2012年03月30日

金曜日の調整報告 【 Parker Dofold 14K-F 吸入復活 】

2012-03-30 01本日の生贄はVintageのParker Duofold。戦時中のMontblancやPelikanのようにキャップリングが単なる刻みになっている。本来なら金属リングのはずなのだが・・・ひょっとすると米国でも金属の統制をやっていたのかな?米国製品に戦争の影は無かったと思い込んでいた。

軸にもMade In U.S.A. との刻印があるので、英国やカナダで製造されたモノでないのは事実だし、そもそも金ペン先付きだしなぁ・・・と思ってキャップリングの部分をルーペでよく見たら、金属リングが2本とも外れてしまっただけで、元々はリングが入っていたとわかった。

それにしてもかなり擦れが目立つボディじゃ。ここは一発【サンエーパール】で磨いて表面をピカピカにしておこう。

2012-03-30 022012-03-30 03ペン先は大型で分厚い。往年のDuofoldらしい形状と、圧ちゃんの筆圧でもビクともしない力強さにあふれている。ところがペン先のハート穴より先端よりには数多くの傷がある。何かにぶつけたのであろうが、かなり深い傷!

これも可能な限り削り取って磨いておこう。元々が肉厚のペン先なので少々の研磨は誤差の範囲じゃ。

2012-03-30 04こちらはペン先先端部の横顔。とりあえず形だけ整えたという程度の研磨状態。当時は、ここから皆さんで書き込んでいけば、書き癖になじんで良くなりますよ・・・という神話があったのかもしれない。このペンポイントの粒子は粗く、かつ、それほど硬くはない。すなわち、いくら研磨してもザラザラ感は少ししか和らがないし、筆圧をかければ、かなりの勢いですり減っていく。

強筆圧でもビクともしないほど丈夫なペン先ではあるが、筆圧をかけないでシュルシュルと筆記するのが適した萬年筆といえよう。過去の経験でも、そういう書き方をする時のDuofoldは極上の筆記感を提供してくれた。残念ながら拙者の所有物ではなかったが・・・

2012-03-30 05インクが出ないとのことであったが、中のプレッシャー・バーは生きていた。というかこれが死んでいたら修理不可能であったろう。

これと同じタイプのプレッシャーバーは現在では部品として販売されていない。拙者としては錆は全て取り除きたかったのだが、研磨するとそれだけ耐久性がなくなりそうなので、金磨き布で表面の錆だけを取り除いた状態で再利用することにする。

2012-03-30 06インクサックはドロドロに溶けていたので、新しいサックを短めに切り、自家製シェラックで首軸後端部に貼り付けてから、パウダーをまぶした状態が左画像。このパウダーを塗ることによって、サックがプレッシャーバーとひっついてしまう事が防げるのであろう。この作業は今までに何百回もやってきたが、非常に楽しい作業の一つ。ああ、直っていくなぁ・・・という充実感がわき上がってくる。

2012-03-30 07こちらは傷を削り取り、表面を金磨き布で研磨したペン先。これも非常に美しい。先端部が赤色変位しているのは、お辞儀しているから。首軸内に隠れている部分には、ペン先と同じ番号が横書きで刻印されている。特許番号か何かかな?

研磨してみると金には間違いないのだが、何故か14Kという刻印がどこにも無い。これは依頼者も困っていたが、なにか理由があるのだろうか?ご存じの方がいらっしゃったら教えて欲しい・・・


2012-03-30 082012-03-30 09こちらが調整後の横顔。書き癖の合わせてペンポイントを研磨した。柔らかくてザラザラしたペンポイントなので、細かく状態をチェックしながら研磨した。

インクをつけて書いてみると、Parker や Sheaffer が全盛期の萬年筆の書き味!筆圧をかけてもビクともしないような大型ペン先先端部から、インクがコンコンと湧き出てくる。まさにインクが紙の上に盛り上がるような細字筆記が出来る。1950年代のMontblanc No.14Xの対極にある書き味だが、どちらかといえば拙者はParkerの書き味の方が好きだ。古山画伯もそのような事をおっしゃっていた記憶がある。

2012-03-30 10最後に軸をサンエイパールでゴシゴシと磨いてみた。上が磨く前、下が磨いたあとじゃ。肉眼で見ると表面はビカビカに輝いて見えるようになった。ただ、10分ほどしか擦っていないので、これを2時間ほど繰り返せば、【何物〜コレは?】という輝きを持つであろう。【サンエーパール】はamazon.comでも800円ほどで購入できる。これをも持たないで萬年筆愛好家を名乗って欲しくない。萬年筆のメンテナンスには必須の磨き粉じゃ(元々は時計のガラス磨きだったとか)。


【 今回執筆時間:3時間 】 画像準備1h 修理調整1h 記事執筆1h
画像準備
とは画像をスキャ ナーでPCに取り込み、向きや色を調整して、画像ファイルを作る時間
修理調整
とは分解・清掃・修理・ペンポイント調整の合計時間
記事執筆とは記事を書いている時間

Posted by pelikan_1931 at 08:00│Comments(8) このエントリーをはてなブックマークに追加 mixiチェック 萬年筆調整 
この記事へのコメント
シロウさん
それでは、ペントレでお待ちしております。
Posted by pelikan_1931 at 2012年04月01日 11:12
師匠、入念な調整、ありがとうございます。

>Parker や Sheaffer が全盛期の萬年筆の書き味
実際に使用するのがすごく楽しみです。筆圧をできる限りかけないで
使って行きたいと思います。大宮は、仕事があって参加できませんので
ペントレの時に受け取りたいと思います。

Mont Peliさん、だぶるさん、情報どうもありがとうございます。
金の品位表示がなかったことや、シリアルナンバーのこと、
大変勉強になります。しかし、1つ1つのペン先に2箇所も
シリアルナンバーを刻印していたとは、非常に手を掛けて作っていたのですね。
Posted by シロウ at 2012年04月01日 00:17
Mont Peliさん、ダブルさん

ありがとうございました。
それにしても一枚一枚のペン先にSerial番号を振る。しかもペン先表面がすり減った場合も考えて首軸内部に隠れるところにも刻印を入れるというのには驚くというか、あきれました!
けっこうノリの良い会社だったんですね。
Posted by pelikan_1931 at 2012年03月31日 12:01
とみっくさん
大宮でお待ちしております。
Posted by pelikan_1931 at 2012年03月31日 11:58
serial numberのエヴィデンスをお求めということであれば、
1.既出書(PARKER DUOFOLD)の164頁に1928年のPearl and Blackの発売に合わせてserial number付きニブを導入した記載されています。
2.http://www.pensandwatches.com/nibs.htmlの販売品(N769)の同種ニブにserial number付きとの商品説明あり。
他にもネット文献などでこれを裏付ける資料は多々あります。
Posted by Mont Peli at 2012年03月31日 05:29
5
主要国の特許をしらべましたが、該当はありませんでした。
やはり、シリアルナンバーのようです。
Posted by だぶる at 2012年03月30日 22:02
>ペン先と同じ番号が横書きで刻印されている。特許番号か何かかな?
これは、serial numberでSheaffer社のLIFETIME nibに触発されたものです。
(1932年には、2色染め分け仕上げのDuofold nibも出したのですが、Sheaffer社に裁判に訴えると脅されて製造を中止したなんてこともありました。Parker社も結構パクってますね。)

>何故か14Kという刻印がどこにも無い。
David Shepherd & Dan ZazoveのPARKER DUOFOLD(pp.164-165)を見ればわかるのですが、USA madeのDuofoldニブには14Kなどの金の品位表示はありません。
これは、SheafferやWatermanについても言えることで、1920年代&30年代のアメリカでは14Kが金ペンの「デファクト・スタンダード」だったので、刻印が無くてもリーフレットなどに記載して顧客に周知できれば良いという風潮だったのではないでしょうか。
Posted by Mont Peli at 2012年03月30日 12:27
「サンエーパール」は、時計のアクリル製(人工硝子)の【風防】磨き用として持っています。
万年筆に使うとは何とも感慨深いです。

水道橋のワグナー定例会の時にペリカン140を診て頂いたものです。
140・・・中々入手出来なくて難儀しています。

最近、「万年筆は刃物」「続 万年筆は刃物」を発見し、プリントアウトして勉強させてもらっています。
シェーファーのレガシーへリテージを購入したのですが、起たせて書かないとインクが途切れ掠れます。×15のルーペでペン先を覗き込んで心構えの上触るようになってきましたが、楽しいです。
実は、水道橋の定例会の時に同行してくれた次男にタルガを買ってから、インレイニブが欲しくなって買い求めました。
レガシーへリテージは筆記感も滑らかでないので、大宮のペンクリニックで調整をお願いしたいと思っています。
どうぞ宜しくお願いします。
Posted by とみっく at 2012年03月30日 11:53