2012年04月30日

月曜日の調整報告 【 万年筆博士 鼈甲&エボナイト 14K-B 曲がった! 】

01今回の依頼品は万年筆博士の鼈甲&エボナイト軸。2001年11月に万年筆博士に注文したものらしい。ということは職人は田中さんということになる。たしかに田中さんらしいほんわりとした曲線の萬年筆じゃ。

よく職人さんは無口・・・と言われるが、こと萬年筆職人には当てはまらないようで、みなさん口が達者!田中さんも例外ではなかった。お会いする度に興味深いお話しを面白おかしく語ってくれた。

0203依頼者は、この大柄の萬年筆をキャップを取った状態で床の上に落下させてしまったらしい。

パイロットはOEMでのペン先供給には積極的ではないが、何故か万年筆博士に対してだけはペン先を提供している。おそらくは15号ペン先だけ。それより小さなペン先はセーラーが提供しているが、いずれもが14金ペン先。万年筆としての基本の能力だけを考えれば、14金ペン先が最も万年筆に適しているというのが先代社長のポリシーらしい。金の含有量が増えるほどペン先の戻りが悪くなるのは事実なので決して間違ってはいない。

0405それにしても見事に曲がったものじゃ。またずいぶんとコテ研ぎになっている。実は以前の田中さんの研ぎは紛れもないコテ研ぎだった。それが【筆記角度に忠実に研ぐとかえって引っ掛かりが出る】とおっしゃって研ぎ方を変えられたのは2003年~2004年くらいだったと記憶している。

実は極太ならコテ研ぎで十分。事実Zoomなどはコテ研ぎといっても通用するほどペンポイント上の平面が広い。その腹と先端部を少し丸めさえすればヌラヌラの書き味が体験できる。そして平面を丸めるほどにヌラヌラ感は減っていく。このひっかかりとヌラヌラの狭間の中に極太の書き味がの秘密が秘められている。

ただ数々の調整師の手にかかった萬年筆を何本も所有している依頼人には、このペン先の書き味が没個性に感じられたらしい。そこでひん曲がったのを機に、今までとは次元の違う書き味に味付けしてみよう。字を書くための萬年筆ではなく、書き味を楽しむための萬年筆。書いているだけでドーパミンが出てきて幸せになれる・・・そういう書き味にしてみよう。

06ペン芯はパイロットの15号ペン先用。このペン芯はセーラーのような冒険はしていないが、実にインクフローが安定し、ボタ落ちもほとんどない。

テストしてみたいのは筆記中の息切れだが、それだけ書く間にこちらが息切れしてしそうなので止めておこう。もうすこし首軸の中でキッチリと固定される方が安心できるなぁ。

07曲がった部分をヤットコで真っ直ぐにし、その上を耐水ペーパーで平らにしてうねりを無くする。そして最後に金磨き布で表面を擦ってピカピカに磨き上げる。

万年筆博士のペン先には無駄な装飾が少なく非常にシンプル。このシンプルさが非常に好き!拙者はバイカラーのペン先は好きではないので、万年筆博士のペン先にはほれぼれしてしまう。


0809左はペン芯に乗せない状態、右はペン芯に乗せた状態のペンポイント。ペン芯に乗せるとペン先が少し開くのがわかるかな?これはペン芯がペン先に密着している証拠。

今回はペン先を開き気味にして【潤沢なインクフローが好きだがヘロヘロの筆記感が好きではない】という依頼者向けに調整した例じゃ。ペン先の開きが戻ろうとする力をペン芯が支えているので、両者の間には常に力が作用しており、それが締まりのある筆記感を醸し出してくれる。

10こちらが曲がりが完全に消えたペン先。コテ研ぎの上と下を丸めて引っ掛かりをなくした。これでシャキっとした書き味になる。なをかつヌラヌラ感じは減じられることはない、いやむしろ増している。それでもインク切れが無い・・・という調整は実は非常に難しいはずなのだが、このペン先だといとも簡単に成功した。動きが単調な14金ぺん先だからこそかもしれない。とすればますます14金ペン先に嵌まってしまいそうじゃ・・・


【 今回執筆時間:3時間 】 画像準備1h 修理調整1h 記事執筆1h
画像準備
とは画像をスキャ ナーでPCに取り込み、向きや色を調整して、画像ファイルを作る時間
修理調整
とは分解・清掃・修理・ペンポイント調整の合計時間
記事執筆とは記事を書いている時間

Posted by pelikan_1931 at 17:00│Comments(5) このエントリーをはてなブックマークに追加 mixiチェック 萬年筆調整 
この記事へのコメント
お返事ありがとうございます。
近々開催予定の、博多でお邪魔できればと思っておりますので、
直し方をお教えいただきますと幸いです。
Posted by 木村 祐介 at 2012年05月28日 15:54
木村祐介さん
ひんまがってどうしようもないようなのは対象ですが、美観のようなものは、自分でやっていただきます。指導はしますが。
Posted by pelikan_1931 at 2012年05月27日 09:33
5
この記事を拝見して、あまりの修理の鮮やかさに感動しました。
落下により大きく曲がってしまったペン先が、ここまで美しくなるとはお見事です。

実は、小生も1本だけ落としてしまい、メーカー殿に修理いただいたペンがあります。書き味は申し分ないのですが、ペン先の波打ちが気になり、かつペン先が(本当に微妙ですが、)右に曲がっているのを何とかしたいと思っていました。

メーカー殿に再度お願いしても、「外観上の問題は有償交換となります。」とのお返事。

WAGNER殿のペンクリに持参して、直していただけるものでしょうか?
お返事いただけますと幸いです。どこかにペン先の現状写真をアップしてもOKです。
Posted by 木村 祐介 at 2012年05月23日 22:06
お楽しみに!
Posted by pelikan_1931 at 2012年05月02日 16:35
まさかの落下事故で「あれーっつ!」と思った時は手から滑り落ちていました。落下事故は外になく後にも先にもこれ一本のみ。普段から気を付けていたのですが、起こる時は起こる。

それを見事に直していただいた上、わがままな調整のお願いも聞いてもらって大満足です。「シャキッとした書き味で、ぬらぬら感は減らないどころか増えている」とは。どんな感じに変わったのか手に取るのが楽しみです。ありがとうございました!
Posted by yamamoto at 2012年05月02日 14:13