水曜日の調整報告 【 Cartiea ルイ・カルティエ 18K-M ペン芯曲がり 】

今回のブツは
ニ右衛門半氏よりの依頼品。数年前に萬年筆研究会【WAGNER】に登場した頃は、
ニ右衛門半氏は
ドロドロとか、ニコイチどころか
ゴコイチくらいの不可思議な万年筆を持って登場し、会場の話題をさらっていたものだが、最近では少しニュアンスが変わってきている。
ドロドロ系は【
半一族】の若手の独壇場となり、ご本家はいたってまともに見えるが実はとんでもない!というブツに趣味がシフトされているらしい。今回も予想に違わずエエモンを見せて貰った。
一見するとカルティエの逸品であるルイ・カルティエ。カルティエがデザインし、モンブランが製造したと言われている逸品。ベースはNo.146で当時のMontblancが限定品シリーズで磨いた技が投入されていたのだと想像している。まったく破綻のないすばらしい万年筆なのだが、一箇所だけ手抜きがある。


ペン先の模様は完璧!特にペン先の刻印(紋様)の頂点部分に切り割りが入っているのがポイント。Sheafferに爪の垢でも煎じて飲ませたいほどだが、
そうなったらSheafferの魅力が半減するとは
どーむ氏の名言!
ペン先だけからはMontblancの臭いはあまりしない。ペンポイント付近の仕上げはOmasやViscontiに近いようにも思われる。ルイ・ヴィトンの萬年筆をオマスが製造した際は、ペン芯はスティピュラと同じプラスティック製ペン芯を使っていた。実は、このルイ・カルティエにも同じペン芯が使われている。


オマスもMontblancも回転吸入式の萬年筆が主力なので、回転吸入式用のペン芯に注力して設計している。従ってカートリッジ・コンバーター式のペン芯は外注に出していると考えても不思議ではない。
それにしてもナメクジのように曲がったペン芯は何よ!これでこそニ右衛門半氏が嬉々として持ち込んだ萬年筆じゃ!こちらも嬉しくなった。これならすぐに直る!なんせニ右衛門半氏がペンクリに持ち込まれた萬年筆で修理できた物は今までに数本しかないのじゃ。

右からキングプロフィット、WAGNER 2009、ルイ・カルティエ、No.146のペン先。大きさ比較のための参考画像。左の3つはまったく同じ大きさ。驚くことに首軸内部に隠れてしまう部分の長さまで同じ。国産なら首軸内部の長さを短くする設計変更を施すし、現在のMontblancはコストカット穴を開けているが、この当時はルイ・カルティエもNo.146もコストカット穴が無かった。ちなみにWAGNER 2009は文字通り2009年にSanatorに委託して作って貰ったが、金の価格が急上昇する直前に発注したのでコストカット穴は無い。

こちらがMont Peliさんの要望に応えてUpしたルイ・カルティエのペン先の右下に刻印されていたマーク。高倍率のルーペで凝視してもこれ以上鮮明な画像は得られなかった。ホールマークの一種かな?よくわからない・・・

No.149にコストカット穴が空いたのは1991〜1992年頃。ヘミングウェイのペン先には立派なコストカット穴が付いている。ではこのルイ・カルティエはいつごろか?とクリップを見ると、これが贈呈された日時が刻印されている。DDMMYYかMMDDYY表記かはわからないが、1995年であることは事実。すなわちNo.146系でのコストカット穴事件以降。ということはこのペン先はOEM生産だと考えるのが妥当であろう。Montblanc製ならコストカット穴があている可能性が極めて高いからな。


似たようなペン芯を並べて見た。一番上と一番下とでは微妙に設計が違う。今回のルイ・カルティエにはスティピュラ用の一番下のペン芯が適合する。一番上はまったく首軸に入らない。
溶けて曲がった部分を見るとペン先の側が溶けている。これでどうして曲がったのかがわかった。新しいペン芯をセットしてペン先部分を見ると、ペン先とペン芯の間に隙間が出来る。
これを塞ぐにはペン芯をお辞儀させる、ペン芯を反らせる、あるいはその複合技が必要。いずれにせよペン先とペン芯を引き抜いてから作業を実施するのだが、以前の所有者は直接ペン先側を火で炙ったのであろう。
金の熱伝導率は非常に良いのであっというまに高熱が伝わり溶けて曲がった・・・はずじゃ。
セーラーのペンクリで、長原先生が濡らしたティッシュをペン先部分に巻いて、ライターで炙るというパーフォマンスをされていたが、それを素人が真似して同じようにペン芯を溶かした例もあった。
熟練のわざと訓練の伴わない物まねは天と地ほど違うので真似しないようにな。その昔、拙者も真似しようと温度計をティッシュで巻いて実験したが、温度管理があまりにシビアなので断念しヒートガンに変えた経験がある。


こちらが段差などを解消し、スリット調整も終わったペン先の状態。ペンポイントは特に研磨していない。何故ペン先が反っていたかといえば、ペン先が詰まりすぎていてインクが出ないから筆圧をかけすぎたのであろう。しかもこのペン先の素材は18金とは思えないほど硬い!従って一端曲げたら元には戻らない。何故にここまでペンを硬くしたのか?
それは57.2gという自重を支える為じゃ。No.146やNo.149は図体に比べて驚くほど軽いのだが、金属の塊であるルイ・カルティエは重い。その体重を支える為にペン先も組成を変え、硬くしたのであろう。
そう考えると萬年筆とペン先は同時に設計するべきものであり、首軸に合うからと言う理由で安易にペン先交換してはいけないな。反省!


こちらが完璧になった横顔。たまたまペン芯があったから復旧出来たが、もし無かったらお金をドブに捨てたのだろうか?
最近、オークションで萬年筆は専門ではないという理由でノークレームノーリターンを必要以上に強調するSellerがいるが、今回のようなケースでペン芯の画像が掲載されていなかった場合、返品には応じない・・・ということが古物商(プロ)が販売している場合でも言い張れるのだろうか?
【 今回執筆時間:3.5時間 】 画像準備1.5h 修理調整1h 記事執筆1h
画像準備とは画像をスキャ ナーでPCに取り込み、向きや色を調整して、画像ファイルを作る時間
修理調整とは分解・清掃・修理・ペンポイント調整の合計時間
記事執筆とは記事を書いている時間
Posted by pelikan_1931 at 10:00│
Comments(13)│
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萬年筆調整
もりもりさん
ありがとう!これで安心してあやしい物レースに参加出来ます。
ニ右衛門半さん
なるほど・・・納得づくで購入されたのですな。結果大正解でしょう。
全てを説明していなかったときは
返品できますよ。
ヤフー側の見解では
ノークレーム・ノーリターンとしていても、
商品について重大な説明不足のあった時
全てを説明していると言えないとき
返品できるという見解です。
どの部分まで説明すればよいかは過去に読んだ情報なのであやふやですが
必要な人は調べてみてください。
師匠、お手数かけさせました。
セラーは返品しても良いよ、との返事はいただいておりました。
表示としては
「スレ・多数の傷・くすみ・蓋にピン穴がございます。
ホルダー部にネームが入っております。」とだけ書かれていました。
ペン芯については但し書きがありません。
Mont Peliさん
見事!LFとは読み取れたのですが、それが創業者のイニシャルとはね!
菊襞慕情痔さん、しまみゅーらさん
あ、本当だ!キングプロフィットだ!確認不足で失礼!記事は直しておきました。
解読できました。
カルティエ社のmaker's mark(同社では、スポンサー・マークと呼称)でした。
CはCartierのイニシャル、LFは創業者のLouis Francois (アクセント記号は省略)のイニシャル です。
上の文字は、やはり、Steだと思います。
文字の間の図形は、よくわかりませんが、「ブリリアントカットされたダイアモンドの下に十字架」といった印象を受けます。
会員ではないので誠に失礼いたしますが、
4点のペン先写真の右端には、1911、21Kと打たれていますが...
キンプロのニブのようですね。
し、師匠、一番右は149ではなくキングプロフィットか何かかと…
ありがとうございました。初めてみるマークで、直ちには解読の糸口がつかめません。
認識できるアルファベットは、SとCとLFですが、真ん中の図形状のものが何をシンボライスしているのか読み切れません。
もしかして、真ん中の上の文字はSteではないかという気もします。
>セーラーのペンクリで、長原先生が濡らしたティッシュをペン先部分に巻いて、ライターで炙るというパーフォマンスをされていたが、それを素人が真似して同じようにペン芯を溶かした例もあった。
真似した素人ですf^_^;)。
Mont Peli さん
貼りつけておきました。オリジナルもなんだかぼんやりした形状です。
大変お手数を掛けますが、4種のニブ写真の左から2番目のカルチエのニブに刻印されている右下隅の楕円の枠囲み(maker's mark)のアップ画像をお願いできませんか?