2012年03月23日

金曜日の調整報告 【 Pelikan #500 14C-M インクが乾く・・・】

@01本日の生贄はPelikan #500。Pelikan社が日本向けにだけ#500という名称で販売したモデル。話ではPelikan 400の再販売と間違われてはならないという配慮もあったとか。ちなみにPelikan Book(古い方)によれば、日本ではM500という名称で、日本以外ではM400という名称で販売されたとの記載がある。輸入筆記具カタログ【The Pen】に記載のあるPelikan #500という名称の【#】は、どうやら日本でだけ用いられた記号らしい。そういえば、いつもまにやら【#】は【M】と日本でも表記が変わっていた。

@02@03発売当初のPelikan #500のペン先はヘロヘロに柔らかかった。おかげでペン先をダメにする人が続出し、14C-Mというような表記はいつしか14C-HMというHardを表すHが前に付けられていた時代もあった。

そのうち、Pelikan M250と同じ硬いペン先になって14C-Mという表記にもどったのではなかったかな?まったくPelikanに興味が湧かなかった(というか困ったペンという認識しかなかった)時代だったので記憶も定かではない。

この個体に付いているペン先は、そのM250時代のモノ。#500のペン先が柔らかいと血眼になって捜している人は多いが、現在市場にある90%以上は、このM250と同じペン先がついている#500じゃ。拙者は形状を見れば画像でもほぼ判断できるが、#500のペン先を画像だけで見分けるのは普通の人には相当難しい。

常識的に考えて萬年筆愛好家が柔らかい#500のペン先を入手したらまず手放さない。軸を手放すとしてもM250のペン先を入手して、そちらと交換してからオークションに出品すると考えるのが妥当じゃ。

M250のペン先にしても先端部の形状がかなり醜い。スロープが綺麗な曲線になっていない。これは見栄えを良くする意味でも、柔らかさを演出する意味でも研磨する必要がある。

@04@05こちらは横顔。驚いたことにMなのに円盤研ぎのような形状になっている。書いてみてもグリグリゴリゴリしてまるで程度の悪いParker 75のような書き味。しかも上品さのかけらもない。これが調整を施さないM250の一般的書き味なのじゃ。#500のヘロヘロとはまったくの別物。依頼者は大きな失望を受けたことであろう。

多少Stub気味の方が依頼者の好みにあってるようなので、ペンポイントの厚みを減じておく。また気持ちの良い筆記角度を多少低めにして、そこを使おうとしたときに(寝かせて持つことによって)筆圧が下がり、結果として書き味が良くなるように研磨する。【書き味】はペン先と筆記者との関数で表現できるモノであって、決して萬年筆固有の値ではない。

@06拙者を悩ませたのが、インクの乾きが早いという現象。これは今までに経験したことはない。また最近の会員の実験でもM200のペン先の乾きの遅さは、スリップシールの本栖と同等と報告されている。すなわち最近のPelikanは乾燥にも強いはずなのだが・・・

ということで首軸と密着するインナーキャップの形状を比較していたところ、どうもうまくない・・・。インナーキャップに首軸のカーブが線でしか接してないので、すこしでも緩むと空気が入ってしまうかも?効果の程はわからないが、インナーキャップの内側を研磨して、首軸と面で接するように改良してみよう。

@07こちらが、インナーキャップの内側を研磨し、そこに首軸を突っ込んだ状態。ごらんのようにぴったりと面で密着している。これなら乾きも遅いはずなのだがな。

ちなみに現行の首軸先端部が金属のM300〜M1000では問題はない。M200でも前述のように本栖と同等レベルの気密性を持っているということなので、#500に固有の問題なのかもしれない。それが改良を重ねて現在の形状になったのかも?M200のイエローデモで確認したところ、首軸先端部に金属はついていないが、#500のラッパ型の尖った形状ではなく、側面が平らになっている。どうやらこのあたりが乾燥に強くなったポイントなのだろう。

外見の好みはともかく、内部機構は常に改善されている。これが拙者が古い萬年筆に傾倒できない理由じゃ。萬年筆の修理をしているとその事がよくわかる。ローテクだからこそ歴史の積み重ねも必要なのじゃ。ポッと出のメーカーがどこかにトラブルを抱えているのも至極当然。長〜〜〜〜い目で見てあげましょう。

@08@09@10こちらが多少柔らかく調整したペン先。裏研磨や表研磨ではなく、側面研磨だけ。金を薄くしてヘロヘロにするのではなく、インクフローとタッチとによってガチガチ感を減じようというのが最近の拙者のやり方。側面研磨によって多少は当たりが柔らかくなったのでな。

昔は削りまくっていたのだが、いつしか、元の美しい形を残そうという意識に変わってきた。これも歳をとったせいかもしれない。


【 今回執筆時間:3.5時間 】 画像準備1h 修理調整1.5記事執筆1h
画像準備
とは画像をスキャ ナーでPCに取り込み、向きや色を調整して、画像ファイルを作る時間
修理調整
とは分解・清掃・修理・ペンポイント調整の合計時間
記事執筆とは記事を書いている時間

Posted by pelikan_1931 at 07:30│Comments(3) このエントリーをはてなブックマークに追加 mixiチェック 萬年筆調整 
この記事へのコメント
BCNRさん

キャップを外したままの使用中に、思考中などでそのままにするとすぐにインクが乾いて、書き出しが掠れる・・・・

というのは、Mより太い場合には普通です。細字や極細でスイートスポットが無い調整であれば、まずは絶対に掠れません。またインクによってもことなります。

おそらくは思考中にペン先を上に上げているのではないかな?以前のスリットであれば、上にしていればインクは下がるはずじゃよ。
Posted by pelikan_1931 at 2012年03月26日 03:14
お師匠様、お忙しい中調整ありがとうございました。

ヤフオクで、初期型軟ニブという事で入手したのですが、やはり師匠の言われる通り、
残念ながらM250用ガチニブでした。出品画像だけで判別するのは至難の技ですね。

でも師匠の調整のおかげで、快適に使用できそうです。

ところで、調整申請用紙にハッキリと書かなかった私が悪いのですが、
インクが乾くというのは、キャップをはめた状態で使用時にインクが乾いているのではなくて、
キャップを外したままの使用中に、思考中などでそのままにするとすぐにインクが乾いて、
書き出しが掠れるというものです。

でもたぶん、師匠の調整でその現象も収まると思っています。

では、6月の中部地区大会でまたお会いできることを楽しみにしています。

どうもありがとうございました。


Posted by BCNR at 2012年03月23日 21:17
まれにですがネットオークションで初期型の軟調ニブモデルは目にします。では後期モデルはどうか?と思い14CーHM(マイチェン後初期ニブ?)を探し始めると殆ど見かける事がありません。書き心地は別にして初期ニブ以上にレアモノかもしれません。M250ニブ(マイチェン後後期ニブ?)は多いのですが。期間的に短い期間しか作られなかったのでしょうか?
Posted by すいどう at 2012年03月23日 20:41