
拙者が愛用し、萬年筆研究会【WAGNER】の定例会で皆さんに試筆してもらっては調整狂いを微調整し、ほぼ完璧になったものが、ほぼ全てお嫁に行ってしまう。それらには安い値段はついていない。
オークションでなら新品をもっと安く買うことが出来るような値段がついている。箱はないし、よく見ればスレくらいは当たり前についている。要するに【売りたくないよ】という価格設定で、書き味自慢をしているものなのだが、これが2日目に限り嫁入り日和となる。
さんざん試し書きしたあとで、勇気を振り絞って決断されるようなのだが、こちらは【へっ?買うの?】てな反応となる。お嫁に出して嬉しい気持ちを上回る喪失感があるのじゃ。
しかたなく他の萬年筆を引っぱりだして慣らしを始めるわけだが・・・今回の第一号はPelikan Golf。ご存じPelikanの限定品の中で最も人気が低いモデル。今回も新品未使用18C-M(PF)を30,000でペントレに出していたが、約1名を除いて誰も手に取ろうともしなかった。Golf=ダメ限定品という烙印を押されているらしい(もっとも拙者とらすとるむさんが押した烙印かもしれないが)
ただ一人の例外が【世界の萬年筆】の著者である【中園宏】先生。既に萬年筆から和時計を経由して、現在では大相撲グッズのコレクターとして有名で、有名な行司の衣装などもお持ち。
物を見る眼力はお持ちだが、最近の萬年筆事情には疎い(はずの)中園先生が拙者のブースにいらして50本ほどの萬年筆を一本ずつ時間をかけて検分された。そして【これは良く出来た萬年筆ですね。インク付けて書いてみて良いですか?】とおっしゃたのがPelikan Golf 18C-M(PF)だった。通常、未使用の展示品は試し書きNGというのが萬年筆研究会【WAGNER】の暗黙のルールだが、今回は中園先生が選ばれた萬年筆に意外性があって、【良いですよぅ〜】と答えた。
先生は丁寧に試筆され、【いいバランスの萬年筆ですねぇ、書き味は酷いけど・・・】とおっしゃった。これにはショックを受けた。調整済みだったのだ・・・


そこで今後、ミニ・ペントレに出す萬年筆はほぼ全て調整後の自信作だけにしてみようかと考えた。手始めに中園先生絶賛のPelikan Golfを、(どーむ商店の看板商品のように)、毎回展示し、いろんな人と【こんなもん誰が買うの?】【い〜んです。看板商品が売れたら看板なくなってしまうでしょ!】というどーむ説法を楽しもうと思う。
そして毎回何人かにインクを入れた状態で数分間試筆してもらう。そうすると毎回調整が狂う。それを自宅で微調整を繰り返す。この10人から20人の方とやりとりすると、書き味は徐々に上昇していく。自分の手にだけ最高の書き味だった萬年筆が、万人に感動を与える書き味に変化していく。その最高潮の瞬間に試筆した人だけが至高の書き味を手に入れられるという図式じゃ。

こう持つと力が抜け、筆圧ゼロでの筆記が可能となった。これを何人かに書き癖を付けてもらい、その度に微調整を繰り返すことによって、数ヶ月後にはすばらしい書き味となり、拙者をさんざん楽しませてくれたあとで、4万円くらいでお嫁に行く・・・のだろうなぁ。
1万円の付加価値を10〜20人の人につけてもらう・・・ということになろうか。購入時の価格は450ドル程度(当時の相場は90円/ドル)なので、未使用箱付が中古になっても値段が変わらない、ドル相場で考えれば、むしろ値上がりしている!ということになる。
実は同じような状態で慣らし運転中の物が何本かある。

そこで一本新品を引っぱり出してきて調整し、実用に供している。まだまだ完璧な書き味ではなく、尖った書き味じゃ。これを何人かに使ってもらうことによって、いつかはお嫁に行ったブツよりも悦に入る書き味に変化するだろうと期待している。おそらくはあと三ヶ月ほどかかりそう。

おそらくは今まで手にした1万本近くの萬年筆の中で、最高に手に馴染む萬年筆5本のうちの1本!他の4本は、Sheaffer、Pilot、Montblanc、Pelikan各一本。全て1983年以降のモデルで全て限定生産品。(限定品とは限らないが定番品ではない)

なを初めて未調整の萬年筆を長期間使ってわかったのだが、普通の持ち方で書くのであれば、Pilot 742 14K-Mに調整を施す必要はまったく無いということ。相当筆記角度や捻りに対する許容度があるのに驚いた。筆記角度70度から80度くらいで筆記すれば、名人調整よりも萬年筆らしい書き味に研がれている。滑らずひっかからず、独特の紙への食いつき具合も抜群。ヌラヌラの研ぎに慣れてしまうと、忘れてしまいがちな萬年筆本来の書き味。これを思い出させてくれるこのPilot 742だけはミニ・ペントレに並ぶ事は今後ともあり得ないはずじゃ。調整のベンチーマーク用として一生使い続けるであろう。

拙者は金ペン堂さんの名言、【ペン芯はインクの味を覚えるから、一度インクを決めたら絶対に変えるな!】というのは、実はParker 75を前提とした話だろうと勝手に想像している。
インクの種類を変える際の首軸内部の完全清掃にかかる時間は、Parker 61の比ではない。特にブルーブラックを入れていた古いparker 75の清掃には気が狂うほどの工数と時間がかかる。洗ってもティッシュを突っ込んでふいても・・・いつまでたってもインクが出てくる。最近ではアスコルビン酸を濃く溶かした熱湯を試験管に入れ、それに首軸を尻側から沈める。そうすると完全清掃したはずの首軸から青い液体が一筋上に立ち上っていく。それが途切れたところで試験管を指で塞ぎ激しく上下に撹拌する。この作業1回にかかる時間が1時間ほど。これを10〜20回繰り返せば、首軸内部は完全に綺麗になる。なを10回のうち1回はロットリング洗浄液で、1回は超電解水をアスコルビン酸水溶液の代わりに使っている。
