2012年03月16日

金曜日の調整報告 【 セーラー 蒔絵 21K-M 桐紋刻印 ひん曲がってる・・・ 】

2012-03-16 01本日の依頼品は生贄扱い。セーラーの蒔絵じゃ。定番品としても、限定品としてもセーラーから正式に発売されたものではないが、ヤフオクに出品されていたのを見かけたことがある。

また、昨年の秋田大会の会場で、功労賞として贈られたと高齢の方が持ち込まれた記録もある。おそらくは2009年ごろに1000本ほど作られたものであろう。当時、WAGNER 2010萬年筆製造は、1000本単位の蒔絵萬年筆製造が終わった後で開始されると、販売店さんからうかがった記憶があるのでな。

2012-03-16 022012-03-16 03症状だがペン先が酷い状態で曲がっている。オークションで入手された時から、この状態だったらしい。

落として曲げたのをペンチで何とかしようとして収拾が付かなくなってオークションに出したのであろう。これ以上に曲がったものには何度も遭遇しているが、ここまで傷だらけのペン先は初めて!これほど酷い状態にした状態でオークションに出す人の神経がわからない・・・

ペン先拡大図で一部が赤色に見えるが、その部分が大きく曲がっている事を示している。先端部のペンチの傷も痛々しい。通常なら捨てて新しいペン先をお薦めするのだが、五七桐の家紋が刻印されているので、交換するペン先が存在しない。やむなく修理することにした。

2012-03-16 04ペン先は左画像のように切り割りが斜めになるほどひん曲がっている。これは両側のペン先をペンチで挟んでクネクネしている時に片方に捻ってしまったのであろう。

ペン先をペン芯と分離してからでないとこの修理は無理だが、それをペン芯の上に載せたままでやろうとして挫折した・・・と見た。

モトクロスで飛び越える小山のように左右が不均等にひん曲がったペン先に、ペンチの挟む部分の傷がベコベコについている。Blogネタ不足でなければやらなかったかもしれない・・・

修理方針としては、まずは曲がりを真っ直ぐにし、ペン先のねじれを片方ずつ元に戻す。次にスリット内側を番手の荒いペーパーで真っ直ぐに研ぐ。さらにペン先の外側を円弧状に削ってしまう。次に表面の凸凹が目立たなくなるまでサンドペーパーで表面を研磨したうえで金磨き布で鏡面状に磨く。最後に、これもギタギタになったペンポイントを成型する。一気に説明すればこれだけだが、これには気の遠くなるような時間が必要だった・・・

2012-03-16 05斜面を削るので、ペン芯が横からはみ出さないように先端部の巾を狭めてある。上が今回加工したペン芯で、下が通常のペン芯。

下の方が色が濃いのは、(おそらくは)過去にインク誘導液につけて、そのまま洗浄しないで保存していたから。インク誘導液ってこれが魅力!

またセーラーのペン芯は左右対称ではない。この非対称さが筆記時のインク途切れを解消してくれるとの説明を、10年以上前のペンクリで聞いた記憶がある。その時には深く納得したものだが、既に理屈は忘れてしまった・・・

2012-03-16 06こちらが苦闘3時間で修理が終わったペン先単体画像。もちろん表面の24金鍍金はあとかたもなく消えてしまった。

一番苦労したのはペン先の捩れ。先端部内側を平面に研いだヤットコとボーグルーペで細かい捻りを続けているうちに、何度か肩と目が痙攣した。

スリットもミシシッピ川のように蛇行していたので、1200番のペーパーを突っ込んで蛇行を全部削り取って直線にした。これ以外に蛇行を直す手段はなかったのだが、思ったより綺麗に仕上がった。

2012-03-16 072012-03-16 082012-03-16 09ペン先の拡大図。先端部はタコスペ・コレドM風に背面を丸めてある。かなり先端部付近が細くなっているので、その付近から急に柔らかいタッチになる。

セーラー本来の書き味ではないが、これはこれでおもしろい・・・というか、比類なきほど麗しい書き味になった。怪我の功名!

最後に、ペン先刻印について述べてみよう・・・


2012-03-16 10http://ja.wikipedia.org/wiki/%E6%A1%90%E7%B4%8B

上記のアドレスをクリックすると説明が記載されている。五七桐(ごしちのきり・ごしちぎり)と呼ばれるもので、現在では首相などが使っているらしい。

これによって、この萬年筆が、内閣総理大臣から賜った功労賞であると言うことが判明した。噂は本当だったことになる。


【 今回執筆時間:6時間 】
画像準備1h 修理調整4h 記事執筆1
h
画像準備
とは画像をスキャ ナーでPCに取り込み、向きや色を調整して、画像ファイルを作る時間
修理調整
とは分解・清掃・修理・ペンポイント調整の合計時間
記事執筆とは記事を書いている時間


Posted by pelikan_1931 at 08:00│Comments(5) このエントリーをはてなブックマークに追加 mixiチェック 萬年筆調整 
この記事へのコメント
もりもりさん
お楽しみに!
Posted by pelikan_1931 at 2012年03月26日 03:37
そうでしたか、それは良いことを聞きました。
WAGNERのニブの刻印はどのようなものになるか見てみたいですね。
Posted by もりもり at 2012年03月25日 20:50
もりもりさん

セーラーである程度のロットを頼めば(20本程度?)ペン先にレーザーで刻印を入れてくれます。もちろん萬年筆毎の発注になりますが。
現在 WAGNER 2012 か WAGNER 2013 を 検討中。もちろんペン先には特殊な刻印を入れます。
Posted by pelikan_1931 at 2012年03月18日 10:05
1
ま、ペン先を壊したから安くオークションに流したのでしょう。
買った人も相応の値段で。でなけりゃこんなモン入手できん。

それに対して文句言っちゃイカン!
軸だけでも、相当の価値モノ。
Posted by miko at 2012年03月18日 01:15
これは、かっこいいなぁ、
ニブに自分の家紋を入れるサービスないかなぁ。
Posted by もりもり at 2012年03月17日 11:21