 052012-03-09 10その結果は画像のとおり、ペン先とペン芯はうまく密着できた。 左が 修理前で、右が修理後の画像。このペン芯は先端部に凸があって、ここがペン先と接する設計になっている。

Mont PeliさんやらすとるむさんのおかげでParker 75のペン先とペン芯を分解するやりかたを学習して以来、Parker 75の修理が楽しくて仕方ない。まるでMontblanc No.149の尻軸ユニットを外す工具を入手した時のよう。ただしペンクリ会場ではあまりやりたくない作業(集中力が維持できない)ので、出来れば生贄扱いがありがたい。


【 今回執筆時間:6時間 】 画像準備1.5h 修理調整2.5h 記事執筆2h
画像準備
とは画像をスキャ ナーでPCに取り込み、向きや色を調整して、画像ファイルを作る時間
修理調整
とは分解・清掃・修理・ペンポイント調整の合計時間
記事執筆とは記事を書いている時間

Posted by pelikan_1931 at 07:00│Comments(4) このエントリーをはてなブックマークに追加 mixiチェック 萬年筆調整 
この記事へのコメント
monolith6さん
金トリムの argent massifというのはみてみたいですね。
金と銀のストライプのものは、20年ほど前に美都商事で購入し、まだ持ってますが、あれは通常と同じ首軸だったように思います。当時7〜8万円支払ったはずですが、最近はずっと安く入手できるようですね。
Posted by pelikan_1931 at 2012年03月10日 07:14
Mont Peli さん

元々は情報共有を目指したBlogなので、購読料は情報です。
以前は一ヶ月間に一度もコメントしないと、会員除名だったのですが、チェックできないのでうやむやになっています。
会員外の方からの情報提供は非常にありがたいです。
Posted by pelikan_1931 at 2012年03月10日 07:09
 こんばんは。

 75の首軸には、何種類も仕様の違いがあるのですが、その中でも一番インクの酸に朽ちてしまいがちだったのが、ここにアップされているタイプでありました。以前、まとりっくすさんお手持ちで、日常使いとなっている75を拝見しましたが、首軸のリングが、すっかり朽ち果てて無くなっている状態でした。御本人にお伺いしたところ、何度取り換えても結果的にこうなってしまうために、もはやあきらめてそのまま使っているとのことでした。

 ところで、この首軸には金色の他、銀色リングのものも存在します。金や銀の使い分けは、クリップやタッシーのトリムと同一にすることで使い分けていました。すなわち、銀トリムのものには、首軸リングも銀だったのです。もっとも、このタイプでも、酸にやられやすい点は変わりません。

 むしろ、このタイプ以前のものの方が、インクの酸にはずっと耐久性がありました。更についでに申し上げますと、縦線ギザギザのものは銀色をしているのが殆どですが、稀にこの部分に金メッキが施されたものもあるんです。それらは全て、フランスで作られた、金トリムの argent massif 用でした。

 最後に、プリミアがカタログ落ちした時期は、御指摘の通り、75が生産終了となった93年より以前の88〜90年にかけて、おおよそデュオフォールドとバトンタッチする格好でした。
Posted by monolith6 at 2012年03月09日 22:07
Parker75のニブ・ユニット分解のお役に立てたのであれば幸いです。
いつもブログで楽しませていただいているので、何がしかの購読料をこういう形でお支払いできればと常々思っております。
Posted by Mont Peli at 2012年03月09日 09:57